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240 氷の王子


 レオナルドが友情を壊す決意をしたきっかけについて、フランチェスカは情報を得られていないままだ。


(ひょっとしたら、私が転生者だっていうことに、なにか関係がある?)


 なにせ、この世界においてフランチェスカが特別なのは、唯一その点だけなのだ。


(それをエリゼオが知っているとしたら……エリゼオの情報源は、きっと『賢者の書架』だ。やっぱり私も、賢者の書架に行かなくちゃ)


 顔を上げて、灯りのついた窓を見詰めた。


(レオナルドが、私の友達をやめた理由。エリゼオが私を気にしている『ふり』をする理由。それがもし、同じなら……?)


 そんなことをぐるぐる考えた後で、フランチェスカは振り返る。


「……!」


 すぐ背後に、誰かの気配が出現したのを感じたからだ。


「び……っ、くりした」

「わあ、ごめんなさい!」


 背後に居た人を驚かせたようで、慌てて謝罪した。

 そしてフランチェスカは、思わぬ再会となった人物の姿に目を見開く。


「怖いんだけど。なんでいま、僕が声掛ける前に振り返ったの?」

「……ルキノ……さん」


 第六章の主要人物であり、隣国の王子でもある『留学生』が、フランチェスカを見据えた。

 何処か冷ややかに思えるのは、透き通った印象を受ける、銀に近い水色の髪だけの所為ではない。まったく寒そうに見えない彼は、たったいまこの屋敷に帰ってきたようだ。


(王子さまが護衛もつけず、ひとりで出歩いてて良いのかな)

「…………」


 とはいえ、ただの留学生のふりをしているのだから、過剰な警備は逆効果なのだろうか。


(確か事前考察では、ルキノのスキルがふたつくらい予想されてたよね。どっちも戦闘スキルじゃなかったから……)

「…………」


 前世の記憶を辿りつつ、ううんと首を傾げる。


(あれがもし正解なら、ルキノはサポート系キャラクターのはず。あ、もしかしたらもうひとつのスキルが戦闘用?)

「…………」


 そんなことに思いを馳せるフランチェスカは、仮にも侯爵家の令嬢である自分がひとりだけで出歩いていることには、なんにも違和感を覚えない。


(それはともかく)


 フランチェスカは、いつのまにか至近距離に近付いて来ているルキノをちらりと見遣る。


「……………………」

(なんだか、すっごく見られてる……!)


 ルキノは手にしていたランプを近付けてまで、フランチェスカのことを観察している。

 フランチェスカは思わず軽く両手を挙げ、降参した犯人のポーズを取ってしまった。


「あ、あの。私、怪しい者ではなく!」

「こんな時間に、人の屋敷をじっと見てる『お嬢さま』が?」

「うっ!!」


 ルキノは淡々とした声音で、フランチェスカを見て目を眇める。銀を帯びた水色の髪が、ランプの光を透き通らせて輝いた。


(本当に、氷細工みたいな男の子だなあ……)

「……もしかして、ずっとここに居たの?」

「?」


 フランチェスカが首を傾げると、ルキノが手を伸ばしてくる。


「頭の上、雪が積もって――――……」

「駄目、触っちゃ……っ」

「え」


 ばちん! と大きな音がする。


「!!」


 突如迸った稲妻が、ルキノの手を弾いたのだ。


「痛っ、た……!!」


 ルキノは咄嗟に右手を押さえ、後ずさる。


「なんだよ、今の……!」

「えっと…………せ、静電気!! 私、そういう体質なの!!」

「絶対嘘だろ!?」


 彼は、焦燥を押し殺した表情で、フランチェスカを威嚇するように睨み付けた。


「今日のあんた、あの黒髪と、同じ香水の匂いがする」


 ルキノの言う通りだった。

 今夜のフランチェスカは、レオナルドが普段つけている香水を纏っている。色気のある甘いムスクの香りは、フランチェスカが使うには、少々大人びた印象を受けるだろう。


「なるほど、あいつの施した虫除けって訳? 香水も、結界みたいなそのスキルも……他の男が近付こうとすると、『警告』するように出来てるんだ」


 少し赤くなった指先が、じんじんと痺れているのだろう。

 フランチェスカはルキノを怯えさせないよう、小さな頃のグラツィアーノを思い出しながら謝罪する。


「……ごめんね、ルキノ君。痛かったよね」

「っ、別に!? これくらいなんでもないし、痛くもないけど!!」

(あああ、どう見ても強がらせちゃってる……!)


 けれども恐らくこうなると、決して認めようとはしないだろう。


「くそっ。ああ、うるさいな……」


 ルキノはじっとフランチェスカを睨み付け、白い息を吐く。


「……この国は、昔から、変な人間ばっかりだ」

「……?」


 思わぬ独白に、フランチェスカは首を傾げた。


「ルキノ君は、前にもここに来てるの?」

「子供の頃にね。それが何?」


 露骨な不機嫌さを隠さないのは、恐らくわざとそうしているのだろう。

 だからフランチェスカも、敢えてこんなことを尋ねてみる。


「この国が好きなのかなあって、そう思って」

「はあ!? 誰が!」

(わあ、すっごく素直な反応だ!)


 ひょっとして、雰囲気や表情から受ける印象よりも、ずっと感情豊かな少年なのだろうか。

 ルキノは、まるで警戒心に溢れた子猫のように身構えながら口を開く。


「――この国の王は、あんたを可愛がってるらしいけど」

(ルカさまの、話?)


 冷え切ったまなざしが、フランチェスカのことを真っ直ぐに射抜いた。


国王(あいつ)には、気を付けた方がいい」

「!」



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