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270 未来のため

『悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした』小説4巻が8月1日発売となります!

https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=186537040


アクスタ付き特装版、【ご予約者さま全員に必ず雨川の直筆サイン本がご入手いただける】セットは6/23までのご予約です!



 両耳を押さえて俯いたままのルキノが、ぽつりと呟く。


「あの子にも、話したの? 盗聴なんてくだらない、あんたたちの妄想を」

「フランチェスカは――……」


 レオナルドが言い掛けた言葉を、少女の声が遮った。


「――レオナルドに、何かを言われた訳じゃないよ」

「!!」


 階段前の扉から歩み出たのは、黒のドレスを纏ったフランチェスカだ。


「だけど、気付いちゃったの」


 優雅なシルエットを描く裾がふわりと揺れて、縫い付けられた無数の宝石が輝く。

 儀式の花嫁役であるフランチェスカの表情を見て、エリゼオは密かに息を呑んだ。


(……驚いたな)


 エリゼオやレオナルドにとって、ここに居るルキノは明確な排除対象だ。

 だというのに、フランチェスカがルキノに向けるのは、敵に対するまなざしではない。


(フランチェスカちゃん。君は)


 あの視線には覚えがある。祖父が、カルロを追放する日にも見せたものだ。


(敵であるルキノ君のことも、心から案じているのか……)


 その一方でフランチェスカは、小さく深呼吸をしたあとに、真っ直ぐルキノを見据える。


「あのね、ルキノ」


 空の色をした双眸に、覚悟の光が映り込んでいた。


「あなたがエリゼオの独り言を聞いたロンバルディ家の図書室には、強力な防音が施されてる」

「…………」


 ルキノの眉が、僅かに動く。


「だったらその防音とやらに、不完全な部分でもあったんじゃないの」

「レオナルドが、思い出の話を聞かせてくれたの。お兄さんがカルロさんとの『悪巧み』に、図書室を使っていて……その内緒話には、レオナルドとエリゼオも混ざってたって」


 彼女たちがロンバルディ家を訪れたとき、エリゼオとレオナルドは確かにそんな、戻らない日々の話をしたのである。


(フランチェスカちゃんは、何かを考え込んでいる様子と同時に、僕たちを見守るように聞いていた)


 そのときの光景を思い出して、エリゼオは微笑む。


(――誰もが一目置くレオナルド君のことを、こんなにやさしい目で見る女の子が居るんだって、驚いたな)


 レオナルドにとって、『フランチェスカ』がどれほど特別な少女であるか、それだけでよく分かると思えたのだ。


「それが小さな子供の頃だったとしても、外の廊下に居る人に筒抜けになるような部屋で、レオナルドが悪戯の作戦会議をするはずがない。図書室の『防音』が完璧なものだって、それだけで信用できる……だから」


 レオナルドへの信頼を口にして、フランチェスカは言葉を重ねた。


「ルキノ君がエリゼオの独り言を聞いてしまったなら、それは何かのスキルを使って、意図的に拾ったものだって気付いたの」

「…………」


 こうしてルキノに告げながらも、フランチェスカはやはり、決定的な敵対の未来を恐れている。


 それと同時に探っているのだ。ルキノがこれから何をするのか、エリゼオが未来視でフランチェスカに告げているにも拘らず、その未来を回避しようと模索していた。


「それだけじゃないよ。ロンバルディの屋敷に居候をしていて、留学生として図書室も使っていたはずのルキノが、どうしてあの部屋の防音に気付かなかったのかな?」

「それは……」

「誰かの声がいつも聞こえて、うるさくて仕方なかったからでしょう?」


 小さな子供を労るような声音に、ルキノがぐっと両耳を塞ぐ。


「ユーク君にも盗聴スキルが仕掛けられてるはず。そう気付いてしまったからユーク君の傍では、あなたに対する嘘ばかりついたの」

「……まさか」


 敵意のこもったルキノの視線が、エリゼオの方に向けられる。だからエリゼオは微笑んで、事実を告げた。


「君がクレスターニの手先である可能性が高いことは、陛下にお伝えしてあった。そうでなくちゃ、国を巻き込んだお祖父さまの逮捕劇なんて、実現するはずもないだろう?」

「…………」

「お祖父さまをあんな風に追放したのだから、陛下からの疑いの目は僕に向いて当然。……ルキノ君はそう納得した上で、フランチェスカちゃんに『エリゼオがおかしい』と手紙を出した。教会の検閲にわざと引っ掛けて、僕への疑いを強めるために」


 しかし、それこそがエリゼオとレオナルドの証拠集めの一環だったとは、思ってもみなかったのだろう。


「心外だなあ。僕が本当に当主を乗っ取りたいなら、もっと上手にやるよ。……僕がお祖父さまを本気で追放することなんて、絶対に有り得ないけれど」

「……っ、お前……」


 肩を震わせるルキノを見て、フランチェスカはぎゅっと眉根を寄せる。


「教会……ユーク君がエリゼオの指示で行動してるなら、ルキノ君を混乱させる嘘を声に出さなくちゃって、そう思ったの。あなたが帰ったあとの診療所で、私は『カルロさんに会いたい』って口に出したけれど、レオナルドの手のひらに指で書いたのは……」


 それは、エリゼオの名前だったのだ。


(僕にとっても正直なところ、レオナルド君が国家の防衛にここまで協力してくれるなんて、想定外だった)


 あの夜、レオナルドはカルロとエリゼオを呼び集めた。

 エリゼオに仕掛けられていた盗聴スキルは、レオナルドが結界を使って記録していた情報をもとに、カルロによって解除されている。


(レオナルド君の行動はすべて、フランチェスカちゃんが願った未来のため)


 エリゼオたちは、ルキノに会話を聞かれることのなくなった状況下で、聖夜の儀式における行動を決めたのだった。


(……フランチェスカちゃんが、レオナルド君という人間を変えたんだ)

「どうか聖樹から手を引いて。ルキノ君」


 フランチェスカはその胸の前で、自身の手を祈るように握り込んだ。



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挿絵(By みてみん)


ふたりの想い溢れる、LINO先生の最高に美麗なカバーイラストをご覧ください……!

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