協力者
「ナナちゃん……ウィード先生から言付けを預かってきたんだけど。」
授業の一環である朝の鍛錬が終わった後、ナナはトモに呼び止められてメモを渡された。あれ以来トモの顔をまともに見ていないので、何かと気まずい。
「あと……あの時の事だけど……人の趣味はそれぞれだけど……でもいきなりは駄目だと思うの。まずは友達から……ね。」
「いや、あれは!」
「それじゃ!」
あれこれ説明する前に、トモは逃げていった。……トモちゃん、言い訳ぐらいさせてよ。
受け取ったメモには簡潔な短文で『緊急の用がある。』としか書かれていなかった。まったくもって、めんどくさい男である。メモで伝えられないような用事でもあるのだろうか。
ナナがしぶしぶウィードの教員室(各教員用に割り当てられた部屋。個室。)まで足を運ぶと、
「お願いだ、今日一日だけ、一日だけでいい。唾液を提供してくれないか。」
「はぁ?」
開口一番、これである。馬鹿じゃないかしら。
そして教室内。
「で、ナナちゃんは断ったわけね。」
「当然断ったわよ。」
ナナは憤然としながら、ミユに不満をぶつけた。
「唾液ぐらい提供してあげたらいいのに。ウィード先生もかわいそうに。」
「可哀そうに思うなら、ミユが提供すればいいんじゃないかしら?」
「そうね、ナナちゃんがいいのなら、それでもいいかもね。先生には一応恩があるし。」
「やっぱダメ。」
立ち上がろうとするミユを、ナナが服を引っ張って阻止する。
「どうして駄目なの。あなたが言い出したことじゃないの?」
「そうじゃないけど、ダメ。」
ナナにも、その理由が何だかわからない。あんな奴、誰とでもキスしちゃえばいいんだわ、と思っていても、なにか気にくわない。
「あーあ、ナナちゃんがこんなにめんどくさい人だとは思わなかったな。本当に、恋は盲目ね。」
「何か言った?」
有無も言わせぬナナの重圧だったが、ミユはすぐに反論した。
「いい?ウィード先生は今日だけ(・・)頼んだのよね。じゃ、今までどうしてたの?他に協力者がいたはずだわ。」
「あっ。」
どうしてこんな簡単なことを気づかなかったのだろうか。ウィードの魔力はいったい誰に提供してもらったのだろう。気になる。聞きたいことがある。
「次の授業まで戻ってくるから。後はよろしく!」
ナナは立ち上がり、ウィードの元へ急いだ。
再び教員室の扉を開けると、そこにはよくわからない書類を書いているウィード先生がいた。
ナナはつかつかと歩み寄る。
「唾液を提供してあげてもいいわ。ただし、条件がある。協力者を教えて!」
「協力者?どういうことだ?」
「今まであなたが、だ、唾液を提供してもらった人の名前を教えてよ。」
そういってナナはウィードの顔を両手でつかみ、唾液を流し込む。そう、これは事務的ななにか。キスじゃないのよ。
「別にキスでもなくてよかったんだがな。」
口からこぼれた液体を拭きながら、ウィードは言う。
「う、うるさい。直接が嫌ならコップとか用意しなさいよ!。」
「いや、助かった。礼といっては何だが、君が気になるのならば、差支えのない範囲で答えさせてもらおう。協力者か。」
ウィードはそういって、ミルという名前を挙げた。ベルナースって人じゃないのか。そういえば振られたって言ってたし、新しい女なのだろうか。この男、いったい何人女がいるのだろうか。
「へー。ミル、ね。何歳なの?」
怒りをできるだけ抑え、ナナは冷静に、冷静に問いかける。
「彼女は12、いや、もうすぐ13になるか。」
「こ、このロ、ロリコン!」
ナナはこぶしを握り締める。
「まて。君が何を考えてるのかわからないが、提供してもらったのは唾液ではないぞ。」
「じゃ、他の体液……!」
そして、絶句する。顔を赤くしたり青くしたり、今にも失神しそうだ。
「そう、涙だ。とくに乙女の涙は大変貴重でな。君も伝説を聞いたことがあるくらいは有名ではないのか?」
……特に意味のない暴力がウィードを襲う。
「ただ、涙は魔力濃度が高いが、いつでも泣けるというわけではないだろう。だから緊急時には唾液を提供してもらってるんだが。」
目を腫らせたウィード先生がいう。ナナは自分でやったことを棚に上げて同情した。
「これくらいよけれなかったの?」
「さすがにこの体勢ではな……無理だな。」
座っていては、避けられる攻撃も避けれない。ウィードは気を取りなおして、発言を続けた。
「しかし、ここ最近、一週間ぐらい便りがない。おかげで、乙女の涙も送られてこないのだ。何か不穏な前触れではないといいのだが。」
学園で何かが起こり始めてるのかもしれない。そう、カンの悪い二人は予感したのであった。




