表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/287

3 平穏に生き抜きたいんです!

***




 フランチェスカが生まれ変わったこの世界は、スマートフォン向けのアプリゲームとしてリリースされている、女性が主力ターゲット層のゲームだ。


 西洋風の世界観で、馬車やドレスが日常のもの。汽車などはまだ存在しておらず、剣よりも銃が主流で、一部の人々だけが『スキル』と呼ばれる力を持っていた。


 特色としては、メインで登場する男性キャラクターの大半が、『裏社会の住人』であるという点だ。


 ゲームの舞台であるこの国は、長年の王政を続けている。

 しかし、その王を陰の忠臣として支えるのは、裏社会を牛耳る五つの貴族だった。


 メインストーリーに出てくるのはこの裏社会の貴族家、『五大ファミリー』と呼ばれる組織が中心だ。


 入手可能(プレイアブル)キャラクターは、ヒロインを除けば全員が男性キャラで、みんな眉目秀麗に描かれている。


 プレイヤーは課金などで手に入れた彼らを育成し、メインストーリーの攻略やイベントに挑みながら、ゲームの世界を楽しむのだ。


 そしてそのゲームにおいて、デフォルト名『フランチェスカ・アメリア・カルヴィーノ』なる少女こそが、プレイヤーの代役となるヒロインだった。


(やっぱり、私がそのフランチェスカで間違いない)


 記憶を取り戻したばかりのフランチェスカは、寝込んでいた寝台で身を起こし、幼い手で手鏡を握りしめる。


(薔薇みたいに赤い髪。水色の目。まだ五歳なのに、びっくりするくらいの美少女っぷりだけど……)


 カードイラストでは、ヒロインの顔がはっきり描かれることは無かったのだが、シナリオ内に特徴の描写が出てくる。髪色も目の色も、シナリオの通りだ。


 けれど、こんな極上の見た目を得ても、未来が不穏では意味がない。


(……問題は、『フランチェスカ』の境遇だよ……)


 フランチェスカは、腕を組んでうんうんと考えた。


(五大ファミリー、カルヴィーノ家のひとり娘。裏社会の強大な一家に生まれた女の子……。当然周りはカタギじゃないし、攻略キャラたちも裏の人間!! 子供のころは確か、『あまりに誘拐されるから』っていう理由で裏社会から遠ざけられて、十七歳までは平凡な環境で育つんだよね)


 メインストーリーに出て来た回想を思い出し、溜め息をつく。


(『フランチェスカ』の転換期は、ゲームのメインストーリー開始になる十七歳。生まれたときから一度も会ったことの無い婚約者、レオナルドの目論見で、無理やり裏社会の戦いに巻き込まれるんだ)


 一度死んで生まれ変わったのに、なかなかしっかり記憶が残っている。自画自賛しつつ、もう少し思い出してみることにした。


(あの極悪婚約者レオナルドの所為で、メインストーリーのフランチェスカは大変な目に遭う。下手に裏社会から遠ざけられて育った所為で、戦いに巻き込まれても何も出来なかったんだよね。……家から出される後押しになったのって、私が記憶を取り戻した今回の誘拐事件かな?)


 誘拐された回数が多いので、絶対に今回だという自信はないが、恐らくはその前提で良いだろう。


(……このままゲームシナリオに従う生き方もあるけど……中途半端に裏社会から離れたら、メインストーリーが始まったとき、一般人として育った私に出来ることはないよね。使えるのは私の固有スキルだけだ。そのスキルと引き換えに、他のキャラたちに助けてもらって、彼らに問題を解決させることになる)


 フランチェスカにとって、その展開は避けたいことだった。


(自分に降り掛かることへの責任は、自分で取れる人間になれ。――そうだよね、おじいちゃん)


 祖父がいつも、組員たちに言い聞かせていたことだ。傍らで聞いていた前世のフランチェスカも、自然とそれを覚えてしまった。


 どうせ巻き込まれるのなら、自分で何とかする力が欲しい。

 そう奮起するも、祖父の言葉を思い起こしたことで、悲しい気持ちにもなってくる。


(……おじいちゃん、みんな……)


 自分がいなくなったあと、彼らはどんな気持ちになっただろうか。たくさんの愛情を注いでくれた人たちに、心から申し訳なくなった。


(死んじゃって、ごめんね)


 じわっと涙が滲んだものの、慌ててそれを拭う。

 フランチェスカの言葉が届くなら、祖父や組員たちは絶対に、『謝らなくていい』と言ってくれたはずだ。


『辛くなったら、いつでもこの家を離れていいんだぞ。俺たちにゃあ、お前が幸せに成長してくれることが何よりなんだ』


 祖父がそう言ってくれたことを、お守りのように心に抱いた。


(ごめんね。忘れないからね。……おじいちゃんが言ってくれたように、生まれ変わった先で幸せに暮らすことが、いまの私に出来る唯一のことだ)


 そうと決まったら、いつまでも泣いてはいられない。


(幸せに過ごすために、前世からの夢をかなえる。私は友達を作って、平穏で平凡な人生を送るんだ。だから……)


 フランチェスカは寝台に立ち上がり、両手を大きく掲げて誓いのポーズを取った。


(十七歳から始まるメインストーリー。そのいざこざに巻き込まれても、自分の考えで動くことができる、そんな力を身に着けておこう!)


 そして、十二年が経ったのである。

 長い日々だった。環境改善のための工夫も、自分自身が強くなるための努力もたくさんした。そして無事、十七歳になれたのだ。


(いつかメインストーリーの事件に巻き込まれる日のために、自分に出来ることをやってきたつもり。……それもすべて、今度こそ平凡に生きるためなのに、それなのに……)


 王立学院に転入するための、最後の手続きを終えて帰ってきたフランチェスカは、目の前の光景にくらくらした。


「――お帰りなさいませ、お嬢さま!!」

「お帰りなさいませ!!」


 大きな屋敷のエントランスには、黒い正装を纏った男たちが、絨毯の左右に分かれて並んでいる。


 エントランスの床面には、カルヴィーノ家を象徴する家紋である赤薔薇が大きく描かれている。そこに集まった大男たちに頭を下げられ、一斉に挨拶をされる光景は、前世でも毎日見ていたものだ。


 絨毯の道筋が伸びた先には、ひとりの男が背中を踏みつけられていた。

 男の背に足を乗せ、ぎりぎりと踵を捻じ込んでいるのは、フランチェスカと同じ薔薇のような赤色の髪を持つ男性だ。


「な……。何してるの、パパ……」

「戻ったな、フランチェスカ。道中何事もなかったか?」

「なんにもないよ。むしろ、何か事件が起きてるとしたら今だよ。どうしてシモーネの背中を踏んでるの?」

「決まっている。この男が罪を犯したからだ。愚鈍な男が」


 どこか中性的な容姿で、娘から見ても美丈夫である父は、その冷たいまなざしを部下に向けて口にする。


「お前の制服を運ばせている際に、腹を撃たれ、制服を血で汚した」

「……」


 真っ赤なはずの絨毯の一部が、どす黒く汚れているのを見付けた。しかし、腹から赤い雫を流している男は、心底申し訳なさそうにフランチェスカを見上げるのだった。


「申し訳ありません、お嬢さま……!! お嬢さまの大切な制服に、汚い血をつけてしまったこと……いくらお詫びしても償いようがなく、うう……っ!! 晴れ着だというのに、なんてことを……」

「お嬢さま、ご安心を。お父上の振る舞いは当然です」

「なにせお嬢さまの輝かしい学院生活に水を差したのですから。本来なら死を持ってお詫びすべき事態」

「…………」


 父や構成員たちどころか、踏み付けられている当人すらなんの疑問も持っていないらしい。

 そんな状況に、フランチェスカは額を押さえながら、ゆっくりと口を開く。


「……から……」

「はい。なんですか、お嬢さま」


 構成員に丁寧に聞き返されて、はしたなくも大声でこう叫んだ。


「――……制服なんかどうでもいいから!! いますぐ誰か、治癒スキルを持っている人を連れて来てーーーーっ!!」

「はい! お嬢さまの仰せのままに!!」



 ――フランチェスカは既に、失敗している。



 平凡に生きるための作戦で、『まずは自分の家の情報を』と動いた結果、いまや完全に溶け込んでしまったのだ。


 ゲームでは冷淡で無関心だったはずの父親は、フランチェスカを無表情に溺愛してくる。


 腫れもの扱いや侮辱ばかり向けて来る設定の構成員も、フランチェスカを『カルヴィーノ一家の大切な跡取り』として扱う。


 そのことを、毎日「どうして」と嘆きつつも、メインストーリー対策をこなしていく日常を送っているのだった。


(だけど、計算違いを嘆いてる場合じゃない)


 父を押し退け、怪我人の介抱をしながらも、フランチェスカは気合を入れる。


(いよいよ来週は学院への転入。――その前日こそ、メインストーリー開始のきっかけ、私が悪役レオナルドに誘拐される日なんだから……!!)







同じ作者で、他のお話もあります。


◆『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』

https://ncode.syosetu.com/n1784ga/


◆『虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした』

https://ncode.syosetu.com/n6393gw/


◆【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)

https://ncode.syosetu.com/n6592hi/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ~あ...初っ端からやっちまいましたな、お嬢。 部下は着いていくってもんでさw
[一言] こちらの作品も面白いです。 楽しみに読んでいきます。 ありがとう。
[良い点] 雨川先生の新作!!!嬉しいです!!! どの連載も楽しみにしていますがこちらもすごくおもしろい!!! 次の更新が楽しみでしょうがないです。 レオナルドとのからみが早く読みたい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ