41 友達たるもの
「生憎、俺が薬物事件に関わっているかを君に話すつもりはない」
「……どうして?」
フランチェスカが尋ねると、レオナルドは柔らかく言うのだ。
「表の世界で生きたい人間が、こんなことに首を突っ込むべきではないからさ」
「……」
フランチェスカは考える。
そして、口を開いた。
「でも、友達だよ」
「……」
いまのフランチェスカにとって、友達は世界でただひとりだ。
生まれて初めての存在だからこそ、間違った接し方をしてしまうかもしれない。それでも、とこう言葉を紡ぐ。
「私の憧れてる『友達』は、こういうときどんどん首を突っ込むものなんだ」
レオナルドの手をぎゅっと握り、目を見て告げた。
「だからね。……離さない」
「……!」
そう告げて、フランチェスカの中にはひとつの決意が生まれてくる。
(ずっと『黒幕』だと思っていたレオナルドとも、友達になれたんだから)
少しだけ面食らった表情の彼を見て、考える。
(『家族』であるパパやグラツィアーノ、『同級生』のリカルド……誰が敵かもしれなくても、関係ない。みんなが望んでひどいことをしたり、約束を破ったりする人じゃないって、分かってるもん)
そうであれば、やるべきことは明白だ。
(薬物事件は終息させる。その上で、もしも私の知っている誰かが不本意な『悪党』を演じさせられているのなら、それもなんとかするんだ。……レオナルドが本当に本当に黒幕だったなら、なんとしてでも止めればいい。友達として!)
「……フランチェスカ?」
視界がきらきらと輝いて、フランチェスカはにっと笑った。
「へへ。なんか、元気が出た」
「……ふ」
レオナルドは満足そうに目を細め、フランチェスカの頭を撫でた。
「それはよかった。……そろそろ行こうか」
「うん」
頷いて歩き出し、最後にもう一度墓石を振り返る。
(またね、ママ)
一歩前に進めたような気持ちになり、小さく手を振った。
***
帰り道、途中のアイスクリーム屋さんに立ち寄ったフランチェスカたちは、それぞれに好きなアイスを選ぶ。フランチェスカはチョコミントで、レオナルドは普通のチョコレートにしたようだ。
街角の人気店には、いつもちょっとした行列が出来ている。もちろん並ぼうとしたのだが、レオナルドはこう言った。
「俺が並んで買ってくるから、君はこの先のベンチにでも座っていてくれ」
「え。ううん、私も一緒に並ぶよ」
「役割分担。日当たりのいいベンチはすぐに取られるから、君が確保しておいてくれないか?」
「……」
レオナルドはこう言うが、恐らくはフランチェスカを並ばせないようにする気遣いだ。
とはいえ、仕方がないので頷いた。
「じゃあ、レオナルドの鞄は私が持ってる」
「ああ。頼んだ」
(……こういうとき、ちゃんと私にも頼みごとをしてくれるんだよね)
対等な友人関係であることを、きちんと示してくれているのだろう。フランチェスカは、さほど重くないレオナルドの鞄と自分の鞄を持ち、少し離れたベンチに腰を下ろす。
(レオナルドのお陰で、だいぶ冷静になれてる気がする。じゃあ、さっそく次の作戦!)
目を閉じて、ゲームのシナリオを思い出した。
(今日は五月二十六日。中間テストが終わった翌週月曜、新月の日……ゲームシナリオでは、ひとつの動きがある日のはず)
細かい日付は曖昧だが、テスト後にある最初の新月だったことは間違いない。
シナリオは、一章の後半に差し掛かってくる頃合いだ。
(ゲームでは、主人公とリカルドの調査によって、夜会の大騒ぎや薬物事件の黒幕がレオナルドだっていうことになる。主人公とリカルドはレオナルドに立ち向かうため、お互いのファミリー同士で同盟を結べないか奔走するんだ)
そのために、それぞれの父親、両家の当主に働きかけるのである。
(レオナルドは、カルヴィーノ家とセラノーヴァ家の同盟を妨害しにくる。主人公とリカルドは、とあるお屋敷に閉じ込められちゃって、そこから命の危険がありつつも脱出する流れだ)
それによって主人公は、最初の協力者であるリカルドと絆を深めるのだ。
(この脱出成功をきっかけに、両家の父親が同盟を結ぶことになる。そして逆に、パパが私とレオナルドを婚約破棄させて、レオナルドとの対立がより激化することに……)
そこまで思い出して、溜め息をついた。
(……さあ、どうしよう。これまでのことを考えると、『ゲームイベントと同じ出来事は、必ず起こる』と思って間違いがなさそうだし)
主人公の誘拐、夜会への参加にそこでの騒動と、どれほど避けてもイベントは発生してしまう。
ただ、その中身や結末は変えられそうだという点だけは、朗報だった。
(このままいくと、今日うちに帰ったらきっと、セラノーヴァ家からの遣いが来てるんだ。レオナルドが薬物事件の犯人であることを暴いて、排除するために、同盟を組む流れになる可能性が高い……だけど、いまは怖いなあ)
なにせ、本当の黒幕が誰なのか、いまのフランチェスカは疑っている。
(この状況で、下手にファミリー同士の関係性や繋がりを変化させるのはどうなんだろう? それに、アルディーニ家やレオナルドが敵だっていうことを前提にした同盟も気が進まない)
ぼんやりしていると、レオナルドがコーンに載せられたアイスを手にやってきた。
「列の進みが早かった。ほら」
「ありがとう、レオナルド!」
お礼を言い、アイスの代金を渡す。
当主であるレオナルドは、お小遣い制であるフランチェスカよりもお金持ちなのだが、ちゃんと受け取ってくれるところが対等で嬉しい。
フランチェスカはお財布を仕舞ったあと、受け取ったアイスをかぶりと齧った。甘さと爽やかさの入り混じった独特の味わいに、にこにこする。
「おいひい……」
「真剣な顔して俯いてたけど、何考えてたんだ?」
「んーと。もっとたくさん友達を増やすには、どうしたらいいかなって」
そう適当に誤魔化すと、レオナルドは「ふうん」と目を細めた。
「……レオナルド、いまちょっと拗ねた?」
「うん。『俺がいるだろ』って思った」
時々びっくりするのだが、レオナルドは意外なほど素直に、自分の感情を口にすることがある。
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