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レドの魔法の薬2

 あれ以来、トモはこちらを気にしてくるし、あの取り巻きに至っては目の敵になったようで、会うたびに変態呼ばわりしてくる。


「だからあれは事情があったんだってば!」


 と、ミユに相談しても、


「あら、どっかで聞いたような話ね。」


 なんて、笑われてしまう始末。心がわかる、という嘘の薬で、こんな形で本当に理解させられることになろうとはね、とナナはため息をついた。


「人のうわさも75日。ウィード先生の事件も今は誰も気にしてないわ。ナナの話もそのうち消えるわよ。」

「そんなもんかなぁ。あ!そうだ。例の忘却魔法。あれ使わせてよ。」

「そういう風に魔術を学んでもないのに使おうとするから酷い目にあうんでしょ。少しは反省しなさい。」


 しかし、そんな話題も些細になるような大事件が起こったのだ。なんでも、本日の全校集会に王子が来るという。


「そうなの!?」


 その一報を聞いたナナはうっかり椅子から転げ落ちそうになったくらい驚いた。

 なんせ、まともな男は寄り付きにくい学園である。こんなビックイベントには物理的にありえないのだ。


「ええ。予定にはなかった話なんでちょっとした騒ぎになってるのよ。」


 と、ムギから話を聞いたナナとミユは顔を見合わせた。


「この学園に王家へのコネがあったなんて信じられない!」

「そんなことはないわ。王子様の来園は3年ぶりじゃないかしら。」

「3年前?そういえば、そんな騒動もあったわね。」


 3年前の騒動。恒例の討伐作戦の総指揮として壇上に立ったのは、まだ少年としか思えないような頼りない男であった。しかし、女生徒からは人気はあって、大騒ぎになっていたような。そのころから年上好みの傾向があったナナには関心が薄かったのか、記憶から飛んでいたのである。


 そして、全校集会である。広間に集まって、前と同じ壇上に立ったのは、3年前より、少し背の伸びた男。彼はもはや少年ではなかった。男子、3日会わざれば刮目して見よ。という事なのか。3年という月日は彼を歴戦の勇士に仕立て上げ、日に焼けて痛んだ肌や精悍な顔つきには少しナナの心に来るものがあった。


「我々はガルミラ氏にも協力を仰いでもらい、魔物討伐も順調に行っておる。ここに感謝の意を表明したい。しかし、魔物はまだ壊滅というわけにはいかず、志半ばというのも事実。

そこでだ。将来を見据えて、選抜隊を結成したいと思う。もしかしたら我と共に戦ってもらうかもしれない。その時は王子ではなく、仲間として、よろしく頼むぞ。」


 王子に選ばれる。これを聞いて騒がない女子はいない。これは近づくチャンスである。女生徒たちが色めき立つ中で、ミユは違っていた。


「選抜隊……嫌な話ね。」

「どうして?王子様に選ばれるってのは光栄なことじゃないの?」

「学生の中から選抜隊が選ばれるという事は、それほど魔物の動きが活発化している、っていう事よ。先生や卒業生だけでは足りないみたいだわ。」

 

 どうやらミユのストライクゾーンからはちょっと外れているみたいで、この騒ぎの中でも冷静であった。


「そっか。」


 魔物の活発化はナナにも感じることがあった。先日の討伐は例年に比べて多かった、ような気がする。別に数えてるわけじゃないし、数多く倒したのも前より奮闘してたからかもしれないから、正確なことは言えないけど。


「殿下は『将来を見据えて』っていったし。ただ慎重なだけかも。」

「そうね。考えすぎかもしれないわね。」

 

 しかし、そのきらびやかな礼装のせいなのか、王子はしきりに汗をぬぐう。


「殿下、よろしかったらこれを。」

「おお、気が利くな、ありがとう。」


 一人の女生徒が近づき、王子にジュースようなものが入った銀製のコップを渡し、王子はそれを美味しそうに飲み干した。

 しかし、あのお付きの女生徒、どこかで見たような。……ってレドじゃないの!


 王子は、一旦は落ち着いたものの、次第に頬が紅潮していく。


「すまない、ちょっと長めの労働がたたったようだ。休憩させてもらうよ。」


 といって、顔を赤らめながら退場していく王子をその場にいる一同が心配そうに見守ったが、これまた、どこかで見たような流れに、ナナのトラウマがよぎる。

王子が従者に見まもられて後者奥へ退出するなり、ナナはレドの所に駆け寄った。


「レド!王子様に何やってんの!」

「なにって、ほら、妃候補探しの手助けよ。決まれば無事、王国も安泰ってね。」


 こやつ、そんなもののために人生賭けて黒魔法学んでるのか。いや、王子様に見染められれば一生安泰だから間違えてないのかもしれない。ってそんなことじゃなくて。


「じゃなくて!何飲ませたのよ!」

「うーん?効果が薄かったかしら。ジュースに混ぜて薄まった?」


 なんて、レドはブツブツ独り言で誤魔化す。


「そういう場合じゃなくて!」

「そうね、そうしてられないわね。ナナちゃん、後を追うわよ。」

「あ、はい。」


 と、つい返事をしてしまったものの、レドがリーダーというわけではない。体に染みついたパーティーメンバー気質に嫌になりながらも、とりあえず気にはなるのでレドと一緒に王子の後を追う。それはそれ、これはこれである。


「殿下はおそらく救護室ね。今日の当番は誰?」

「今日の当番……順番でいうとシアさん?」


 通称、聖女シア。学園一と謳われるほどの治療魔術師であり、性格よし、器量よし、そして美女ときたら、これはまずい。いや、シアさんなら下手な治療はしないだろうし、むしろ、失礼のないくらいに懇切丁寧に対応してくれるだろうが、それがまずいのだ。お姫様はもう決まったようなものである。


 レドと一緒に救護室に急ぐ。表からはさすがに入りにくいので、校舎の裏手へ回り、空き教室の一つを見つけると、鍵をレドが魔法で開け、侵入する。一連の動作をさささ、っとこなす、その姿は冒険者というよりコソ泥そのものである。


 救護室の扉を開けると、そこにはシアさんの姿はなく、ウィード先生がいた。


「どうして先生がここに?」

「どうも殿下は女性を見ると発病するみたいでね。担当には席を外してもらって、私が看護している。」


 よかった。シアさんがいなくて一安心である。いや、そうじゃない、と一人突っ込みする。


「そういう事だから、君たちも心配だろうが、ちょっと席を外してもらいたい。」

「……ナナちゃん、ここを出るわよ。」

「ちょ、まって。」


 レドは強引にナナを引っ張って、部屋の片隅でこっそりと耳打ちした。


「先生と王子のキスシーン、見たくない?」


 ……なにいってんだ、こいつ。


「いや、やっぱり駄目よ。先生に正直に言わないと。」


 一旦いい子ぶってはみるが、ちょっとは興味が沸いてくる。そうよ、今度は先生がわたしの気持ちを分からせる番。その気もなかったのにキスされる気持ちを知ればいいわ、と。これは、ナナの、ささやかな復讐であった。


「ご病気の所お邪魔しました!」


 二人は救護室を立ち去った、ふりをして耳をそばだてる。



「殿下。失礼ですが上着を脱がさせていただきます。」

「すまない。くっ。」


 扉越しに聞こえる衣擦れの音に、喘ぐ王子。


「はぁ、はぁ。体が熱いぞ。余の心が何かを欲しているのだ。」

「わかっています。魔…読…までもうしばらくお待ちください。」

「すまない、その間そなたの体を少し借りるぞ。」

「解…完了。おそらく魅……されています。……効く……使いますね。」


少し聞きづらいが、ガサゴソと何かを取り出す音がする。


「余はどうすればいい?」

「殿下。体の力を抜いて、私の魔…を受け入れてください。少し苦いですよ。」

「わかった。」

「では、目を閉じてください。」

 


 「今よ!」


 レドがおもいっきり扉を開けて現場に踏み込むと、そこには先生と王子の禁断の情事……なんてことはなく、先生が王子に薬を飲ませたところだった。そうよね。キスシーンとしてはちょっとおかしいもの。


 「なにやってるんですか。」


 呆れるウィードに、くどくどと説教を受けることとなってしまったナナたちであった。


 

 かれこれ小1時間ほどたったころだろうか。


「その辺にしておいてはくれないだろうか。」


 魔法解除が上手くいったのか、説教の途中で王子が天幕から出てくる。


「礼装には一応、魔法よけの魔法もかかっていたんだが、しっかりかかってしまったな。いい魔術師じゃないか。強い仲間は歓迎だよ。」


 といって、王子は笑って許してくれた。そして。


「レド。さっき会ったときは見違えたと思ったが、相変わらずお転婆だな。」


 ええ!?この二人知り合いなの!?そんな驚きのナナの視線にレドは答えた。


「別に大したことないわ。ただちょっとした縁があるだけよ。」


 しかし、レドのいつになく深刻そうな表情にナナはそれ以上は聞けなかった。

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