01-7
勝負は一瞬であった。
男は次々と繰り出される攻撃を右へ左へと躱すと、距離を詰め、あっという間に魔物を組み伏せる。
「くはっ。」
背中をぶつけた衝撃で、魔物が嗚咽を漏らす。
――強い。
それがナナの率直な感想だった。魔物は大して技量を持ち合わせていなかったが、それを補う高い身体能力にはナナも手こずっていた。しかし、男はそれを凌駕していた。
「……その動き。君も人間じゃないね?」
「いや、私は人だよ。」
男は馬乗りになると、苦しがって暴れる魔物を片腕で押さえつけて懐からガラスの小瓶を取り出す。
「時間がない。私は神父ではないが、懺悔ぐらいは聞いてあげよう。何か伝えたいことはあるか?」
「んなもんねぇよ!」
「そうか。」
その言葉に、少し眉を動かしたように見えた男は、黙って頷くと瓶の中の液体を少年に垂らす。まるで何かが分解されていくように、魔物の体から蒸気が噴き出した。
「何だ……何をかけた!」
「聖水だよ。魔物には特によく効く、な。」
男の言葉を肯定するかのように、魔物の体が溶けていく。
「俺は……消えるのか?」
「そうだ。」
男は小さく、だが力強くうなずく。
「もう一度聞く。何か伝えたいことはあるか?」
「いやだ!俺は消えたくない!俺は、ただ、生きたかっただけ……な……」
魔物の体は最後の言葉を発することができずに、灰となった。
◇
事の一部始終を見ていたナナは我に返る。
彼がいったい何者なのか、なぜそれほどまでに強いのか、訪ねたい事は山ほどあるがまずは一つ。
「ねえ、さっきのアレは何?言い訳を聞かせてもらうわよ。」
あの強引な、TPO無視の、意味不明なキス。『後で聞く』といったからには、それなりの言い訳は用意してるのだろう。
(一つでもおかしなことを言ったら容赦なくぶん殴るんだから。)
だが、男は無反応であった。ナナの呼びかけに一向に答えようとしない。
(もしかしてコイツ、しらばっくれる気?逃がさないわよ!)
ナナは肩を怒らせて、ズカズカと男に近寄る。それでも男に動く気配はない。
「ねぇ、聞いてるの!?」
ナナが男の肩を叩くと、奴は返答することなくそのまま後ろに倒れた。気絶、である。
「ちょっと!文句はあとで聞くって言ったじゃない!これどうするのよ!」
変なことを言ったと思ったら、勝手に命令して、勝手にキスして、勝手に戦って、勝手に気絶して。
怒りと戸惑いをどこにもぶつけられず、ナナは声を上げて天を仰いだ。




