01-11
気が付いてみれば、ミユ、ゾゾ、そして、ヴィーチェ先生までもがこちらを見ている。別に隠すことはなかったけど、何か気恥ずかしいような、気まずいような。そんな空気があたりを漂った。
そこで、ナナはひとまず話をはぐらかすことにした。
「ええと、ミユ、元気になったんだ!」
「ええ、おかげさまでね。」
ミユはそういってたんこぶを擦る。見るからに、痛そうだ。
「何か知らないけど、後頭部に大きな傷がついてる。原因は、あのモンスターね?」
「は、は、は。ソ、そうダね。」
まさか自分がやったとは言えなくて、ナナは片言で笑ってごまかした。ミユはそんなナナの様子に少し訝しがる。まったく興味なそうなゾゾは大きくあくびをし、事情を分かっている先生は笑いをこらえて苦虫をかみつぶしたような顔をした。
そんな状況の中、男は口を開いた。
「あれは…他に方法はなかったんだ。許してくれ。」
男は深々と頭を下げた。しかし、この謝罪の言葉は火に油を注ぐようなものだった。
「ほかに方法?考えなかっただけじゃないの?」
「そうかもしれない。しかし、考える時間もなかったのだ。それだけは分かってくれ。」
考える時間もないほど、魔力切れが近かったということなのだろう。
「しかし、魔力切れねぇ。そもそも、こういうことになるのは十分予見できたはずよ。特殊な物とはいえ、準備ぐらいしておかなかったの?」
「……準備はしてきたんだ。」
「準備してきたのに?忘れたの?」
女性陣が問い詰めると、男は、もごもごと、言い淀む。
「ああ、もうはっきり言ってよ。わからないじゃない。」
「それが……なんだ、検疫で取り上げられてしまってね。」
一同、沈黙。至極当然な返答に、大きなため息が漏れる。
「だから、私は、唾液を要求した。」
「そして、断られた、ってわけね。」
「そうねぇ。許可を得られなかったら、他の人でも良かったんじゃない?」
ビーチャ先生の提案だが、またまた男が申し訳なさそうに言った。
「その…女性の体液は、若い方がいいんだ。お年を召したご婦人の血は、正常には働かない。おなかを壊してしまう。」
「……」
再び沈黙。この何とも言えない空気をぶち壊したのは、ゾゾだった。ゾゾはそれを聞いて腹を抱えて笑った。
「ギャハハハハは、女のチにも賞味期限がアるんだな!」
「プッ」
あんまり大声で笑うものだから、釣られてナナも笑っしまった。
ごつん、ごつん、ごつん。
ビーチェ先生からのげんこつが3発、飛んだ。ゾゾ、ナナ、謎の男。3人仲良く、たんこぶが並ぶ。ミユも加えて、これで4人、たんこぶ持ち。
「ちょっと、さっき頭部への攻撃は駄目って言ったばかりじゃない!危険じゃないの!」
「それはそれ、これはこれよ。」
と、大人たちがよく使う呪文を唱えた。まったく、学校の教師というものは理不尽なものだ。
「なぜわたしまで……」
変態男も、この世の理不尽には納得がいかないみたいである。
「ま、あなたが吸血鬼だということは分かったわ。」
「何度も言うが、私は人だ。」
まったくこの分からず屋は、相変わらず人であることを強調する。話をややこしくしてるのはその点なのだ。しかし、男は曲げようとしない。
「だから、人として責任を取らせてもらう。」
「だって。どうする?ナナちゃん。」
ナナは考えた。ぶん殴って解決するような気もするが、暴力に訴えるのは何か敗北したような気もする。しかし、考えるのが苦手なナナである。深く考えたって、いい考えが浮かぶわけがない。出した結論は……。
「どうするって、もう顔も見たくないわ。ここから出て行って。」
「わかった。もう二度と、君の前に姿を現さない。」
男はコートを翻すと背中を向け、そういって去っていった。




