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悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣 3章〜

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306 誠実な決意


(……リカルドの継承式は、無事に出来るのかな……)


 クレスターニに宛てがわれた客室で、ベッドに大の字になったフランチェスカは、ぼんやりと天蓋を見詰めていた。


(私が洗脳されたのは一月一日だけど、今日は何日なんだろう? 新年を迎えて最初の土曜日……六日に継承式だったはず)


 申し訳ない気持ちと残念さで、心の中がいっぱいになる。


(リカルドはきっと、すぐに中止の判断をしたんだろうな)


 そんな想像が浮かんできて、ごろんとうつ伏せに寝返りを打った。


(こんなとき、自分の家のことや今までの準備も投げ打って、人のために動けるのがリカルドだもん。継承式のために、たくさん準備していたはずなのに)


 枕に顔を埋めたフランチェスカは、学院でよく見掛けた、見回り中のリカルドの姿を思い出す。


(いきなり当主を継ぐことになっても、リカルドはいつも一生懸命だった。真面目に学院にも通って、風紀委員長としての活動も続けていて……グラツィアーノの補習も見張ってくれて、私たちにも協力してくれる)


 それでいて自分にとても厳しい。

 未熟者を名乗って謙遜するが、フランチェスカからしてみれば、努力を欠かさない立派な人だ。


(お父さんのお見舞いも欠かさない中で、当主になるための準備にもずっと真剣だった。ひとつの区切りになるのが、当主の継承式だったのに……)


 リカルドは今頃、継承式の準備などすべて停止させて、フランチェスカを探してくれているのだろう。


(ごめんね。リカルド)


 どれほど謝っても足りない気持ちで、フランチェスカは枕を抱き締める。


(分かってる。リカルドだったらこういう時、『しっかりしろ』って私を励ますって)


 思い浮かべるのは、こんな想像だ。


『現状を変えることが出来る手段は、行動あるのみだ。塞ぎ込むよりも、前に進む方がずっと良い』

(……目に浮かぶな。もちろん、甘えてなんていられないけれど)


 フランチェスカは起き上がり、黒いドレスの裾を整えつつ、ベッドの上に座り直す。


(リカルドが、自分の家のことにだけ集中できるように。早くここを出て、リカルドへの当主就任お祝いを渡すんだ!)


 そう思えば、なんだか元気も湧いてきた。

 窓の外は相変わらず真っ白で、いまが何時なのか分からない。フランチェスカはベッドを降りて、扉にぴったりと耳を付ける。


(今なら、私ひとりで屋敷の中を探検できるかもしれない。でも……)


 フランチェスカは誘拐に慣れている。

 前世も含めたこれまでの経験を、目を閉じて振り返った。


(大事なのは、ひとりにされても問題を起こさなかった実績を作って、信頼してもらうこと)


 そう決めて、口を開く。


「『やっぱり、お腹空いた』」


 敢えて言葉にした後で、そっと扉を開けてみる。

 静まり返った廊下に出ると、そのまま探索を始めるのではなく、数メートル離れた隣の扉をノックした。


「ルキノ、居る?」

「…………」


 十秒ほどの時間が空いたあと、内側に向けて扉が開いた。

 そこに立っていたのは、複雑そうな顔をしたルキノだ。


「よかった! 思っていた通り、ルキノは隣の部屋だったんだね」

「…………何の用」


 ルキノの顰めっ面を前にして、フランチェスカは自分のお腹を押さえる。


「どうしてもお腹が空いちゃって……」

「…………」


 ルキノがはあっと溜め息をつくものの、フランチェスカがどんな用件を口にするのか、本当は分かっていたのではないだろうか。


(ルキノのスキルは『盗聴』だもの。本当ならレオナルドの結界のお陰で、盗聴スキルは拒絶されるはずだけど)


 この結界には、フランチェスカに敵意がないスキルや、フランチェスカ自身が望んだ場合は弾かないという柔軟性があるのだ。


(今の私は洗脳中。もしも私の意思で盗聴を受け入れていたら、ルキノには私の声が聴かれ続けているよね?)


 少しの恥ずかしさは感じるものの、盗聴されている可能性を逆手にとって利用するのは、前回の作戦でもやったことだ。

 もちろんルキノも警戒しているだろうが、フランチェスカはなるべく無害なふりをして、ルキノに相談した。


「ルキノはもう、ご飯食べた?」

「……今からだけど?」

「え!!」


 フランチェスカのお腹が小さく鳴る。これでも一応、空腹を感じて困っているのは真実なのだ。


「いいなあ……」

「……ふん。良い気味だね」


 ルキノは口の端を上げ、フランチェスカのことをこう嘲る。


「クレスターニさまに逆らうからだよ。あのお方が用意してくださった食事を拒絶したんだから、こんなのは当然の罰じゃない?」

「…………」

「な……なんだよ、その目は」


 悲しい顔をしたフランチェスカの代弁をし、お腹は更にぐううと鳴った。


(このままルキノに盗聴されてたら、半分以上がお腹の音になっちゃうかも。どうしよう、それは結構恥ずかしい……!)

「く……」


 そうなってくると困るのは、ルキノも同様だったのだろうか。

 ルキノはもう一度溜め息をつき、フランチェスカを押し除けるようにして廊下に出たかと思えば、一度だけフランチェスカを振り返る。


「……何のんびりしてる訳?」

「え?」

「食事に行くって話しただろ。食べたいならさっさと来なよ、まったく!」

「ルキノ……」


 最終的には面倒を見てくれる振る舞いに、嬉しくなって頷いた。


「うん、ありがとう!」

「くそ。面倒臭いはずなのに、なんでこんなに放っておけないんだ……」


 こうして先ほどまでとは反対に、フランチェスカはルキノの後ろを歩き始める。

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