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小さな大型台風、襲来

 王子の事やら協力者やらですっかり忘れさられているが、ナナのキスの被害者であるヨイはナナに恨みを抱いていた。

  

  あのキス事件以降、それとなく謝罪や反省をするように促してはいたが、鈍感なナナは全く気にも留めない。この世界が漫画のような世界なら、ひょっとしたら自分はモブのような存在ではないか、そのような不安がヨイの心の底から沸いてくる。

 

 こうなったら、古来からの風習に頼るしかない。そうすれば、取り巻きにしかなれないヨイにも少しはスポットが当たるに違いない。ヨイはそう考えていた。


 一方のナナはというと、ウィードのいやな予感などすっかり忘れて、呑気に大あくびをしていた。のんびりと登校すると、教室前には随分と鼻息の荒いちびっこが待ち構えていたのでナナは一瞬、ぎょっとする。

 

「あなたに決闘を申し込むわ!」

 

 なにやらこちらを指差してくるが、まったく知らない人なのでとりあえずスルーする。関わらない方がよさそうだ。


「無視しないで!そこのあなたよ!」

「どなたさまでした?」

「ヨイよ!」


 そうでしたね。王子より前の記憶を掘り起こす。元、ウィード取り巻きだった女、ヨイ。そして、現在、ナナのキスの被害者。


「私の唇を奪った恨み!忘れていないわ!」


 ヨイはナナに憎悪をぶつける。あの一件はすでに風化したと思っていたが、当事者が忘れるわけがない。


「ああ、あれはごめんって。事情があったのよ。」

「事情があったとしても罪は罪よ!土下座しなさい!」


 ヨイのいう事はもっともだ。しかし、ナナはすでに謝罪をしている。これ以上、どうやれば許してくれるのだろうか。


「だから謝ってるでしょう。どう償えばいいのよ。」

「いい?だから決闘よ。決闘は次の授業で。授業内容が対戦形式だったら、私とペアを組みなさい。ウィード先生の前でかっこ悪く負かしてやるんだから!」

「じゃ、私が勝ったらキスの事は忘れてくれる?」


 しかし、ヨイはナナの言葉を最後まで聞かずに自分の席に戻る。ああ、もうイライラする。


「ナナ、聞こえたわよ。あなた、ヨイともキスしたんですね。」

「トモ?」


 声が聞こえたので、ナナはばつの悪そうにトモを見上げる。こちらの問題も未解決だ。


「好きな人が複数いるのは、乙女だものね、仕方のないことだけど。本気なら、一人に絞りなさい。あなたが本気なら……考えなくもないわ。」


 そういってトモもまた、席に戻る。考えなくもないってどういうことなのだろうか。深くは考えない方がよさそうだ。


「ああ、もう。あいつら、キスぐらいで何よ。戦士なんだからそれくらい我慢してほしいものだわ。」

「そうね。以前のどっかの誰かさんに聞かせたいセリフね。」

「誰かさんって誰の事かな?」


 ミユがそういうもんだから奴の口を少しひねってやった。ミユはほっぺを少し擦る。



 決闘は次の授業での言葉通り、舞台はウィードの授業に移る。本日は天候も良く、野外にての授業になる。校庭に集まった皆の前で、


「ウィード先生!今日の授業はぽよよん棒を使った対戦形式をやってもらいたいんですが。」


 ヨイはそういって、ナナをにらみつける。

 

 ぽよよん棒とは何か。相手を殴ってもいたくない柔らかい素材でできており、主に小さい子供がチャンバラをするときに使われるようなおもちゃである。急所に当たると音や光線を出すように派手な演出の魔法が掛かっている物もある。


「ふむ、面白いな。提案を受け入れよう。」

「ちょっと、ウィード!最近ふざけ過ぎよ。怠けてるんじゃないの?」


 最近のウィードの授業は実戦形式よりも座学が多くなっている。今回もお遊び形式なのか。ナナは憤慨した。


「誰かさんが供給を拒否しているのでな。今はなるべく魔力を使いたくないんだ。」

「はぁ?誰かさんって私の事?私のせいにしないでよ!」


 ナナは憤るが、構わずヨイはルールを説明した。


「この棒はね、急所に当たると派手に光るの。派手に光れば致命傷の一本とったことにしましょう。」


 ヨイは3本の指を立てていった。

 

「これで3本勝負。2本取ったほうが勝ちよ。いい?」


 ナナだって、トモやムギ、ニニなど、強い者の名前くらいは頭に入っている。しかし、ヨイという名は今までに聞いたことがなかった。ということは、戦うには易い相手だろう。

 案の定、ヨイの棒をタイミングよくはじき返すと、体格差で負けるヨイはよろめいた。ナナはそこを見逃さない。


 決まった!


 胴を捕らえた、ように見えた。少なくとも、ナナはそう思った。しかし、棒は光らない。焦ったナナの隙を、今度はヨイは見逃さなかった。ヨイの棒が派手に光る。


「これで一本ね。」

「ちょっと!インチキよこれ!私が当てても光らなかったじゃない。」

「じゃ、交換してみる?」


 不正を疑うナナに、一本取ったヨイが多少息切れしながらも答え、笑みを浮かべる。


「いや、不正ではないぞ。」


 様子を見ていた、ウィードが指摘した。


「ナナは力で押す傾向があるため、功を焦るとどうしても型が崩れるな。いい弾き方だったが、ヨイが上手く急所を外したのには気づかなかっただろう。だから光らなかったのだ。」

「うるさい!」


 これは勝負なんだから、外野は黙っていてほしい。ナナには勝たなければいけない理由があるのだ。


「これがおもちゃの怖い所だ。本来であれば、致命傷に近い。しかし、これはおもちゃだ。一本取れなければ無傷。これは実戦ではないのだよ。」

「ナナや私のような力で押すパワータイプは不利ってことですか。」

「そうなるな。」


 はたから見ていたムギの質問にウィードが答える。

 

 致命傷を与えられなければ、力押しよりも、ヨイのような小賢しい、いや、巧みな剣術のほうが有利。ヨイはこれに勝機を見出していた。モブだと思って甘く見るなよ、と。

 ヨイの剣術は変幻自在。だが、本命は致命傷めがけての一本だけである。1本目はつい焦ったが、種がわかれば大したことはない。力よりも型を大切にして、動く。


「ほう。」


 ウィードは唸った。ナナの動きが良くなったからだ。逆に、ヨイの動きが鈍くなる。変幻自在の剣術も、あれだけ動けば体力が消耗する。疲労で体が崩れたヨイの隙に付け入り、ナナがきれいな剣筋を見せつけ、一本を取り返す。


「ナナちゃ、ちょ、ちょっと休憩させて。」

「は?実践ではそんな泣き言言えないわよ。」


 息の荒いヨイに、ここで勝負を決めておきたいナナは断ろうとするが、ウィードが口を挟んだ。


「ここは休憩を入れよう。これは実践ではなく、授業だ。弱った相手と戦っても身につかないだろう。」


 正論なのだが、納得いかない。こちらの事情も分からないくせに、とナナは心の中で文句を言う。ナナにとっては勝敗も大切なのだが。仕方なく、ナナはウィードに従う。


 お互いに休息を十分に取ったところで、再びヨイと棒をあわせる。二人とも弱点を知り尽くした状況での試合だけあって、膠着状態であった。若干、体格差でナナが有利だろうか。しかし、まわりが騒がしい。ふと入り込んだ影に視界が暗くなる。勝負の最中だが、気になって上空を見上げると、大きな飛行船が大空を飛んでいた。


 飛空艇から人影が降って来る。途中でなにかしら魔術が発動したようで、落下速度は大したことはなさそうだが、それでも、着地を失敗するとちょっとしたケガをしそうだ。身なりから少女のように見える。

 誰かが「先生!空から女の子が!」といったかどうかは知らないが、ウィードはその様子をみて、慌てて跳んで、その女の子を空中で捕まえる。女の子はウィードを抱きしめる。


「ウィード!会いたかった!」

「ミルじゃないか!」


 ミルと呼ばれた少女は、出会い頭にキスをしようと試みたが、ウィードが軽く避けたために、おでこを肩にぶつけてうめき声を出す。そして、ミルと同じように後から飛行船から降りてきた少年に手当を受けていた。


 だが、恋路とプライドと計画と試合を邪魔されたヨイにとっては、たまったもんじゃない。


「あなた誰よ。見たところここの学園の生徒じゃないみたいだし、その若さじゃ教師というわけでもなさそうだし、無関係者だったら出ていってほしいんだけど。」


 ヨイはミルと呼ばれた少女にまくしたてた。


「私の事?私はミルナースよ。この学園の創設者、ベルナースの娘にして、このイスティリア王国の、王女。そこにいるウィードの婚約者よ。」


 ナナは驚いた。


 ええ!あいつがベルナースでコイツがミル?王国?王女?そしてコンニャクとは。知っている単語と知らない単語が交互に聞こえ、ナナの旧式の頭脳では情報量が多すぎて処理が追い付かない。もう、何がなんやらワケガワカラナイヨ。

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