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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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332 大好き






「私がどうしてこの世界に転生したのか、それはまだ分からない」

「……君は」

「だけど。パパとママの娘として、こうしてここに生まれてきたから」


 レオナルドにぎゅうっと身を寄せて、心臓の音を確かめる。


「だから私は、レオナルドのことを抱き締めて、泣かないでって伝えてあげられる」

「…………!」


 そのことが心から幸福だと、そう思った。


「私が、私である限り」


 頭の奥に埋められた痛みに抗って、瞑目する。

 たとえどれほど苦しくとも、痛みを負っても構わないと、言葉を紡いだ。


「……『レオナルドのフランチェスカ』で、ある限り……」


 父と母が注いでくれた願いが何か、本当はずっと知っていた。


(ごめんねって、謝るんじゃなくて)


 そうして怯え、立ち止まってしまうのではなくて。


(ありがとうって。……幸せだよって、伝え続けるよ)


 父が聞かせてくれる母の話は、いつも温かさに満ちている。

 会いたかった想いは叶わなくとも、その愛情を疑ったことはない。フランチェスカが幸福を伝えれば、母はきっと笑って喜んでくれる。


(前世のふたりも、今世のふたりも――パパとママは私を愛して、幸せにって願っていた。そうやって贈ってくれた私の運命を、もう二度と手放したりしない)


 記憶の中に、いくつもの光景が流れてゆく。


(洗脳になんか、もう負けない。私は……)


 前世の父と母の写真。それを眺める祖父の背中。

 母の死に傷付いたままの今世の父の顔と、墓碑に刻まれた母の名前。それらのすべてを前にして、改めて言い切る。


(――運命を憎んだことなんてないって、言い切れる!)


 鎖が砕けるような音が、鼓膜の奥に響いた気がした。


「…………っ」

「フランチェスカ!」


 薔薇の花びらが散る幻が、視界を覆ってくらくらする。泣きそうな気持ちでも嬉しかったのは、美しい満月がそこにあるからだ。


「……ありがとう。レオナルド」

「!」


 間近に見上げたレオナルドが、かすかに息を呑んだ気配がした。


「ずっと待たせて、困らせた。……レオナルドをたくさん傷付けて、心配させたけれど」


 彼に回していた腕を解き、代わりにその頬へそうっと触れる。

 フランチェスカの洗脳が解けたのだと、レオナルドは悟っていただろう。それでも言葉で説明するべきだと、本当は分かっていたつもりだ。


 それでも最初にどうしても、見付けた想いを伝えたかった。


(泣かないで。可愛いレオナルド)


 フランチェスカを見詰める彼は、決して泣いてはいなかったのに。

 それでも願いを込めながら、フランチェスカはそのくちびるにキスをする。


 そうしてすぐに離した後、何処か無垢なまなざしのレオナルドを見据えた。滲む視界の中で、フランチェスカは彼に微笑む。




「――私は、レオナルドが好きだよ」

「…………!」




 ようやく、伝えてあげることが出来た。

 その幸福にほっとして、もう一度彼にキスをする。柔らかな口付けを交わしながら、嬉しくてもっと繰り言を重ねた。


「好き。……あなたが大好き」


 レオナルドの頭を一度撫でて、少しだけの照れ臭さに目を細める。


「これがレオナルドへの恋だって、ちゃんと分かる」

「…………っ」


 その瞬間、再びレオナルドに抱き寄せられ、耳元でこんな風に紡がれた。


「愛している。フランチェスカ」

「……レオナルド」


 本当に、たくさんの心配を掛けてしまったのだ。

 触れ方のすべてからそれが伝わり、胸がいっぱいになってしまう。彼の頭を撫でようとしたのに、レオナルドはそれを許してくれず、今度はレオナルドからキスをされた。


「!」


 驚いて身を竦めてしまうものの、それ以上に嬉しいという気持ちが勝る。

 初めてのキスのときよりも、ずっと上手に出来ているはずだ。片腕を彼の背に回し、右手でレオナルドの頭を撫でたら、重ねるだけのキスがゆっくりと離れた。


「……なんだか、変な感じ」


 喜びと幸福が()()ぜになったまま、フランチェスカはレオナルドを見詰めて笑う。


「レオナルドが好きだって思うだけで、すごく嬉しい気持ちになれるの」

「…………フランチェスカ」

「ふへ」


 ほんの少しだけの照れ臭さも、胸の中に心地良い温かさに変わる。


「大好き。レオナルド」

「…………っ」


 レオナルドはまたキスをくれたあと、お互いの額をこつりと合わせた。


「何処にも怪我や、痛みはないか?」

「……うん。平気」


 額同士を重ねたまま、間近での問い掛けがくすぐったい。怖がらなくても良いのだと知らせたくて、フランチェスカは小さく頷く。


「レオナルドのスキルが、たくさん守ってくれたから」

「…………」

「っ、ん」


 レオナルドはきっと、自分をたくさん責めたのだろう。

 守れなかったと、そんな風に思わせるのは嫌だった。何度もキスを重ねられるのは、その分だけ心配を掛けた証なのだ。


「ごめんね」


 は、と浅く息を吐き出したレオナルドを、フランチェスカはよしよしと撫でてあげる。


「良い子。……もう、大丈夫だから」

「……本当に、君という女の子は……」


 少し困った顔のあと、レオナルドはフランチェスカから身を離す。

 その上で先に立ち上がり、床に座り込んだフランチェスカへと手を伸ばした。お礼を言ってその手を取り、レオナルドの前に立ったフランチェスカを、改めて月色の瞳が見下ろす。


「フランチェスカ」

「?」


 やさしい声が、礼拝堂の中で紡がれた。


「おかえり。……ずっと、君に会いたかったよ」

「…………」


 次の瞬間、フランチェスカはレオナルドにしがみついて、心から幸せな気持ちで笑った。


「ただいま。――私も前世からずーっとずっと、レオナルドに会いたかった!」

「…………ああ」


 そうして彼に出会えたからこそ、この世界で大好きな人たちと出会えたのだ。

 腕の中でレオナルドを見上げたら、今度は身を屈めてキスをくれる。こうして傍に居られることが、泣きたいほどに幸せだった。





挿絵(By みてみん)


『悪党一家の愛娘』あくまなシリーズ、アニメ化企画が進行中です!!

関わってくださった、すべての皆さまのお陰です。本当にありがとうございます!!


動いて話すフランチェスカたちを、皆さまと一緒にテレビで観る日がとっても楽しみです!!

続報をお待ちくださいませ!!

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― 新着の感想 ―
号泣案件で涙が止まらないです(߹ㅁ߹)♥︎本当に最高の作品をありがとうございます(Т^Т)
アニメ化、おめでとうございます! 2話更新も、ありがとうございます。 仕事が終わって、続きをワクワクして読み、幸せな気持ちで読み終わりました! やっと、2人が再会できて、めちゃくちゃうれしいです。 よ…
フランチェスカちゃんが自分を許すことができて、そして2人が無事に結ばれて本当に、本っっ当にによかった...!フランチェスカちゃんの告白シーン、レオナルドの告白シーンと重なる描写がいくつもあって、なんだ…
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