02-09
その後、十数日ぶりにミユが帰ってきた。教室にミユの姿を見つけたナナは、こっそりと近づくと、背後からミユを抱きしめた。
「ね、ミユ、聞いてよ~。」
「わわわっ」
大げさに驚いたミユに、目、鼻、口…はさすがにないけど、あらゆるところから水を吹き出し、今までの事を報告するナナ。ミユがいない間に何が起こったか話そうとしたが、その前にミユはナナのおでこの辺りを手の甲で軽く叩いた。
「ちょ、ちょっと待って。検査入院してきた私に向かって、第一声がそれ?」
「ごめん。退院おめでとう。」
「遅い。でも、許す。」
ミユが叩いた所を今度は撫でる。
「でもでも、本当に久々。どうして、そんなに時間かかったの?」
「ちょっとセントラルまで行ってきてね。」
「セントラル!?えー、羨ましい。」
中央都市とは、ここの東方地域含む周辺国を統べる大国の、中心的な主都市であり大都会だ。
ここからセントラルまでへ行くには、険しい山道を通らなければいけない。早馬でも2日、魔法を使っても丸1日。通常ならば2回ほど馬宿に泊まらなければいけないところである。魔法技術の最先端を行くセントラルは、最新コーデなどの流行を知るのにはもってこいの場所であるが、ここからは、おいそれと簡単に行けるところではなかった。
「ずっと病院の中にいたんだから、羨ましくないわよ。それ以外も軽く拘束されてたし。」
「拘束!?そんなことやられたの?」
「ええ。軽く、だけどね。」
と、ミユは袖を捲って、まだうっすらと赤くなってる腕の痣を擦って見せた。
拘束。不穏な言葉を耳にして、ナナは固まった。
もしも途中でゾンビ化したとしたら、大変なことになるから、なのだろう。気軽な観光旅行などではなかったことをナナは察した。
「そう。大変だったね。それで、検査の結果はどうだったの?」
「体内にある余剰マナが不活性化してるし、ソルも損傷してないから問題ないって言われたわ。」
「うん、なるほど?」
流れでナナは調子よくうなずいたが。
「……意味わかって言ってる?」
「ごめん、わからない。」
疑問を持ったミユに、ナナは舌を出して素直に答えた。
「要するに大丈夫ってことよ。」
「そっか、よかった。」
検査の結果に安堵したナナは、軽い冗談をいう。
「ま、意外にしぶといミユが簡単に死ぬわけないもんね。」
「何その根拠のない自信。それにしぶといって。」
ナナより華奢なミユは笑った。
「別に、そう思っただけ。」
根拠がないわけではない。怪物が現れたときにはすでに逃げていた、その状況判断能力。冒険者にとって最も重要なスキルに、ミユは長けているからだ。だが、ナナはそれを口にするのをためらった。深い理由はない。ただで褒めても何か面白くなかったからだ。
「で、私に言いたかったことがあるんじゃないの?」
「そうそう。それでね。」
ナナはミユがいない間に何が起こったか、今までの事を全部を話した。
「へー、ニンニク効かなかったんだ。」
「ね、おかしいでしょ。」
ナナは前に身を乗り出してミユに訴えかけるが、ミユは極めて冷静に返事をした。
「別におかしくないわよ。人間にも苦手な物ぐらいあるよね。例えば、ここら辺では有名な山菜。」
「ああ、アオヨモギね。私は好きだけどね。それが?」
「ね。苦手な人は多いけど、すべての人間がアオヨモギが苦手ってわけじゃないでしょ?」
「そっか。ニンニクが苦手な吸血鬼は多いけど、全部の吸血鬼がニンニクが苦手ってワケじゃない。つまり、好みってことね。」
「そういうこと。」
しかし、ナナはまだ納得のいかない様子であった。
「う~ん?そんな単純な理由かな?なんか納得できないわ。」
「じゃ、他に何が考えられるのよ。」
「そうねぇ。」
ナナは男のことを考えていた。あの情けない男の事だ。何もかも中途半端に違いない。
「あ、わかった!あいつがなぜニンニクが平気なのか。変態だからよ。」
「ええっ!?それこそ答えになってないじゃない!」
何の理由にもなってない発想にミユは驚きの声をあげたが、ナナにはナナなりの根拠があった。
(そう、あいつは変態だから。変態だから、吸血鬼としても中途半端だし、人間としても中途半端なんだわ!)
ミユの困惑をよそに、ナナはそれが一番最適な答えだと、結論付けた。




