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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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323 愛する運命



『ひとつは、聖樹を浄化するスキル。ミストレアルの輝石がなくとも、聖樹を清められるというものだけれど……この国は今、さらにそれを応用して、聖樹の成長に関与できないか試しているわ』

『……そのために君を「聖女」などと呼び、庇護しているのだろう』

『ふふ。本当は、一介の公爵令嬢でしかなかったはずなのに、おかしいわよね……』


 火照った顔で苦しそうに言いながら、寝台の傍に立つエヴァルトを見上げる。


『もうひとつは、「運命変化」のスキル。これはすごく大雑把なもので、細かく調整は出来ないのだけれど……』


 セラフィーナはゆっくりと手を伸ばし、エヴァルトの手を握った。


『対象がこれから辿る運命を、良くも悪くも変化させられる。つまりは祝福することも、呪うことも出来る……』

『――その反動が、君の生命力を削ることか?』


 彼女がこうして床に伏せたのは、エヴァルトの運命を救ったからだ。


『本当に良かったわ。運よく通り掛かった隊商が、私たちを見付けてくれて。しかも、最上級ランクの治癒スキルの所有者まで乗り合わせて、あなたを助けてくれたんだもの! まさかその人が、血液増幅のスキルまで持っているなんて』

『その代わりに、君は何日寝込んでいる』


 セラフィーナは不満そうな顔をして、拗ねた様子でエヴァルトを見る。


『せっかく助かったのに、相変わらず殺し屋みたいに怖い顔……』

『……仕方がないだろう』


 思えば、他人に対して苦言を呈したのさえ、あのときが初めてだったかもしれない。


『君の辛そうな顔を見ると、私まで胸を抉られるようだ』

『――――え』


 セラフィーナが目を丸くしたのが、エヴァルトには少々意外だった。


『なんだ? 何故そう驚く』

『い、いいえ、その。……びっくり、したから……!!』

『…………?』


 やはり、セラフィーナは変わった女性だ。


 それからもエヴァルトは要請を受け、何度もセラフィーナの護衛を務めた。そのときに隣国で築いた人脈が、のちにカルヴィーノ家の商路に繋がる。


 隣国の最大の試みは、セラフィーナの聖樹浄化スキルを応用することで、新たな聖樹を生み出すというものだったらしい。

 それが成功すれば、今後一層セラフィーナが危険に晒されるだろう。そのことを苦々しく感じながらも、エヴァルトはただの護衛役だ。


 どれほど友人として傍に居ても、エヴァルトに口を出す権利はない。

 そうやって耐えてきたある日、思わぬ事実を耳にした。


『――セラフィーナ!』

『あら。いらっしゃい、エヴァルト』


 彼女の頬が腫れているのは、恐らく父親によるものだ。

 セラフィーナの睫毛は濡れていた。泣いていたことを隠したかったのか、照れ臭そうにエヴァルトを出迎える。


『そんなに走って来るなんて。ひょっとして、私を心配してくれたの?』

『当たり前だろう……!! 聖樹育成の役目を、下ろされたと』

『そう。お役御免になっちゃったの』


 エヴァルトの前に立った彼女は、肩を竦めて軽く笑った。


『この状況でも国王陛下に貢献できる手段を、お兄さまが絶賛考案中よ。あなたの国の六大ファミリー? ロンバルディ家に嫁げって、そう言われたわ』

『…………っ』

『ロンバルディ家には、聖樹を研究している実績があるんですって。エヴァルトは知ってる?』

『待て』


 彼女が一度に話そうとするのは、体調不良を隠しているときだ。

『友人』のセラフィーナの肩を掴み、エヴァルトは真っ向から視線を合わせた。瞳の赤は、エヴァルトの髪と同じ色のはずなのに、別物に思えるほど美しい。


『順を追って話してくれ。君は父君や兄君の期待に応えるべく、命を狙われる中ですら、聖樹育成の任を果たしていたはずだ』

『…………』

『それが何故、役割を下されるという結末に至った? 事と次第によっては、正式な抗議を……』

『だめ』


 ぽつりと紡がれたその声は、聞いたことがないほどに弱々しいものだ。


『駄目なの。……私はもう、聖樹を浄化することすら出来なくなっちゃった』

『……な……』


 思わぬ事実に息を呑む。

 それはつまり、セラフィーナが元来持っていたスキルが、一切の効果を持たなくなったということだ。


『お父さまたちにも陛下にも、誰にも内緒にしていたのだけれど……あのスキルには、制約があったのよ。私がそれを破ったから、もうおしまい』

『制約……?』

『私のスキルではもう二度と、聖樹に干渉できないわ』


 セラフィーナの瞳が、泣き出しそうに揺らいでエヴァルトを見上げる。


『誰かに強く、恋をしたから』

『…………』


 白くて華奢な彼女の手が、縋り付くようにエヴァルトに伸ばされた。


『ごめんなさい』


 初めて聞いた泣き声が、心から紡がれた懺悔に混じる。


『あなたが命懸けで助けてくれたときから、あなたに恋をし始めていた。会うのをやめなくちゃと思っていたのに、ここで諦めなきゃと分かっていたのに……!』

『……セラフィーナ』

『聖女ではなく、友人として傍に居させてくれた。……あなたのことが、どうしても好き』


 華奢な体が震えていた。

 こうして想いを吐露することに、彼女は心から怯えていたのだ。それでも告げずにはいられないのだと、泣きながら何度も繰り返す。


『……ごめんなさい、エヴァルト……』


 最初に彼女に恋をしたのは、自分の方だと思っていた。

 抱き締め返してそう告げたとき、セラフィーナはその目を丸くして、どうしてかますます泣いたのである。


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― 新着の感想 ―
最新話まで一気読みさせていただきました! フランチェスカのパパとママにこんな過去があったんですね。ある意味身分違いの恋……ドラマチックな展開だ……!
フランチェスカのパパ、ママのお話もフランチェスカとレオナルドに負けないくらいすごい素敵なお話!
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