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241 警告と慣れ


 国王ルカに対する言葉に、息を呑む。


「……それは、どうして?」

「さあね」


 それっきり一切の関心を失くしたかのような素振りで、ルキノが屋敷へと歩き出した。


「警告はしたよ。ばいばい」

「…………」


 さくさくと雪を踏む音が響く中、フランチェスカはルキノの背中を見詰める。

 そのときふと、屋敷の図書室から誰かが見ているような気がして、そちらに視線をやった。


(エリゼオ……?)


 けれどもそこには、誰の姿もないままだ。

 カーテンの開いた窓向こうには、オレンジ色の光が揺れているばかりで、人影のひとつも見えはしない。フランチェスカは体の冷えを自覚して、ふるりと身を震わせる。


(……帰ろう)


 息を吐き、近くに停めてもらっていた馬車に向かう。

 そして、明日に迫る聖夜の儀式のリハーサルについても考えながら、帰路へとつくのだった。




***




 雪が止んだ雲の合間から、柔らかな月光が差し込んできた。

 大聖堂には、ひとりの男性が立っている。左手に教本を、右手に燭台を手にしたその男は、ゆっくりと蝋燭の火を吹き消した。


「……さて」


 聖堂の中を照らすのは、月光のみとなる。

 腰まである長い髪は、その淡い光を受けて虹の色に輝くのだ。


「あなたの『切り札』が、世界に何を齎すのか。――それを、見届けると致しましょうか」




***




 ロンバルディ家の屋敷を尋ねた、翌日のこと。

 学院を休んだフランチェスカは、大聖堂とは別の棟にある控え室で、大きく息を吐いた。


「……聖夜の儀式のリハーサル、緊張する……!」


 いよいよこの後は大聖堂へ移動し、先ほどまで受けていた説明の通りに、聖夜の儀式をなぞることになる。


(レオナルドも、向こうの部屋で最後の準備をしてる頃かな? 私ももう一回、髪とドレスを確認しておこう)


 本番で着るドレスはまだ調整中のため、今日纏っているのは、仮で選んだ夜会用のドレスだ。


 フランチェスカの夜会着は、父がシーズンごとに仕立ててくれている。

 カルヴィーノ家を象徴する赤薔薇と同じ色をしたドレスは、こうした特別な儀式のリハーサルにも申し分ない、美しい造りのドレスだった。


 肩から胸元にかけてはレースに覆われ、網目が薔薇の模様を描く。腰の高い位置にリボンが結ばれ、そこから優雅なラインを描いて広がるスカートは、動くたび優雅にドレープを揺らした。

 表面に七色の艶を帯びた生地は、ささやかな光にも反射して、神秘的な光を放っている。


(……このドレスにも似合っていてよかった。レオナルドのくれた……)


 フランチェスカの耳に揺れるのは、黒薔薇と赤薔薇の耳飾りだ。


「…………」


 鏡に映った自分を覗き込み、指先で薔薇の飾りに触れる。

 すると、扉が開く音と共に、この耳飾りの贈り主を秘密にしている父の声がした。


「……フランチェスカよ」

「パパ!」


 控え室に戻ってきた父は、煙草休憩に行っていたはずなのに、顔色が悪い。

 何処となく目が据わっているような気もする父に、フランチェスカは駆け寄った。


「今日は、お仕事を休ませちゃってごめんね。だけど、パパがリハーサル直前まで一緒に居てくれるなんて、とっても心強い」

「可愛い娘の晴れ舞台だ。大聖堂に立ち入れない分、リハーサルや本番にはついていてやれないからな。……せめて支度を見守ってやりたいというのは、当然の親心というものだろう」

「パパ……」


 その優しさに、フランチェスカの胸がじいんと温かくなる。


「嬉しいな。パパ、ありが……」

「……だが」

「…………パパ?」


 俯いた父が額を押さえ、絞り出すような低い声でこう唸る。


「聖夜の儀式!! 今日はあくまでリハーサル、最後まで完璧に遂行しないはずだと聞いていたが!? 先ほどの説明はなんなのだ、責任者は何処だ!!」

「パパ!! パパどうしたの、頭痛い!? 大丈夫!?」

「大丈夫なはずもない……!! 『あれ』ではほとんど本番同様、いいやそれどころかまるで本物の婚儀のようではないか!! 儀式の内容は誰が決めた、神だとでもいうのか!? だとすれば私はいますぐそれを斬りに……っ」

「わーっ!! お、落ち着いてパパ!!」

「そうですよ。お父君」

「!!」


 控え室に響いた軽い声音に、父がゆっくりと振り返った。


「……アルディーニ……」

「レオナルド!」


 フランチェスカも振り返り、改めて息を呑む。


(わ…………)


 現れたレオナルドが纏うのは、洗練された黒の正装だ。


 黒のジャケットは燕尾服の類だろうが、何処か軍服調の重さを感じるデザインで、格式を感じられる最上級の作りだ。

 何もかもを吸い込むような漆黒なのに、美しく目を引くのは、前面に黒糸での刺繍が施されているからだろう。


 光の角度によってさり気なく模様が浮き出る上着の下に、レオナルドは赤いベストを着込んでいる。薔薇を思わせる赤色は、黒の中に咲く差し色として、瀟洒な華やかさを放っていた。


 全体的なシルエットも、とても美しい。

 レオナルドの細身な腰回りや、男の子らしさのある骨格と筋肉を、それぞれに際立たせるラインを描くものだ。


(……レオナルドは、本当に綺麗。まるで本物の黒薔薇みたい)


 優しい声が、フランチェスカの父へと語り掛ける。


「フランチェスカの言う通りです。あなたにはリハーサルや聖夜の儀式を通して、慣れていただかなくては」

「慣れる、だと……?」

「ええ」


 レオナルドはフランチェスカを見下ろして、ぱちんとひとつウインクをする。


「いずれ俺たちが、本当の結婚式を挙げるときのために」

「ぐ…………っ!!」

「パパーーーーっ!!」


 左胸を押さえて蹲った父の背中を、フランチェスカは慌てて撫でた。


次に来るライトノベルを決める『つぎラノ』にて、雨川作品は4作品が受賞候補にノミネートされました!

ここからの本投票は、お1人様3作品までのご投票です!


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【5】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。 ~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~


【4】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。


【60】死に戻り花嫁は欲しい物のために、残虐王太子に溺愛されて悪役夫妻になります! ~初めまして、裏切り者の旦那さま~


【137】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。

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何卒、応援のほど、よろしくお願い致します!!

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