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02-04

 教室に戻ったナナは、クラス中が異常な事態になっていることを察知した。


 (これは化粧品と香水の香り?)


 見回せば、周りは化粧に勤しむ女生徒ばかり。


「ちょっと、それ貸して!」

「だめ、まだ使ってる!」

「早く!時間がない!」


 あっけに取られているナナに、何かが飛びついてきた。


「ナナ、オカえリ!」

「きゃっ。」


 不意に抱き付かれ後ろを振り返ると、そこには顔に奇怪な模様を施した、異様ないで立ちの獣人がいた。


「ぎゃーお化け!」


 その猫耳お化けを引っぺがそうとすると。


「ナナ、わたシだゾ!」


 ニニの声がした。というか、そのお化けはニニであった。


「ニニ、あんた何やってるの。そんなカッコして。」

「ン?次の授業は祭りじゃないのカ?」

「あー、ニニは祭りだと思ったのね。」


 次の授業が座学だと思っていても、皆が運動着に着替えだしたら自分は何か間違っていて着替えなければいけないような感覚にニニは陥ったのだろう。とはいっても、祭りの授業ってのは意味わからないのだけれど。


「違うノか?」


 ニニは不思議そうに首を傾げる。


「違う違う。あいつらの目的は男よ。」


 この大騒ぎ。お目当ては、あの男(へんたい)なのだろう。

 

(まったく、事情を知らない人間ってのは幸せでいいわね。)


 ナナはやれやれと溜息をついた。それにしても、この異常なピンク空間は何だ。そんなにイケメンが大事なのか。


「ニニ、そろそろ席につきなさい。先生が来ちゃうわよ。」

「はーイ!」


 ニニは元気よく返事すると、素直に従った。

 

 

 ナナは改めてピンク色の異常空間を見回す。次の授業はあいつが担当で間違いないだろう。


 (それなら、あいつもあいつで教えてくれればいいのに、全く気が利かないんだから。)


 と、ついうっかり、あの男のことを考えてしまったことを悔やむ。もう、何も関係がないのだから。これではいけない。戦士は常に冷静でなければいけないのだ。それは教室でも、戦場でも同じ事。常在戦場なのだ。

 

 ナナは頬を叩いて一呼吸。普通に、普段通りに、鞄から筆記用具一式を出した。

 

 (もうあいつなんて関係ないんだから、いつも通りに過ごせばいいだけよ。)


 そう心を落ち着かせたナナの元に、もう一人、別の人物が話しかけてきた。



「ナナさ。ちょっと聞くけどいい?」


 ナナたちとはあまり接点を持たない、3人グループの内の一人。


(確か、名前は、ええと…。)

 

「ええと、あなたはヨイ?」

「……ホイだが。」


 名前を間違えられたホイは、語気を荒げて不満を示した。


「ごめん、ホイ。なんか用?」

「用というかさ、あんたさ、さっきから何かおかしくね?」

「えっ、なにが?普段と同じ、普通でしょ。」


(どうして?なにかヘマをした?バレてないよね?)


 ナナは焦る心を抑えて、冷静に返答した。


「その普段通りの普通がおかしいんだよ。」


 そう言ってホイは、ナナを尋問にかける。


「あの男を見に行ったんだろ?」

「そうね。」


 ナナも何もおかしなことはないと確認しながら、一言一言答える。


「かっこよかっただろ?」

「ああ、うん、かっこよかったよ。」


 嘘はいっていない。中身はアレだが。


「で、そのイケメンを見たあんたはどうして化粧を始めない?男に関して冷静でいられないあんたがさ。」

「うっ。」


 早速看破され、ナナは狼狽えた。失礼なことを言われた気もするが、今はそれどころではない。慌てて言い訳をする。


「そうそう、それで、今から化粧しようかなーって、おもってさ。」

「しようかなー、で?」


 ホイの鋭いまなざしがナナの瞳を貫く。


「でも、化粧道具、忘れちゃったー……なんてさ。」

「フーン。」


 疑いの生返事。これは信じていない証拠。


(まずい。すごく疑ってる。)


 戦士は冷静さが大切だ。大切なのだけど、できないこともある。


「先生を追いかけまわしたりするのもおかしいのよねぇ。普通の追っかけ、って感じじゃなかったし。あの男と何かあった?」

「そ、それは……。」


 ナナがしどろもどろと言い返せもできずにいると。


「ま、いいわ。あなたが教えてくれないのなら直接先生に聞くから。」


 ホイはそういい放って、席に戻った。


(落ち着け。あいつだって『平穏な日々を壊さない』といった。下手なことは言わないはず……)


 と思いたいものだが、あの男がうまく誤魔化せるとは思えない。女心もわからないような、あのボンクラでは、少々不安が残る。


(……言わないよね?)


 一抹の不安を抱え、ナナは祈るように次の授業を迎えるのであった。


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