02-03
「ごめんなさい、見舞いは関係者以外お断り…あら?」
「私は関係者!」
ヴィーチェ先生の静止を強引に振り切って室内に入る。中にはあの男が、昨日のようにベッドに横たわっていた。
「馬鹿ね。外に出れば日光を浴びるなんてわかってたことでしょうに。」
そう。彼が倒れたのは高所落下技術の失敗じゃなくて、直射日光を浴びたせい。ほんと馬鹿馬鹿しい、まぬけな男。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「でもねぇ。もうすぐ授業よ?」
ヴィーチェ先生が難色を示していると、男はそれを制した。
「わたしからもお願いする。少し彼女と話させてくれ。」
少し気まずい沈黙の後、まず最初に話を切り出したのはナナであった。
「あのさぁ、どうして私から逃げたの?顔すら合わせられないってワケ?」
「それは…君と約束したからだ。」
「はぁ、やくそくぅ?」
(いったい何の約束だろう?)
ナナは記憶を振り絞って取り出そうとしたが、出てこない。ナナの頭の容量の限界である。
「もう顔を見たくない、と言ったのは君ではないか。」
昨日の出来事が、ナナの頭を掠める。
(そういえば、そんなようなことを言った気がする。)
「約束は守る。それが……せめて私ができる贖罪だ。」
「贖罪、ねぇ。」
贖罪とカッコつけてはいるが、やったことはわいせつ行為だろ、と心の中で突っ込む。
「贖罪だか食材だか知らなけどさ。そういうのやめてよ。なんだか私が避けられてるみたいじゃない。」
「まるで、ではない。君に迷惑をかけないように、私は君を避ける、それが私の贖罪だからだ。」
男はそういって、黄昏た。
(だめだ、こいつ)
ナナは天を仰いだ。確かに、顔も見たくないとは言ったが、それは今はほっといて、という意味で。本当に顔を見せることをせずに、逃げて隠れてこそこそしろ、ということじゃない。こいつは女心を理解することができないのだろうか?
「いい?あの時の顔を見せないでってのは、その時はほおっておいて、って意味なの。」
「今はいいのか?」
「逃げられる方が気分が悪いわよ。」
ナナはそんなこともわからないの、と不満を口にした。
「で、消えたはずのあんたはなんでここにいるのよ。」
「約束、だからだ。」
また、約束。
約束、約束。こいつには、自分の意思というのがないのだろうか。約束通りに動くだけで、人の気持ちも考えずに。
「約束ってねぇ。それより大事なものがあるでしょう。あんたは、もっと人の心を知るべき……」
「違う!約束は、大切なものだ。」
言葉を遮り、男が何かを訴えるようなまなざしでナナを見つめた。視線を合わせると、その瞳に吸い込まれそうになってくる。魅了、ってこういうことなのだろうか。一応吸血鬼だし、何か魔法でも使っている、とか?
(忘れてたけど、こいつイケメンなんだよね……いかんいかん。)
ナナは感情に支配されないように、首を振る。
「いい?贖罪というのなら、普通に接して。普通。フツーよ。私の平穏な日々をかき乱されたくないわけ。わかる?」
「もちろんだ。私もこの平穏な日々をかき乱すつもりはない。」
「成立、ね。」
切りのいいところで、ヴィーチェ先生が間に入ってくる。
「はいはい、そこまでね。次の授業に間に合わなくなるわよ。」
本当にわかってるのかどうか疑わしいものだが、授業に遅刻するわけには行けない。
「今からあなたと私は赤の他人。昨日は何もなかった。だから避ける必要はないの。それじゃ。」
「わかった。」
「そうそう、約束もいいけど、人の心や空気を読むことも学びなよ。」
問題が解決したナナはすっきりした顔で保健室を後にした。
「こら、ナナさん!廊下を走らない!人にぶつかるわよ!」
「大丈夫よ!」
この程度のスピードでぶつかる間抜けなどいない、それが戦士科の裏の校則。ヴィーチェ先生の声にそう答えながら、ナナは廊下をかけていった。




