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02-07

そして、作戦決行の日。


 ニンニクの芽を使った肉野菜炒めとサラダを新たに加え、試作型よりニンニクマシマシにパワーアップしたお弁当。


(それにしても、これは……ちょっと匂うわね。)


 室内に立ち込めるニンニクの香りに、少しやりすぎたのかもしれないとナナは反省する。

 料理をこれでもかというくらい詰めて閉めていても匂いが漂ってきそうな箱を、完全封印するように厳重にラッピングして鞄の中に忍ばせておいた。


 ここまであからさまなニンニクの存在感では、さすがに食べてもらえないかもしれないが、そんなのは端から期待はしてはいない。『や、やめてくれ!ニンニクは苦手なんだ!』と、情けなく逃げ回ればいい。あくまでも、これは「不本意な」復讐なのだから。


 そんなウィードを想像するだけでも極めて痛快であった。登校中、授業中、中休み、どこでも所構わず、四六時中、にやにやが止まらなかった。


「ナナ、なんかいいことあったの?」

「べっつに~」


 不思議そうに聞いてくる委員長(ムギ)の質問を否定してみたものの、軽快に鼻歌を歌うナナは明らかに浮かれていた。そんなことだから、またもやクラスメイトからあらぬ誤解を受けていることを気づいてすらいなかったのであった。


              ★


 一方、その頃。

 

 その被害者になるであろうウィードはというと、学園主任から呼び出しを受けていた。

 心当たりは山ほどある。ウィードは深呼吸して心を落ち着かせながら、主任室をノックした。


 「どうぞ。」

 「失礼します。」

 

 優しみを帯びた、だが、やや威圧感のある声に応じ部屋に入ると、そこにはやせ形で中年の女性が座っていた。彼女がウエトリア、この学園の教師を束ねる主任である。内部はカーテンで遮光されており、それは気配りというよりも彼の正体を知っているかのようであった。


「話は保健室長(ヴィーチェ)から聞きました。全く、面倒事になってしまったものですね。」


 そう言うと、ウエトリアは溜息をついた。


「申し訳ございません。」

「責めてるわけではありません。検疫に話を通してないかったのは、私どものミスですから。」


 ウィードが深々と頭を下げると、ウエトリアは2度目の溜息をつく。


「今回の事件は不同にします。ですが、あの子との一件。何があったかは深くは追及しませんが、それはあなたたちの問題。あなたが解決してください。」

「解りました。」

「……それにしても。」


 そして、カーテンを指先でつまんで隙間から窓の外を一瞥すると、3度目の溜息。


「よりにもよって、相手が学園一の暴れ……元気娘とはねぇ。」


 溜息をつくだけついたウエトリアは、今度は目線をウィードに合わせた。


「話を受けたこと、後悔していますか?」

「……後悔ばかりですよ。」


 少し考えて、ウィードは苦笑した


「ですが、後悔を恐れていては前に進めません。私はただ、目の前の道を一歩づつ進むだけです。」

「あら、それは頼もしいこと。」


 それは、半ば茶化すようにも聞こえたが、ウィードにとってそんな些細なことなどどうでもよかった。


()()から最も近く、そして遠いこの場所に居場所を求めたのは他の誰でもない私なのだから。)


             ★

 

 昼食の合図の鐘が鳴ると、待っていたとばかりに、ナナは弁当箱を手に取りウッキウキで教室を飛び出した。


(目指すはウィードの教官室へ!)


 ナナは行進するかの如く、勇ましく歩いていく。


「ふんふんふ~ん」

「ナナさん、そこまでよっ!」


 そんな、ご機嫌なナナの行く先を立ちはだかる者がいた。あの、例の3人組のうちの一人である。


(また、か。名前は確か。)


「ええっと、あなたは……ホイ?」

「ヨイよっ!」


 ホイではなかった彼女は、即座に突っ込んだ。そして側壁に足をかけ、通せんぼをしてくる。


「ごめん、通るわ。どいて?通行の邪魔よ。」

「邪魔してるんだから当然でしょ。」

「邪魔?どうして?」


 と、ヨイと押し問答していると、なんだなんだと野次馬が集まってきた。


「どうして、もないわ。あんた、昨日あたりからニヤニヤ気持ち悪いと思ってたけど、原因はそれね。その四角い箱。」


 ヨイが手に持った邪悪な箱を指差してきたので、ナナはそれを掲げて見せる。


「これがどうかしたの?」

「どう見ても、お弁当。これで、先生の胃袋をつかもうと思ってるのですわ!」

「……そう見える?」


 自信満々に全く見当違いの事を言われたナナは、がっくりと全身から力が抜けていった。


(はぁああ、めんどくさ。)


 半ばウィード親衛隊化しつつあるこの3人組である。ここでごまかそうとしたり、逃げ出したりしても、余計にこじれるだけだろう。


(そう。別に後ろめたいことはやってないんだから、堂々としてればいいのよ。)


 「そんな大したものじゃないわ。ただの差し入れ。」


 ナナはそう言って、箱の中身を空けて見せた。


 途端、漂ってくるニンニクの匂いに数人の野次馬たちがむせて、咳きこんだ。封印された暗黒箱から現れたのは、白くて茶色で緑色の、愛のかけらも感じさせない、色気もない料理たち。


 しかし、それをみたヨイの体は固まった。


(ん?どうした?)


 何の気もなく、ヨイの顔を下からのぞき込むと、その表情が明らかにおかしくなっていくのが見て取れた。


「た、た、た、た、た、たま、たま、」

「たま……?」


 ヨイの言葉が震える。


「た、た、たま、たま、たま……」

「たま……手箱じゃないわよ?」

 

 とある人魚が人間界に帰ろうとしていた好きな男に送ったという、玉手箱の伝説。

 確かに邪悪な気を放っていたのかもしれないが、これは玉手箱ではない。呪いなんて、つまってない……とは言えないけれど、そんなものではないのだ。

 

 だが、返答はナナの想像をはるかに超えていた。ヨイは一旦ごくりと唾を飲み込むと、禁断の一言を言い放った。


「違うわ!(ピー)ま袋!これで、せ、先生の、た(ピー)袋までつかむつもりね!」

「な、何言ってんのこの子!」


 ナナは思わず叫んだ。

 

 恋は人を狂わせるという。が、それでも女の子が言って良い言葉ではない。……のだが、口走ってしまったヨイの目は完全にマジのソレであった。


「うるさい!お前が持ってきた強力スタミナ弁当!これで夜も寝かさないってワケ!?」

「そうじゃないって!これは、その、あれ……?」


 しかし、がっつりニンニクを使ってしまった弁当である。完全なスタミナ弁当を前にして、まったく言い逃れもできずにナナはむにゃむにゃと口籠る。

 

 そんなナナの様子に、怒りの頂点に達したヨイは、腰に差してある剣に手をかけた。


「バ、バカ!そんなところで剣を抜かないで!こんなところで戦ったら退学もんよ!」

「問答無用!」


 ヨイが剣を振り回す前に、ナナは慌てて校舎の外へと逃げるのであった。


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