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264 聖樹を穢す者(第4部7章・完)


「俺としては、もっと別の事柄が気がかりだな。教会は誰の命令で、エリゼオのことを監視していたんだ?」


 レオナルドは余裕のある笑みのまま、ユークに尋ねる。少年は静かに頭を下げ、はっきりと答えた。


「……命令などではございません。我々は神に支える身である以上、神の与えたもうた聖樹を守る立場です。聖樹に害をなす者の行いは、正さなければ」

(教会が、エリゼオのことをあからさまに警戒してる。それはきっと、ヴァレリオさんの追放があったからだ)

「ははっ。なるほどな」


 続いてレオナルドは、ルキノにまなざしを向ける。


「お次は留学生くんだ。お前はどうしてフランチェスカに、エリゼオの本性を暴露するような手紙を書いた?」

「なんだよ。なんか文句あるわけ?」

「ロンバルディ家に世話になっている身で、随分と大胆なことをするじゃあないか。誰かの悪事を放って置けずに行動するような、素直な性格には見えないが……」


 フランチェスカをぎゅっと抱き寄せて、レオナルドは目を眇めた。


「――フランチェスカに惚れたなら、それは許さない」

「…………っ、はあああ!?」


 その瞬間、ルキノが耳までを赤く染めた。


「意味分かんない! 警告してやろうとしただけなのに、一体どうしてそういう話になるんだよ!」

「ええと……そうだよ、レオナルド」


 フランチェスカも驚いて、ルキノの名誉のために告げる。


「ルキノ君は多分私のこと、そもそもあんまり好きじゃないと思う。お話ししてるといつも不機嫌そうになるし、どちらかというと嫌われてるような……」

「どうかな。君のように魅力的な女の子を前にして、素直になれない餓鬼なだけかもしれないぞ」

「ほんっとに、馬鹿じゃないの!? 有り得ない、最悪すぎる!」


 ルキノは心から憤慨した様子で声を上げたあと、ぐしゃりと前髪を握り込んで俯いた。


「……くそ。うるさいな……」

「うるさいって? この診療所、夜だしすごく静かで……」

「その男がだよ!!」


 ルキノはこちらを睨み付けたあと、脱ぎ置いていた上着を手に取った。ドアへと向かうその背中に、フランチェスカは急いで尋ねる。


「ルキノ君、何処行くの?」

「帰る。そこのチビが僕の手紙を勝手に読んだ挙句、エリゼオの言葉を証言しろって言うから、屋敷を抜け出してやったのに……」


 ルキノはレオナルドを睨み付けると、心底から悔しそうに言い捨てた。


「ヴァレリオが急に居なくなって、こっちは迷惑してるんだ。これ以上僕の留学を邪魔しないで、エリゼオが怪しいならさっさと捕まえてよ!」

「あ!」


 ばたんと大きな音を立てて、診療所の扉が閉ざされる。思わず立ち上がっていたフランチェスカは、深く息を吐いてもう一度座った。


「……エリゼオが怪しいって、はっきり言われちゃったね」

「あの留学生の立場なら、そういう発言も出てくるだろうさ」


 レオナルドはフランチェスカの肩を抱いたまま、くすっと笑う。


「さて、これで箱入りのお坊ちゃんにはお帰りいただけた。今度はあの坊ちゃん抜きで、『俺たちだけ』の話をしようか? 少年」

(レオナルドが、こんな風に強調した言い方をしている理由は……)

 

 フランチェスカが思考を巡らせる一方で、少年ユークはレオナルドの提案に応じる。


「……教会には、あなたたちとの協力が必要だと考えます」


 ユークは目を伏せると、静かな声音で切り出した。


「どうかお互いの目的のために、手を取り合いませんか?」


 大人びた表情の少年は、レオナルドとフランチェスカに真っ直ぐに願った。


「――聖樹を穢す者は、排除をせねば」

「…………」


 フランチェスカが見上げると、隣に座ったレオナルドは、とてもやさしくこう紡ぐ。


「フランチェスカはどうしたい?」

「……私は」


 フランチェスカは手を伸ばし、レオナルドの手首にそっと触れた。


(もう一度、『あの人』と話して確かめないと)


 彼の手のひらに指を添えると、ユークに見えないように文字を綴る。レオナルドにだけ伝わるように綴ったのは、とある名前だ。


「レオナルド。カルロさんに会って、話せるかな?」

「…………」


 レオナルドは、フランチェスカの指を柔らかく握り込むと、すべてを許す微笑みで頷いた。


「もちろんだ。――君の望む通りにしよう、フランチェスカ」




***



 王城の片隅にある休憩室では、白衣に身を包んだ紫髪の男が、深い息を吐き出していた。


「…………」


 彼は先ほど、自身の祖父であるロンバルディ家当主の『診察』を行ったばかりだ。

 国王の命令により、大勢の要職者たちに囲まれる中、普段と変わらない処置を遂行した。その間も脳裏によぎっていたのは、従弟であるエリゼオの笑う顔だ。


『――カルロ兄さん』

「お前は愚かだ。……エリゼオ」


 煩わしい眼鏡を外し、乱雑にサイドテーブルに置いて、カルロは目を閉じる。


「他に、手段は存在した。そちらを選択するべきだった。あの日の俺のように」


 だが、そんな言葉を伝えたとしても、今となっては意味がない。


「回避は不可能。それならば……」


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第4部最終章へ続く


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