表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/340

51 ひたすらに追いかける

「レオナルド!!」


 外に飛び出したフランチェスカは、大きな声で彼を呼んだ。


 ここは王都の一等地で、貴族向けの店などが並んでいる路地だ。

 人通りはそれなりにあり、身なりの良い通行人たちが、驚いたようにフランチェスカを振り返った。


 けれども当のレオナルドは、こちらを振り返ることがないままだ。


 他人の注目ばかり浴びるけれど、気にしてはいられない。フランチェスカはドレスの裾を掴んだまま、遠ざかる人影を目掛けて走る。


「待ってよ、レオナルド……!」


 背の高い彼の後ろ姿でも、人通りに遮られてほとんど見えない。それでも、フランチェスカの声が聞こえていないはずはなかった。


(さっきのレオナルドの言い方は、私との婚約を、自分の利益のために利用しているとしか思えないものだった。……だけど)


 通行人たちに謝りながら、ぶつからないよう必死に進む。


(――あんなの、わざとそう振る舞っていたとしか思えない!!)


 フランチェスカの中には、そんな確信があったのだ。


「前にも言ったよね!? あなたが本当に私を利用して何か企んでいるなら、そんな態度を表に出さない……! もっと完璧に、誰にも気付かれずに利用してみせるはず! そうでしょ!?」


 未だに遠いレオナルドの背中は、立ち止まってくれる気配もない。


「分かってるよ! 友達、なんだから……!!」


 息を切らしながら、フランチェスカは大きな声で叫んだ。


「私の前では、悪者ぶらないで欲しいのに!! それなのに、レオナルドの、バ――……」


 子供じみた悪口を言い放とうとした瞬間に、ぐらっと足元が歪む。


「ひゃ……」


 しまった、と思ったときにはもう遅い。足が取られ、バランスを崩してしまう。


「……ぎゃんっ!!」


 仔犬のような悲鳴を上げて、フランチェスカは盛大に転んだ。

 なんとか受け身を取ろうとしたものの、こんなに華奢な靴で石畳の道を走ったことなどない。その結果、べしゃっと崩れ落ちてしまう。


「~~~~……っ!!」


 足首に、嫌な痛みが走った。

 悲鳴を上げてしまわないよう、ぐっと奥歯を噛み締めて耐える。けれどもその場に蹲り、心の中で盛大に叫んだ。


(いっ、たあ……!!)


 周囲に居た人たちも、フランチェスカの転びっぷりに戸惑ったのだろう。声を掛けるか戸惑って、ざわめくような気配がする。


「あの子、大丈夫か?」

「派手に転んだな……あれは痛いだろうに」

(そんなことよりも、レオナルド……!)


 フランチェスカは石畳に手を付き、必死に起き上がろうとした。


(早く追いつかなきゃ、いけないのに……)


 立ち上がろうとするも、左足にずきりと痛みが走る。


(ちゃんと話さなきゃ。レオナルドがどんな気持ちで、どんな目的を持ってあんなことを言ったのか聞いて……)


 項垂れて地面に手をついたまま、ぐっと力を込める。


(それから、レオナルドが何を言ったとしても)


 足首の痛みに耐えながら、それでも彼を追い掛けようとした。


(……私は、レオナルドの味方をするって、ちゃんと伝えたい……!!)


 それなのに、立ち上がれそうにない。

 なにがなんでも抗おうと、フランチェスカは奥歯を噛み締める。


(歩かなきゃ。進まなきゃ。そうじゃないと、レオナルドに届かないんだから……!)


 その瞬間に、声が聞こえた。


「……まったく、君は……」

「!!」


 痛みに耐えて潤んだ目で、顔を上げる。


「え……」


 涙にぼやけた視界の中で、信じられなくて瞬きをした。

 明瞭になった世界には、先ほどまではるか遠くにいたはずの人物の姿がある。


「弾丸みたいな女の子だな。真っ直ぐで後先を顧みなくて、手が付けられない」

「……レオナルド……!!」


 先ほどまでの声とは随分と違う、少し呆れたやさしい声音だった。


 フランチェスカの眼前に現れたレオナルドが、フランチェスカの前に膝をつく。


(引き返してきてくれるなんて、思わなかった……)


 足の痛みなんか一気に忘れ、フランチェスカは彼に縋りつく。


「レオナルド! あのね、私ね」

「落ち着け。まずはこっちだ」

「!」


 レオナルドはフランチェスカを起こすと、そのままふわりと横抱きに抱き上げた。

 フランチェスカの赤いドレスの裾が、金魚の尾びれのように揺らめいて広がる。お姫さま抱っこをされたのなんて、前世も含めて初めての経験だ。


 レオナルドのそんな振る舞いは、舞台のワンシーンのように美しかった。周囲を取り巻いていた通行人たちが、思わず見惚れて溜め息を漏らすほどに。

 けれども足首がずきりと痛み、フランチェスカは身を竦めた。


「……っ!」

「――……」


 声は完璧に殺したけれど、怪我をしているのは知られてしまっただろう。


 痛みに呻いてしまいそうで、すぐには口を開くことが出来なかった。レオナルドはフランチェスカを一瞥したあとに、人気のない路地まで入っていく。


 そして片隅にぽつんと置かれたベンチまで行くと、フランチェスカをそこに座らせた。


 レオナルドは小さく溜め息をついて、フランチェスカの前に跪く。

 そしてフランチェスカの靴に触れると、上目遣いにこちらを見上げた。


「脱げるか?」

「……く、靴……?」

「靴もそうだが――……」

「うう……」


 彼の意図を汲み、恥ずかしさにぐぐっと言葉が詰まった。

 それでもレオナルドが目を瞑ってくれたので、フランチェスカは観念し、ドレスの裾をたくし上げる。


 太ももに取り付けているのは、ストッキングを留めるためのガーターベルトだ。


 フランチェスカの場合、そこに武器などを隠したりもする。けれど、いまはそれに用がある訳ではない。


 ベルトに連なる留め具を外し、左足のストッキングをずらした。

 妙に緊張してしまい、途中で手を止めて息を吐く。レオナルドは瞑目したままで、何も言わない。


(恥ずかしくない、恥ずかしくない……!)


 自分に言い聞かせつつ靴を脱ぎ、左のストッキングをつまさきまで下ろす。

 こうして晒されたフランチェスカの素足は、足首が真っ赤に腫れていた。


「ぬ、脱いだ……」

「……」


 報告すると、レオナルドが緩やかに目を開ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 犬ヒロイン……
[一言] こらポメを置いていかないの、転んじゃったじゃん!
[一言] 「ぬ、脱いだ····」脱いだァァァァァ!この可愛い生き物は! おはようございます。ありがとうございます。尊いです。戻ってくるレオナルドも当然と言われるかもしれないけど優しいですが、俺得おめ!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ