01-9
なんとか保健室に到着したナナたち。
ビーチェ先生が入り口に置いてある結晶体の調度品に魔力を込めると光が灯り、辺りが照らされる。ごそごそと先生が治療の準備をしている間に、ナナたちは二人をベッドに担ぎ上げた。
「まあ!まあ!まあ!」
ナナが事のあらましを説明すると、先生は大きな丸い目をさらに大きくした。
「味方の頭部への攻撃は厳禁といってるはずです!失神では済まないんですよ!危険です!」
「……ごめんなさい。」
ナナは素直に頭を下げた。
あの時、もっと冷静になってれば、足元への攻撃にも気が行ったはず。もっとうまい方法もあるかもしれない。自らの底の浅さを指摘されたようで、どうも気まずい。下を向く。
先生はその言葉に納得した様子で、棚から薬品を取り出すと瓶の蓋を開けた。傷薬の独特の匂いが室内に充満する。
「ゲほっ」
匂いに敏感な獣人が反応し、咳きこんだ。
「コれ、ナんど嗅いでも慣れネーな。」
先生は慣れた手つきで中の液体を清潔な布に注ぎ込むと、それをミユの患部に当てて押さえつけ、乾いた布で固定する。
「ミユは大丈夫ですか?」
「そうね、あとは寝かしてあげるほうがいいみたい。呪いの方は術者がいなくなったので、影響を受けないでしょう。」
「よかった。」
ナナは胸をなでおろした。先生からお墨付きをいただいたのだ。少し緊張が解け、肩から力が抜けていく。
「で、男の方なんだけど。ナナさん、指を針で刺してくれないかしら。」
「え?なんで?私が?嫌よ。」
戦士と言えども、無意味に傷つきたいわけじゃない。誰だって痛いのは嫌である。特にあの男は味方と決まったわけじゃない。むしろ、ナナにとっては敵であり、特別になにかしてあげる義理はないわけで。
「ナ・ナ・さ・ん?」
先生に強く言われたので、ナナは渋々従った。利き手を避け、左手の人差し指を針の先でつつくと、指の腹からぷっくりと出血する。
「その血を彼に飲ませてくれないかしら?そうそう、その際に噛まれないように気を付けて。」
(まったく、なんでわたしがやらなきゃならないのよ。)
ナナは憎たらしいほどに通った鼻筋を指先で摘み上げると、間抜けに空いた口に血液を垂らす。
ごくり、という喉の鳴る音が聞こえた。
「先生、これは?」
「思ったとおりね。」
診断が正しかった事を確信してなのか、先生は満足そうに言った。
「症状は魔力切れによる肉体硬直です。でも、普通の人間は魔力では動いてないので、そんなのは起きません。」
教室でレクチャーでもしてるかのように、先生は得意げに続ける。
「さっきの血は、魔力充填のため。さて、血液で魔力が充填できる者といえば?」
「まさか?」
さすがにここまでヒントをもらえれば、いくらナナでも気づかないわけがない。一つの可能性が浮かび上がる。
「そのまさか。彼は、吸血鬼、です。」




