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86 ラニエーリの当主(第2部2章・終)

 まるで冗談のようなふりをしているが、その双眸に本気の色が見える。『友達』の本気に慌てつつも、レオナルドに向けて全力で正論を説いた。


「この人はサヴィーニ侯爵なんだよ、今回守らなきゃいけない対象! グラツィアーノの……」


 けれどもフランチェスカは気付いている。息子であるグラツィアーノだって、侯爵に向けるのは冷たいまなざしだ。


「お嬢、いまだけはアルディーニに同意です。俺自身のことはどうでもいいですけど、お嬢に『関係ない』は有り得ません。この世界にあるもの全部、お嬢が関係あるって言ったら関係あるに決まってんだろ」

「うわああ、グラツィアーノまで変なこと言ってる……!!」


 とはいえこれは日常茶飯事だ。グラツィアーノは冷静そうに見えても、フランチェスカの父が育てて教育している。つまりはフランチェスカのことになると、当たり前のように過激な発言をするのだった。


「リカルドごめん、一緒にふたりを止めて!」

「フランチェスカよ。俺はセラノーヴァ家の次期当主として、この国の伝統的な規範を重視する」

「うん、そうだよね! 裏社会の人間が手を出したりしたら、カタギ……じゃなかった、表の人! 『表社会の人には手を出さない』っていう、伝統的な暗黙の了解を破ることになっちゃうもんね!」

「いや違う。『年長者たるもの手本として、年下にも敬意を払うべき』という伝統を侯爵に……」

「もう、三人とも全員話を聞いて!!」


 フランチェスカは急いで両手を広げ、どうにかレオナルドたちに留まってもらう。


(みんなに行動してもらわなくても大丈夫なのに! だって、もうすぐここには……)


 心の中でそう考えた、そのときだった。


「そんな所で何をしているんだい?」

「!」


 草を踏み締める足音と共に、凛としていながらも柔らかな声が響いた。

 グラツィアーノの父である侯爵が、そちらへ気付かれないように顔を歪める。グラツィアーノは不思議そうに瞬きをし、リカルドははっとしたように背筋を正した。


「おや」


 木立の影を歩くその人物は、こちらの状況を察したらしい。


「ここにいたのか、サヴィーニ閣下。うちの自慢のお姫さまと、森の散歩をお楽しみかい?」

「……ラニエーリ閣下」


 父の言葉を耳にして、グラツィアーノが小さく呟く。


「あれが、ラニエーリ家の当主?」

「……うん。そうみたいだね、グラツィアーノ」


 ゲームで知っているフランチェスカも、この世界で姿を見るのは初めてだ。グラツィアーノと同じように、まったく知らなかったという態度を貫く。


 この場で堂々と立っているのは、レオナルドただひとりだった。


「こんにちは。ラニエーリ殿」

「これは意外な客人だ」


 微笑んでみせたラニエーリ当主のくちびるには、赤色の口紅が塗られている。


「驚いたね。陛下が可愛がっている『孫娘』のご学友が、まさかアルディーニのご当主とは」


 堂々とした胆力を感じる話し方だが、その声音は高い。凛とした切れ長の双眸にも、控えめな化粧が施されていた。


「ああ、そういえば婚約者同士なんだっけ? よかったね色男。随分と可愛い子じゃないか」

「ええ。俺の愛しい宝物です」

「ははっ、それくらい堂々と言い切ってこそさ。大事なものは常日頃から見せびらかして、自分のものだって周りに示さないとね」


 オレンジ色を帯びた金の髪は、陽光をまばゆく反射している。褐色の肌を持つラニエーリ当主は、その金髪を耳に掛けると、煙草を持った手を上げてにこりと微笑む。


「こんにちは、カルヴィーノの可愛いお嬢さん」

「初めまして当主さま。フランチェスカ・アメリア・カルヴィーノと申します」


 ラニエーリ当主はスーツのスラックスに、白いシャツという出立ちだ。

 上着に腕は通さず、肩に掛けて羽織っているのだが、それによって体付きの華奢さや豊かな胸のラインが強調されている。


「この度は、大切な森を貸して下さりありがとうございます」

「堅苦しい挨拶はいいよ、子供は気兼ねなく遊んでこそ。それよりもせっかく知り合いになれたんだ、仲良くやろうじゃないか」


 ぱちりと瞬きをしてみせた仕草が、色っぽいのに可愛らしい。


「女同士、ね」


 彼女こそが、ラニエーリ家の現当主だ。


(……ゲームで見た通りの、素敵なお姉さん……!)


 凛とした立ち姿のその女性に、フランチェスカは憧れのまなざしを向けたのだった。




【第2部3章に続く】

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