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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部 ファレンツィオーネの剣〜

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292 罰則

***




 出口のない屋敷の暗い廊下を、フランチェスカは歩いていた。


(……忘れちゃ駄目)


 もどかしい気持ちを抱えながら、自分自身に言い聞かせる。少しずつ早くなっていく足音も、左胸で刻む心臓の音も、いつもよりやけにうるさく感じられた。


(ここを出る。絶対に逃げ切る。だからこそ、そのために)


 ぎゅっと目を閉じて思い出すのは、いつでも味方で居てくれる人たちのことだ。


(レオナルド……パパ、グラツィアーノ、みんな)


 フランチェスカは目を開けて、ぱっと廊下を駆け出した。

 後ろでフランチェスカを呼ぶ声がする。その人物との距離についても、必死に計算しようとした。けれどもフランチェスカの視界は揺れて、足元がぐにゃりと崩れてゆく。


(っ、駄目……!)

『……君は本当に退屈しないな、フランチェスカ』

(やめて。私は、あなたの、玩具じゃな……)


 抗おうとした瞬間に、意識がふっと遠のいた。

 そして、辺りが全て真っ暗になる。


「――――ぷあっ!!」


 宛てがわれた寝室のベッドの上で、フランチェスカははっと目を覚ました。


「…………っ」


 飛び起きると、冷たい汗が首筋を伝う。

 思わず左の胸に触れ、フランチェスカは呟いた。


「……生きてる」


 ずきりと強い頭痛がして、顔を顰める。いまがどういう状況なのかが飲めなくて、緩慢に瞬きをしたそのときだ。


「……君さあ」

「!」


 声がした方に目をやれば、部屋の隅にある椅子に座ったルキノが、不機嫌そうに両腕を組んでいる。


「一体なんのつもりな訳?」

「……おはよう、ルキノ」

「何がおはようだ。昨日から何度も飽きもせず、意味の分からない行動を繰り返してて」


 ルキノは足を組み替えながら、椅子の背凭れに身を預けた。


「クレスターニさまが君を許したからって、ちょっと勝手に動き過ぎじゃない?」

(……そう。そうだ、思い出した……)


 ルキノが示している『昨日』のことを、フランチェスカは揺り起こす。


(私はクレスターニに賭けを提案した。銃を自分に向けて撃って、生き延びたら屋敷を自由に歩かせてって。私が死んでも好都合なら、賭けに乗っても惜しくないはずで……)


 その結果、クレスターニはこう笑って、フランチェスカを見下ろしたのだ。


『――なら、俺の負けでいい』


 そうあっさりと認められて、拍子抜けした。


『……本当に?』

『ああ』

『賭けに乗らないんじゃなくて、本当に「負け」でいいんですか?』

『もちろん』


 前髪で片目を隠しているクレスターニは、くちびるで笑っていても感情が読めない。

 心の底から楽しそうにも、そうした演技をしているだけにも見える。やはりクレスターニを見ていると、フランチェスカは誰かのことを思い出しそうになるのだった。


 それが誰のことなのかは、どうしても辿り着くことが出来ない。


『本当は、死んでもらっても構わないんだが……』


 クレスターニは機嫌が良さそうに目を眇め、こう続けた。


『君がこの先にどんなことをしでかしてくれるのか、観察してみるのも楽しそうだしな』

(この人……)

『それに』


 クレスターニはくすっと笑って、子供を揶揄う大人の声で言う。


『可愛いお嬢さん。……どうせ君を殺すなら、賭けよりも価値のある殺し方をするべきだ』

『…………っ』


 そしてフランチェスカは、得体の知れない恐ろしさを纏った黒幕に、屋敷内の散策を許された。


(ルキノの言った通り。私は屋敷の中を歩き回って、その度に気を失っている……うん、合ってるはず)

「聞いてるの? 逃げ道を探そうとしてるなら、本気で無駄だから」


 ルキノの皮肉を耳にして、フランチェスカは笑う。


「な……に、笑ってるんだよ」

「ううん。やっぱり今の私には、クレスターニがさせたくない行動を取ったとき、罰則の症状が出るんだなと思って」

「…………?」


 屋敷の中を歩き回っていると、最後には意識を失ってしまう。


(その度に倒れてるはずだけど、ぶつけた怪我はどこにもない。……レオナルド)


 大事な人のことを思い出して、心が温かな気持ちになった。

 レオナルドのスキルが、ずっとフランチェスカを守ってくれているのだ。


(……早く帰って、ありがとうって伝えたい)


 傍に居ないからこそ、そんな想いが強くなる。


(レオナルドの名前を呼んであげたい。あの声で、私の名前も呼んでほしい。……そのために)


 フランチェスカは両手を握り、それを頭上に突き上げた。


「よし、頑張ろう! 目も覚めたし、もう一回屋敷の中をお散歩しようかな!」

「また!? 無駄だって言ってるのに、何考えて……ああもう!」


 フランチェスカを放置する訳にもいかないのか、ルキノが立ち上がってついてくる。フランチェスカは廊下に出ながら、内心で思考を整理した。


(この屋敷の中を歩いていると、いつも最後には気を失う理由。クレスターニにとって行って欲しくないところに辿り着くと、罰則が発動するから……これは、予想していた通り)


 フランチェスカにとって、都合が良い。


(ゲームの五章を逆手に取って、『屋敷の調査で真実に辿り着く』状況を目指すんだ。クレスターニが不都合を隠している場所、私が罰を受ける場所をどんどん覚えていけば、探すべき場所が絞り込める)


 頭の中に思い浮かべるのは、この屋敷の大まかな地図だ。

 今はまだ空白だらけで、何階建ての屋敷なのかも記憶が曖昧だが、繰り返し挑戦すれば固まってくるだろう。


(そのために、何度気絶することになったって良い。――絶対に、レオナルドとパパたちの所に帰るんだ)

「…………」


 ルキノの呆れたまなざしを受けながら、フランチェスカは今回も元気良く、起点となる部屋を出発した。



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― 新着の感想 ―
でもやっぱりレオナルド寝なくちゃ駄目だよ!!!!!(´;■;`)
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