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302 変化の結果

※昨日も更新しています。前話をお読みでない方は、ひとつ前のお話からご覧ください。







***




 王都の裏路地にある診療所で、薬瓶の棚を見上げていたレオナルドは、部下からこんな報告を聞いた。


「……早朝、サヴィーニへの面会者が来訪した。カルヴィーノの構成員」

「ああ。番犬か」


 ここにいるカルロは、スキルに纏わる医学に特化した人間だ。

 医者と表現する者もいるが、レオナルドの目には研究者として映る。幼い頃からカルロを知っていたレオナルドは、この男がロンバルディを追放された際に、これを拾って配下としたのだ。


「息子と色々話すことで、サヴィーニから新しい情報を引き出せないか試したんだろう」

「洗脳後に欠けた記憶は、補完が困難。効果への期待値は低いが、検証は必要」

「ああ」


 棚から小瓶を取ったレオナルドは、暖炉の前のソファーに座る。隣にフランチェスカが居なくとも、ひとり分の空間を開けた上で腰を下ろした。


「すべての記録を徹底的に集めろ。フランチェスカを取り戻した後、治療のために使えるものは全て使う」

「……洗脳の解き方」

「ああ。これまでは、フランチェスカによる『真実の追求』が引き金だった」


 クレスターニに洗脳された人間は、フランチェスカによって洗脳の指摘を受けると、その状態に少しずつ綻びが生じた。


 フランチェスカは否定的だったが、傾向としては間違いない。


「ダヴィードの言葉によればクレスターニも、フランチェスカが近付いた人間の洗脳が解けやすくなるという見方を持っているようだが……」


 洗脳されたのは、そのフランチェスカだ。


(とはいえクレスターニの目的は、洗脳を解くフランチェスカが邪魔だったことだけじゃない。恐らくは……)


 カルロにも伝える気の無い思考を浮かべながら、小瓶の蓋を開ける。中に入っている青色の液体からは、シロップのような甘い香りがした。

 それを一度に飲み干したレオナルドは、思いっ切り顔を顰め、べっと舌を出す。


「相変わらず、物凄く不味いな。薬の効果がなくとも、これだけで目が覚めそうだ」

「多飲は良くない。嗜好性が低い状態が最善」


 蓋を閉め、カルロの方に放る。カルロはそれを受け止めて、ぽつりと呟いた。


「……今回は、洗脳対象者がカルヴィーノの娘。異なる解除の方法を、考案……」

「いや」


 カルロの言葉を遮って、レオナルドは目を眇めた。


「フランチェスカの洗脳を解く引き金は、俺の言葉だ」

「!」


 レオナルドには、その確信があった。


「俺はあのとき『賢者の書架』で、フランチェスカが洗脳されていることを指摘した。フランチェスカはそれ以降、振る舞いを取り繕うことはなく、これまでとは別人格であることを隠さなくなった」

「……ふむ」

「だが、必要となる言葉は恐らく、『真実の追求』ではない」


 最初から洗脳が明白だったフランチェスカには、暴くべき真実がほとんど無いのだ。


「クレスターニの洗脳スキルは、フランチェスカの持つ変化のスキルによって、以前とは何処かが変質している」


 賢者の書架で見付けたフランチェスカは、レオナルドの前で目を覚ますなり、口付けをしようとしてきた。

 フランチェスカであれば、絶対に取らない行動だ。レオナルドが彼女の洗脳を指摘する前から、フランチェスカの行動には変容が出ていた。


「フランチェスカの行動に、最初から不自然さがあったのも、フランチェスカがスキルで変化を起こしたお陰だろうな」

「……その結果、俺たち側の被害は留められた。最小限に」

「はは。何を言っている?」


 カルロの言葉に、レオナルドは冷めた声で返す。


「フランチェスカを奪われた時点で、これは最大の損失だ」

「…………」


 けれどもフランチェスカ本人は、『成功だった!』と笑うのだろう。


『クレスターニのスキルを変化させておいて、本当によかった。洗脳された私が、みんなの所でそれを隠して過ごしていたら、もっと大変なことになっていたもの』


 明るい声で、心からそう断言する。

 そんな容易い想像に、レオナルドは目を閉じた。


(……それでも、君がいない世界の方が、ずっと苦しい)


 短く息を吐き出して、立ち上がる。


「薬をもう何本か持って行く。例の『王冠』については、もう少し精度を検証しておいてくれ」

「承知。洗脳検体の反応についても、別視点の調査を決行する」

「それと」


 診察机の方に歩いて行き、白衣のカルロを見下ろした。


「アロルドとジュスト、ティーノっていう奴らのことを前に聞いたよな。お前と同じ年齢、もしくは一学年上の人間で、学院には同時期に通っていた」

「……ああ」


 その三人は、フランチェスカが思い出してくれた名前のうち、『ゲームのレオナルド』の部下にあたると聞いている男たちだ。


「アロルドとティーノ。……エリゼオの調査によると、このふたり『も』死んでいる」

「!」


 あまり感情を表に出さないカルロが、僅かに目を見開く。


「死体が出ていない事故死らしい。『賢者の書架』に入る資格を持っていた」

「……偽装死……」

「それに」


 深い緑の髪色を思い出して、レオナルドは笑った。


「『あのとき』俺が殺した、ジュストもだ」

「…………」



挿絵(By みてみん)


『悪党一家の愛娘』小説5巻&コミック5巻&ドラマCD2

すべて25年12月1日に発売!!


▼雨川の直筆サイン本のご予約についてのページ

https://note.com/ameame_honey/n/n5de0dfecd663


小説とコミックはカバーイラスト、ドラマCDは新たなキャラクターの豪華な声優さまも解禁です!


【悪党一家の愛娘】フランチェスカ: 戸松遥さん

【極悪非道の婚約者】レオナルド: 内田雄馬さん

【忠臣義士の番犬従者】グラツィアーノ: 大塚剛央さん

【継往開来の風紀委員】リカルド:梅原裕一郎さん

【狷介孤高の同級生】ダヴィード:松岡禎丞さん

【過保護な冷徹パパ】エヴァルト: 浪川大輔さん

【少年国王】ルカ:釘宮理恵さん


今回も10/27正午までのご予約で、雨川直筆のサインが付いてくる5巻セットが発売されます!


なにとぞ!

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