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246 ひらいた(第4部5章・完)


 ヴァレリオの一件が脳裏によぎり、思わず身構えてしまった。そんなフランチェスカをあやすように、レオナルドが肩を抱き寄せてくれる。


「どうしてエリゼオがここに? 大聖堂には、決まった人しか入れないんじゃ……」

「実は、陛下の特別な計らいでね」

(ルキノ……!)


 エリゼオが振り返った先では、銀を帯びた水色の髪をした青年が、レオナルドのことを嫌そうに睨んでいた。


(そっか。今日は『儀式のリハーサル』だから)

「ルキノ君が優秀な留学生であるお陰で、特別に儀式への立ち合いが許可されたんだ。そして僕は、その恩恵に与れることになったんだよ」

(……私たちに向けては、そういう嘘を吐くことになってるんだ)


 エリゼオの語った内容は、もちろん真実などではない。


(隣国の王子さまであるルキノは、聖夜の儀式の立会人。儀式が無事に終わったことを見届けて、ミストレアルの輝石が隣国からこの国に移ったことを、証明する立場だもの)


 しかしルキノは、身分を隠している身の上だ。


 すべて知っているはずの司教たちはともかく、レオナルドやフランチェスカに対しては、見学者として通すつもりなのだろう。

 レオナルド以外の誰も、フランチェスカが前世の知識によって、ルキノの正体を知っているとは思っていないはずだ。


(だけど、いくらルキノが隣国の王子さまで、見届け人だからと言っても。……エリゼオまで大聖堂に入るなんて、簡単なことじゃなかったはず)


 それでもエリゼオは、涼しい顔をしてここにいる。


(まさか。ルカさまが、こんな許可を出すなんて)


 フランチェスカは、先ほど抱いた嫌な予感を、懸命に押し殺した。


(私たちが聖夜の儀式の遂行者になったのは、ロンバルディ家の人たちを大聖堂に立ち入らせないようにするためなのに)

「そのドレス、とっても可愛いね」

(……エリゼオは、たとえ遂行者に選ばれなくても、儀式に立ち会う手段は持っていたんだ)


 エリゼオは、こちらへにこやかに歩いてくる。


(それなのにヴァレリオさんを追放して、当主代理になったの? だとしたらそれは、大聖堂に入ることが目的じゃない。エリゼオの目的も、その理由も分からない……!)

「ねえ、フランチェスカちゃん」


 くすっと小さく微笑みを浮かべ、エリゼオが首を傾げた。


「その耳飾りは、レオナルド君からの贈り物?」

「……これは」


 フランチェスカが答える前に、隣に立ったレオナルドが笑って返した。


「ああ。可愛いだろ?」

「!」


 レオナルドの手が、フランチェスカの耳飾りへと自然に触れる。

 まるで髪を指で梳くように、揺れる鎖を涼やかに鳴らして、弄びながら目を細めた。


「フランチェスカが、俺のものだという印だ。とてもよく似合っている」

「牽制なのが分かりやすいね。あんまり嫉妬深い男は、嫌われるんじゃないかな」

「ははっ。フランチェスカが俺を?」


 明らかな皮肉を紡ぐエリゼオに対して、レオナルドは余裕の感じられる振る舞いだ。


「俺の愛おしい唯一のひかりは、そんなことで俺を嫌ったりはしないさ」

「……レオナルド」

「な? フランチェスカ」


 いつも通り、優しい微笑みをくれたレオナルドに、フランチェスカもなんだか安心した。


「うん。絶対に嫌いにならないよ!」

「……ああ」


 大きく頷くと、レオナルドはふっと柔らかく笑う。

 フランチェスカがレオナルドのことを大切に思っている、そのことを信じてくれているのだ。それが嬉しくて、フランチェスカも笑った。


「……仲が良いことは、とても素晴らしいことだよね」


 口元へ優雅に手を添えて、エリゼオが頬を綻ばせる。


「きっと儀式は成功する。だって、君たちは――……」


 エリゼオが何かを言いかけた、そのときだった。


「…………っ!?」


 どん! と強い衝撃が、大聖堂を襲う。


「っ、これ……」


 地面が揺れたのだということに、一拍遅れて気が付いた。地響きと共に大きく世界が震え、均衡を保てなくなってしまう。


(地震……!?)

「フランチェスカ!」


 レオナルドが咄嗟に手を伸ばし、フランチェスカを抱き寄せた。


(この揺れの、嫌な感じ、前にも……!)


 余計なことが考えられたのは、そのときまでだ。


「――――え」


 フランチェスカたちの足元に、大きな穴が空いたのである。


(床が、崩れ――――っ)

「ははっ、最悪だな……!」


 その下には、真っ暗な闇が口を開けていた。


(地下!? このままじゃ、私を庇ってレオナルドが……!)


 それを認識した瞬間、レオナルドの方へ手を伸ばす。


(ここでは、スキルが、使えないのに……!)


 何処まで落下するのかも分からない、そんな状況で、せめてフランチェスカがレオナルドの下敷きになれるように。


(……駄目、落ちる!)


 レオナルドが、フランチェスカの頭を庇うように抱き込んでくれる。まるで、フランチェスカが彼を庇うことなど、認めないとでも言うかのように。


「……っ」


 それを認識した瞬間、フランチェスカの意識は途切れ、真っ暗闇に吸い込まれてしまうのだった。



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第4部6章へ続く

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― 新着の感想 ―
二人とも、危ない時に咄嗟に取る行動が自分を犠牲にしてでも相手を守ることっていのが、もうなんか…似た者同士だなっていうか…でもそんなところが愛おしい…。そして続きがめちゃくちゃ気になる!
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