01-5
色気も何もない、問答無用のキス。まったく意味が分からない。
ほんの一瞬だけど、口に入ってきた舌の感触がナナの怒りに触れた。
「なぁにすんのよ!」
力の限りに振り回した拳を、男は難なく躱す。ナナは肩で唇を拭うと、唾を吐き捨てた。
(どさくさに紛れて変なことしやがって!絶対許さない!)
ナナは男をにらみつけるが、男の目はそれ以上に覇気を放っていた。ナナはその雰囲気に思わず気圧される。
「文句はあとで聞く。まずはこいつを倒してからだ。」
「倒す?何言ってんのよ。相手はまだ子供でしょ。」
戦っているのに、いまさら何を言ってるのだろう。ナナは自分が発した言葉に自分で驚いた。
「アレは魔物だ。友達の姿を見ただろ。ああなりたいのか?」
ナナは首を横に振る。
「頭ではわかっていても、まだ気持ちでは納得できないようだな。では、そこで見てるがいい。」
男はうずくまった少年の前に立った。
「いてて。おじさん、ちょっと乱暴だね。僕への攻撃も、彼女へのキスの仕方も。そんなやり方じゃモテないよ?」
少年、いや、その魔物は両手で腰についた土を払い、落胆したかのような素振りを見せた。
「あーあ、傷物にされちゃった。僕のものなのに。」
両手で感情を表現すると、大げさに肩を落とす。
「君は人としての一線を越えてしまった。だから倒さなければならない。残念だ。」
「一線って?ああ、あの子のこと?残念だったね。ボクが先にいただいちゃったよ!」
魔物はウィンクしながら、チャーミングに舌なめずりをした。
(黙って聞いたら、言いたい放題。人を末席やら僕のものとか、傷物呼ばわりし、挙句の果てにはミユにまで手をかけて!)
ナナの怒りは頂点に達した。
「こんのぉ!」
殴りかかろうとするナナを、今度は男は制止する。
「冷静を失うな!」
まったく、冷静さを失わせてるのはこいつも一因であるのに。絶対あのキスは許さない。でも、それはミユを助けてから。今やることじゃない。
お前がいうな、という言葉をぐっとこらえてナナは言った。
「まったく、話はあとで聞かせてもらうわよ?」
「ああ。」
魔物の攻撃は単調であり、隙は多い。だが時折、操られたミユが身を挺して守る。これが厄介だ。さすがに傷つけるわけにもいかず、攻撃の手が止まる。
そんな風に攻めあぐねていると、男はミユを力任せに掴みナナに投げつけた。
「その子は君に任せる。なんとかしろ。」
「なんとかしろ、っていったって!どうすればいいの!?」
そんな方法を知っていたらこんなに苦労はしていない。ナナは尋ねた。
「方法はどうでもいい。なんとか、するんだ。」




