休幕
料理屋ミールミール。美食猫ミールと料理鼠ミールが出会い、違う種族ながらも同じ名前からたちまち意気投合し、出店にこぎつけたという逸話がある洒落た名店である。
「これがたまんないのよねぇ。」
勝者の証、キングチョコパフェを口にしながら、ミユはご満悦の様子。これで太らないっていうんだから、世の中は不公平である。
「あら、ナナちゃんはオレンジジュースでいいの?」
「うるさい、いろいろと金欠なのよ。」
ファイターというものは装備品に金がかかるし、夏の新作の私服も欲しいし、そろそろ剣のグリップも張り替えないといけない。学園からもらえる報奨金も限りがある。そんな中で、パフェを2つも頼むことなどできないのだ。
はぁ、どっかにお金が無限に沸いてくるお財布とかないかなぁ、とか考えたりしながら、ナナはミユが食べ終わるのを待つ間、ストローを咥えて店内を見まわしていた。
すると、
「いらっしゃいませ~。」
「ビスケットを1袋くれないか。」
随分と聞きなれた声である。ナナとミユは示し合わせた。
「ナナちゃん、捕まえるわよ。」
「あいあいさ!」
「うわっ!」
さすがはベテランコンビである。指示も早ければ反応も早い。
こちらに気づいたウィードであったが、さすがに店内とあっては逃げ回ることもできず、ナナたちにあっさり捕まり、問答無用で同席にさせられた。
「ウィード先生って甘党だったのね。」
「ある人の勧めでな。これで衝動を押さえろという事らしいが、少しはまってしまってな。」
と、ビスケットを取り出して説明した。
そういえば、いつぞやも懐にビスケットを忍ばせてあったわね。と、ナナは思い出す。
「あの事件は君たちが解決したのか?あれから騒ぎがおさまったようだけど。」
「あれはですね、黒魔研の…。」
「しー!黒魔研で、サインしたこと忘れたの?」
ナナが言いかけたところでミユが耳元で囁く。そうだった。しゃべるとパーになる忘却魔法をかけられるんだっけ。
「えー、ただの狼男でした。退治しておきましたよ。」
ナナは慌てて、バレバレ100%の営業スマイルで誤魔化すと、
「それならよかった。君たちも強くなっているんだな。」
どこか抜けている先生はすんなり信用してくれた。
先生と相席すると、なぜか緊張する。普段から授業に接しているときはそう感じないのに、不思議なものである。ナナはレドの薬の、解呪の一件を思い出していた。
「先生って体術の先生ですよね。どうして魔法にもお詳しいんですか?」
「個人的に研究をしているからな。そうだな、せっかく同席なんだ。軽く授業の一つでもしようか。」
「えー。」
ナナたちはここに授業を聞きに来たわけではないのだが。二人の抗議の声をよそに、ウィードは講義を始めた。
「私の研究内容は、解呪だ。平たく言えば、吸血鬼の呪いを解く方法を探している。その方法はさまざまでな。そうだな、例えば――」
ウィードは、テーブルの上にあったストローの空き袋を使って扉のような形を作る。
「君たちの目の前に扉があるとする。しかし、その扉には鍵がかかっていた。しかし、鍵は持っていない。さて、先に進むにはどうしたらいい?」
突然の質問に、ナナたちは少し考える。
「鍵を壊すとか?」
「合鍵で開けるとか。」
「そうだ。他にも扉を壊す、などの方法があると思う。これを解呪の方法に当てはめる。」
ウィードがストローの袋でできた扉を指でトントンと叩く。
「まず、鍵を壊す。呪いを解読し、対抗術式でかかってる鍵そのものを壊す。以前、王子にかかっていた魔法を解いたことがあると思うが、あれはその応用だ。術式が破壊時に対象者に悪影響を与えないことが前提であるが。」
「合鍵で開ける、ってのは?」
「偽物で本物を騙す、ってことね。わたしがナナちゃんにしてあげたように。」
唇に手を当てて、ミユが代りに説明する。ナナはあの時の甘酸っぱいキスを思い出し、うつむいた。
「理解してもらえるなら話が早い。後は、扉を壊す、影響を与えてるものを壊すという事だ。呪いをかけた術者を倒せば解除されたりすることがあるが、これは君たちがあの銀髪の吸血鬼から解放されたことで知っているだろう。もちろん、本物の鍵で開ける方法が一番良いのだが、術者が解呪に応じてくれるとは限らない。」
ウィードはストロー袋の扉をくしゃくしゃに丸め、椅子から立ち上がった。
「実際、この方法を研究し尽くしても人間に戻れるかどうかはわからない。だが、私は戻れると信じている。」
そう言い残して店を後にするウィードを確認して、ミユが囁いた。
「あれよ、ジン君の白の領域。あのように、ジン君みたいに維持できれば人間であり続けることができるかもしれないわね。呪いが解けなくても、もしかしたら、人間に戻る方法があるかもしれない。」
ナナは魔法に詳しくはないが、ミユが言うなら間違いないのだろう。先生の願いが叶うといいね、そう思った。




