表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/319

54 友達として

「カルヴィーノ?」

「こほん、とにかく! これだけ広かったら、収穫のお手伝いはひとりでも多い方がいいでしょ? あんまり役に立てないけど……」

「……そうでもない。なにせ最近、雇い人を減らしたばかりだからな」


 リカルドの言葉が意味することに、フランチェスカは俯いた。


「やっぱりおうち、苦しいの?」

「育てるタバコの品種も増やし、工夫はしている。だが管理の工数が増えた分、すぐに利益には直結しないだろう」


 リカルドは、顎を伝う汗をぐっと手の甲で拭う。


「手伝いの礼に情報を渡してやりたいところだが、こちらも進展は無いままだ。――父は今日、国王陛下のお招きで城に馳せ参じている」

「それって、薬物事件の中間報告?」

「加えて、夜会での狂乱騒動についてもだ。このまま陛下のご期待に添えなければ、我が家はいよいよ危ういな」

「……」


 リカルドから次の葉を受け取りつつ、フランチェスカは口を開いた。


「リカルドも、レオナルドが色々な事件の犯人だって考えてる?」

「……率直な心情としては、疑わしい人間が他にいない。だが、薬物事件の方はともかく、アルディーニが夜会の騒動を起こす理由が不明だ」

「……私は、薬物事件の方も納得できないけれど……」


 むにむにとくちびるを閉ざすと、リカルドはこちらを一瞥した。


「随分と、アルディーニのことを信頼している」

「信頼してるというよりも、怒ってるの。この一週間で色々考えたけど、今回のレオナルドは一方的だし、自分ひとりで勝手に決め過ぎだなって」


 先週の会合で言われたことを思い出すと、フランチェスカの中では不服が燻るのだ。


「もう追ってくるなって、そう言われたの」

「……カルヴィーノ」

「確かにレオナルドの言う通りかもしれない。いまの私が捕まえたって、レオナルドは聞く耳を持ちそうにないもん。全部無視して、五大ファミリーの均衡を崩しかねない行動を取り続けそうな気がする……」


 レオナルドがそう振る舞う目的なんて、フランチェスカには分からない。


「だから、何が何でもレオナルドの真意を探るの」

「……何が何でも?」

「そう。それからもう一度レオナルドのところに走って行って、『あなたの考えなんてお見通しなんだから!』って言うんだ」

「……」

「追い詰めて、ひとりで悪者ぶったことを思いっきり怒って。……そのあとは、レオナルドの考えていることの手伝いがしたい」


 そして、ぽつりと口にした。


「……私は、レオナルドの友達だから」

「――……」


 レオナルドだって同じように、フランチェスカを友達だと呼んでくれた。


「改めて思うが」


 リカルドはフランチェスカを眺めながら、しみじみとこう口にした。


「俺はお前との婚約など、頼まれても絶対にしたくないな」

「え、いきなり何!?」


 あまりにも率直な物言いだ。こうもはっきり言われると、人間性の問題を指摘されたかのような衝撃を受ける。こちらだって、リカルドとの婚約などまったく考えもしなかったことだ。


「たとえ一瞬、かりそめの婚約であろうとも、その僅かな期間だけで振り回されそうな気がする。俺は台風の中に飛び込むような趣味はない」

「私は至って平凡な人間だよ! 裏社会で生きるつもりもないし、安全だもの!」

「平凡な人間は、五大ファミリー当主を追い詰めるなどと張り切らないし、得体の知れないスキルを持ち合わせてもいない」

「うぐ……」


 スキルの事に言及されて、言葉に詰まる。

 あの夜会でスキルを見せてからも、リカルドは一切それに触れずにいてくれたが、気になっていないはずはないのだ。


(どうしよう。このままスキルについて追及されるのかな……)


 身構えたものの、リカルドにはそのつもりはないようだった。

 ただ、こんな風に話すだけだ。


「だからお前との婚約をせず、さまざまな事態が収束するなら、それに越したことは無い」

「……リカルド」

「手伝えることがあれば協力する。……収穫の礼だ」


 不愛想な物言いだが、それが妙に頼もしい。

 フランチェスカはくすっと笑い、彼に「ありがとう」と告げたのだった。




***




(とはいえ)


 翌日のこと。

 昨日の晴天は束の間のことで、この日は再び雨だった。フランチェスカは降りしきる雨の音を聞きながら、父の書斎にこもり、調べ物を続ける。


(今日はパパが国王陛下に呼ばれてる。私たち貴族の結婚は国王承認が必要だから、そこに変更がありそうな可能性を報告させられているのかも。……レオナルドに返事をしなきゃいけない期限は来週だ、急がなきゃ)


 本を引っ張り出しては目を通し、再び本棚に戻してゆく。


(レオナルドの目的は何? 薬物事件や夜会の事件に関係がある? それすらも分からないし、取り掛かりの糸口も見当たらない……)


 そんな焦りから、昼食も忘れてのめりこんでしまう。時間を忘れて集中していたところに声をかけてくれたのは、弟分だ。


「……オレンジジュース持ってきましたけど、お嬢」

「ありがとう、グラツィアーノ」


 差し出されたグラスを受け取って、一度本から遠い位置に置く。再び本に目を落としたフランチェスカを見て、グラツィアーノは溜め息をついた。


「あれもこれも、裏社会に関する情報や家業に関する本ばっか。あれだけ避けてたくせに、アルディーニの所為でどっぷりと首を突っ込んじゃって」

「……グラツィアーノ、私に『悪あがきせず、さっさと裏社会の住人になった方が良い』っていつも言ってなかったっけ?」

「思ってますけど。裏社会に抵抗がなくなった原因がアルディーニなら、シンプルにムカつきますね」


 それはどういう理由なのだろうか。フランチェスカが首を傾げると、「どうせお嬢には分かりませんよ」と拗ねられる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ