表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

275/304

272 未来を変える

***




(ここまでは、エリゼオが見てくれた未来とあんまり変わらない)


 宝石で飾り付けたドレスに身を包み、黒色の花嫁姿となったフランチェスカは、レオナルドとエリゼオの肩越しにルキノを見据えた。


「少し下がっていられるか? フランチェスカ」


 レオナルドの軽い声音は、いつも通りの頼もしいものだ。けれどもルキノは不快そうに顔を歪め、氷の剣をいくつも宙に提げる。


「どいつもこいつも、邪魔なんだよ。早くクレスターニさまに、二本目の聖樹を献上しなくちゃ、いけないのに……」

(二本目。つまりそれって)


 隣国の王子であるルキノの言葉に、ぞくりと冷たい感覚が背を這う。ルキノがぶつぶつと何かを呟きながら、その手をゆっくりと聖樹に翳した。


「こんな樹、さっさと……」


 生み出された氷剣の切先が、羅針盤の針のように聖樹へと向く。


(やっぱりルキノの目的は、聖樹を傷付けてあの小瓶を……!!)

「穢れてしまえ!!」


 剣が降り注ごうとした、その瞬間だ。


「!」


 レオナルドの放ったスキルによって、地面が一斉に隆起した。

 強固な土壁が生み出され、すべての氷が突き刺さる。聖樹を守ったその壁は、剣を飲み込んで崩れ去った。


「残念。俺の勝ちだな」

「……こっちの攻撃が、一発で終わると思ったの?」


 ルキノはあからさまな舌打ちのあと、すぐさまスキルの光を爆ぜさせる。


「こっちはまだ、何本だって……!!」

「レオナルド君」


 氷の軋む音がした、そのときだ。


「――四時の方角、君の位置から三メートル先だよ」

「……っ」


 ルキノが目を見開くと共に、レオナルドはエリゼオの指示通り、再び土の盾を出現させた。


「くそ!」


 殆ど同時に生まれた氷が、またしても拒まれて砕け折れる。レオナルドとエリゼオは顔色を変えず、ルキノの次の手をすぐに封じた。


「次。九時の方角、聖樹の根本」

「へえ。良い位置だな」


 レオナルドがぱちんと指を鳴らす。すると聖樹の根を避けるようにして、レオナルドの操る氷が湧いた。

 氷同士がぶつかって、管楽器のように高い音を奏でる。それを受けて、ルキノが強く顔を顰めた。


「ああもう、うっとうしいな……!!」


 虫でも振り払うかのように動いたルキノの手に、いつのまにか何かが握られている。

 それは、ずっと彼の手の中にあった小瓶とは別物のようだ。


「エリゼオ。あんたの未来視は、スキルを使ってから一時間で起こる光景が、一気に頭に流れ込むんだろ?」

「!」

「その膨大な情報を、優秀な頭で処理して記憶している。だったら」


 ルキノはその手に、氷の短剣を握り締めている。


「――あんたが未来予知をした時点から、こっちの『条件』を変えてやれば、予知の結果が変わってくるよね?」

「っ、駄目、ルキノ……!」


 咄嗟に止めようとしたものの、フランチェスカの制止は届かない。


「…………っ!!」


 赤い血が、ぱたたっと音を立てて落ちる。


「あははっ! ……あー、痛った……」


 ルキノは小さな氷の剣を、自らの手の甲に突き立てたのだ。


「笑っちゃうくらいに痛いな、これ。……痛くて痛くて、氷柱の制御が出来そうにない」

「ルキノ……」

「これなら未来は変わるだろ? エリゼオ、あんたの未来視の結果はこれで、無駄になった!」


 傷口から滴った大量の血で、ルキノの持つ小瓶も真っ赤に染まってゆく。


「未来視のスキルを次に使えるようになるまで、どのくらい時間が掛かるのかな? もちろん、それを待ってなんてやらないけど」

「…………」

「さあ、いったん聖樹を狙うのはやめて……」


 ルキノはくちびるの端を上げて、血に濡れた指先をエリゼオに突き付けた。


「樹よりも邪魔な連中を、先に排除しようかな!」

「――――っ」


 フランチェスカは手を伸ばす。

 それは、ルキノの行動を力尽くで止めるためではない。フランチェスカが触れたのは、ルキノではなくエリゼオだ。


「行くよ、エリゼオ!」

「フランチェスカちゃん……」


 先日の地下とは反対に、フランチェスカはエリゼオの手首を掴み、そして心の中で唱えた。


(スキル強化、二段階目……!)


 強い光がひとつ走る。


「もう一度、未来視を使って!!」

「…………っ!」


 その瞬間、エリゼオははっきりと一点を見据えると、すぐさまレオナルドに告げた。


「レオナルド君、僕たちの真上だ!」

「――――……」


 レオナルドはもう一度指を鳴らして、新たなスキルを発動させる。


「すぐにもう一撃、十二時の方向。聖樹と僕たちを、同時に狙う」

「っ、なんで……!!」


 二箇所に生じたレオナルドの雷撃が、氷を打ち砕いた。


「どうして未来視のスキルが、また使える!? その未来視は、持続時間が長い僕の氷スキルとは違う。一度未来を見た後に、立て続けに使えるはずが無いのに……」

(私の強化スキルを使うと、対象のスキルは強化される。……それと一緒に、使用不能時間の制限がリセットされることも含めて、秘密にしていたことだけれど……)


 ルキノの目が、忌々しそうにフランチェスカを見据えた。


「まさか、あんたのスキルが……」


 ぎりっと強く噛み締めて、ルキノが再び手を翳した。


「フランチェスカちゃん。未来が不安定に揺れている、もう一度」

「っ、うん……!」


 フランチェスカはエリゼオの手に触れ、次段階の強化を発動させる。


(スキル強化、三段階目!)


 その瞬間、フランチェスカのドレスに縫い付けた宝石が、ばちっと音を立てて数個壊れた。


(ルカさまが下さった、スキル強化素材の宝石。この量をルキノに怪しまれず持ち運べるよう、儀式のドレスに縫い付けてもらったけど……!)


 スキル強化の三段階目からは、こうして高価な強化素材を消費する。ゲームと同様の制約とはいえ、どうしても心苦しさは拭えない。


(だけど、これしかないんだ。聖樹を守るだけじゃなく……レオナルドの『時間』を、稼がないと)


 再びエリゼオが予知を発動させて、レオナルドに位置を告げた。


「二時の方角、四十度の位置だよ」

「了解。次は?」

「正面、聖樹の中央。僅かに外れて右に十三センチ――大きな氷柱が来る、気を付けて!」


 そんなふたりの応酬を見て、フランチェスカはこくりと喉を鳴らした。


(すごい……)


 彼らのやりとりはとても短い。

 それでも一部の狂いもなく、レオナルドはエリゼオが指示した位置に、氷柱を防ぐためのスキルを出現させてゆく。


(息がぴったりだ。ふたりが組むと、とっても強くて)


 それに見惚れたフランチェスカは、無意識に言葉を発していた。


「未来って、こうやって変わっていくんだね……」

「!」


 その瞬間、エリゼオが目を丸くする。

 それからゆっくりと微笑むと、フランチェスカに願うのだ。


「……フランチェスカちゃん。もう一度、スキルの強化を」

「分かった。エリゼオ、手を貸して!」


『悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした』小説4巻が8月1日発売となります!

アクスタ付き特装版、【ご予約者さま全員に必ず雨川の直筆サイン本がご入手いただける】セットは6/23までのご予約です!


https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=186537040


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ