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79 請われる命令

【二章】




「暗殺対象、君の番犬の父親なんだろう?」

「……」


 レオナルドが放った一言に、フランチェスカは瞬きをした。


 王立学院は今日をもって、約一ヶ月間の夏休みに入る。終業式に出なかったレオナルドは、中庭の木陰で寛ぎながら、フランチェスカが探しにくるのを待っていたらしい。


 校舎の廊下を歩いていたフランチェスカが、彼の気配を見付けて窓から顔を出すと、嬉しそうに笑ったあとで、先ほどの一言を述べたのだった。


 窓枠に手を掛けたフランチェスカは、校舎の壁を背凭れに座っているレオナルドを見下ろして尋ねた。


「そのこと、ルカさまに聞いたの?」

「いいや? あの場の君たちの反応を見ていれば、大体の事情は察せられる」


 ひょっとしたら、フランチェスカの態度が分かりやすかったのかもしれない。こちらを仰ぐレオナルドは、目を眇めて言った。


「第一君の番犬は、暗殺対象のサヴィーニによく似ているからな。同じ髪色に瞳の色、それから顔立ちも。よく知らない人間が遠目に見れば、同一人物と間違えるほどだ」

「……そっか。じゃあやっぱり、一目で親子って分かっちゃうんだね……」


 だからこそ幼い頃のグラツィアーノは、サヴィーニ侯爵を父だと判断出来たのだろう。同じ理由で侯爵も、その少年が自分の息子であると察せられたに違いない。


「見た目が似ていることもそうだが、我らが国王ルカさまも食わせ者だからな。もっともどうやら君の番犬は、父親のことなんか眼中に無いようだが」

「んんん……」


 フランチェスカが同意しかねるのは、ゲームにおけるグラツィアーノのエピソードを知っているからだ。


(ゲームのグラツィアーノは、表面上は平気そうに見えても、お父さんの件で傷付いたままだった。なら、この世界のグラツィアーノは……?)

「……」


 歯切れの悪いフランチェスカに、レオナルドが立ち上がる。窓越しにフランチェスカと向かい合うと、にこっと笑った。


「フランチェスカは、俺をどう動かしたい?」

「え?」


 思わぬ問いに、きょとんとする。


「どう、って……」

「ルカさまも仰っていた通り。今回の調査において、鍵を握るのはきっと君だ」


 月の色をしたレオナルドの瞳は、底知れない光を宿している。妖艶にも感じられる暗さを帯びていて、まるで魔性だった。


「薬物騒動において、君はお父君やリカルドに頼み事をした。……それらはすべて、セラノーヴァ前当主を犯人として追い詰めるために必要なことだったな」


 レオナルドは目を細め、フランチェスカの頬に触れる。その指は、とてもやさしい。


「どうやら君は、俺たちが知り得ない情報を持っていた」

「レオナルド。そ、それはね」

「おっと。言っただろう? 君自身を守るためにも、君の秘密を明かす必要は無いって」


 フランチェスカのくちびるの前に、レオナルドの人差し指が翳される。


「あの番犬も、君の言う通りに動くはずだ。……だから俺も、フランチェスカに使われてみたい」


 冗談に見せ掛けたその声音には、はっきりとした本音が込められていた。


「俺には何を命じてくれる? フランチェスカ」


 その微笑みは人懐っこく、確かな慈愛に満ちていた。

 それなのに試すような口振りで、フランチェスカを揺さぶろうとする。


「俺をどんな風に動かそうと、すべてが君の思うままだ」

「――――……っ」


 五大ファミリーにおいて、最も高い武力を持つアルディーニ家の当主が、ただの少女に過ぎないフランチェスカへとそう告げた。


(レオナルドと親友になれて、過去にあったことや想いを知って。……レオナルドのことを少しは理解出来たんじゃないかって、思ってたけど……)


 目の前に立っている美しい青年が、いまは知らない人にも見える。


(やっぱりまだまだレオナルドには、私の知らない顔がある――……)


 頭ではなく本能の部分が、レオナルドへの警戒信号を発している。

 けれどもフランチェスカは怯まずに、レオナルドの顔に手を伸ばした。


「……自分を大切にしない、悪い癖!」

「!」


 レオナルドが逃げられないように固定して、間近にその顔を覗き込む。完全に不意を付くことが出来たらしく、レオナルドが目を見開いた。


「レオナルドが駒になるみたいな、そんな言い方は良くないよ。ルカさまも仰ってたでしょ、『協力』だって!」

「……フランチェスカ……」

「私たち友達なんだよね? ……ううっ、友達。ともだち……!」

「フランチェスカ? おーい」


 憧れの響きをじいんと噛み締めたあと、気を取り直してレオナルドに告げた。


「だから命令なんてしないよ。するとしたらお互いに力を合わせるか、お願いをするか。そうでしょ?」

「……」


 レオナルドはやはり驚いたようで、子供みたいに無垢なまなざしを向けてくる。

 その上でフランチェスカは、くすっと笑って彼に提案した。


「その上で、レオナルドに相談があるの」

「……言ってくれ。俺は何をしたってそれを叶える」

「そんなに大袈裟なことじゃないってば! あのね、暗殺事件を防ぐための調査で、これからやりたいことなんだけど……」


 フランチェスカは大真面目な顔をして、レオナルドに告げる。


「――しよう。夏休みに、森でバーベキューを!!」

「………………ん?」


 レオナルドが笑顔を浮かべたまま、瞬きをして首を傾げた。


「フランチェスカ? 暗殺事件を防ぐための調査で……」

「お肉を焼いて、みんなで食べよう!!」

「……あー……」




***

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― 新着の感想 ―
[良い点] フランチェスカ……自由……笑 誰もフランチェスカには勝てへんな笑
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