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211 ご機嫌

(レオナルドに、ちゃんとこうやって伝えなくちゃ。だってレオナルドは、私に言葉でも態度でも、示し続けてくれてるんだもの)


 とはいえ、フランチェスカが『主人公』である以上、どうしてもレオナルドを振り回してしまうのは事実だった。


「……エリゼオを『黒幕側』から『主人公側』に変えるのは、この世界でも、私の役割なんだと思う。だから」

「必要ないよ。フランチェスカ」


 レオナルドはフランチェスカの頬に手を添えて、やさしく言う。


「ゲームとは違って、君には俺が居る。ロンバルディ家の誰が洗脳されていようとも、俺が対処してみせるさ」

「ありがとう、すっごく心強い。……だけど、レオナルドにだけ頼る訳にはいかないよ」


 現に、エリゼオはフランチェスカに接触してきたのだ。


「ロンバルディ家の誰かがクレスターニに洗脳されているとしたら、ゲームで儀式の遂行者として選ばれていたエリゼオだっていう可能性も、高いはず。ダヴィードみたいに……」


 ゲームのメインキャラクターだからといって、洗脳から免れているとは限らない。

 そのことを、フランチェスカはもう知っている。


「ゲームのエリゼオは、何を決定打に『主人公』の味方になるんだ?」

「……それが」


 再びフランチェスカのサンドイッチを食べ始めたレオナルドが、首を傾げる。


「お祖父さんとエリゼオとの歩み寄りを、『私』が手伝うの。……聖夜の儀式を無事に成功させるためっていう、そんな理由で……」

「……あー……」


 レオナルドは、にこっと笑って言い切った。


「よし。エリゼオの攻略は諦めよう」

(うん、やっぱり無理だよね! 聖夜の儀式をレオナルドとやることになって、お祖父さんとは思いっ切り敵対しちゃったし……!)


 薄々分かっていたことではある。

 とはいえ、そうあっさりと割り切ることも出来ない。


「エリゼオを完全に無視する訳にはいかないよ。クレスターニの洗脳スキルがある以上、ロンバルディ家のこともちゃんと見ておかなきゃ……」

「……あの爺さんとエリゼオの和解なんて、手伝う必要があるのかは疑問だが」

「?」


 レオナルドが、「なんでもないよ」とフランチェスカに微笑む。


「あるいは何か、他のルートからエリゼオの陥落方法を探ろう。もちろん、君があいつに接触する以外で」

「……私にもっと、ゲームのエリゼオの情報があれば良かったんだけど……」


 実のところ、フランチェスカはそれを把握出来ていないのである。


「ごめんね、詳しくなくて。前世の私は、エリゼオを引けなかったから」

「引く?」


 レオナルドが首を傾げる。

 フランチェスカは躊躇しつつ、レオナルドに切り出した。


「このあいだ、『上手く説明できないからまた今度』って話した内容があったの、覚えてる?」

「ああ。君の言葉なら、全部忘れない」

「このゲームでは、現実の世界のお金を使って、特殊なくじを引くの。そのくじで当たったキャラクターを……なんというか、『仲間』に出来るんだけど」


 ぎこちない説明になってしまうのは、この世界で生きている人たちを対象にして、『所有』のような言い方をすることへの抵抗感からだ。


「そのくじで会って仲間にした人としか、メインシナリオ以外の交流は出来ないんだ」

「へえ。つまり、くじで引き当てられなかった人間については、ストーリーで描かれる必要最低限の描写しか分からないのか」

「そう、そんな感じ! この世界で高位の血筋の人ほど、くじで当たりにくくて……」

「入手するために、多くの資金を費やす必要がある?」

「レオナルド、話が早い!」


 先日は説明することを保留にしたが、こんなにスムーズに伝わるとは思わなかった。

 レオナルドは様々な知識も豊富だが、見聞きしたことがない事象に対しても、驚くほど飲み込みが早いのだ。


「くじを引いて来てくれる時期も、人物ごとに決まってるんだ。前世の私はいまと同じ十七歳の学生だったから、そのときのお小遣いの範囲だけで、エリゼオを引き当てることが出来なかったの」

「…………」

「だから、四章をクリアしたあとのエリゼオとのサブストーリーや、友好度を上げ切ったときに遊べるサブイベントのシナリオを知らなくて」

「………………」

「誕生日とかのプロフィールも、入手キャラクターの分しか見られないんだよ。エリゼオについて私が知っているのは、メインシナリオの……」


 そのときだった。


「!」


 隣に座っていたレオナルドが、フランチェスカの肩に、ぽすんっと頭を乗せる。


「レオナルド?」


 そして、上目遣いに見詰めてきたのだ。


「――――俺は?」

「え」


 フランチェスカに甘えるような、おねだりでもするかのようなまなざしだ。


「俺は、『君の物』にはならなかった?」

「えっ、と……」


 フランチェスカが避けた言い回しを、レオナルドはあっさりと口にする。


「レオナルドは、ゲームでは敵だったから……」

「……ん。なら、仕方がないよな」

(……なんだか、レオナルドがしょんぼりしてるような気がする……!)


 最上級の強さを誇るアルディーニの当主が、飼い主に撫でて貰えなかった動物のように萎れている。


 良心がちくちくと痛んだフランチェスカは、肩に乗ったレオナルドの頭を撫でながら、本心を付け足した。


「……レオナルドがくじに来てくれていたら、お手伝いを普段の何百倍も頑張って、お小遣いがなくなっても諦めずに挑戦したと思うよ?」

「!」


 フランチェスカの言葉を受け取って、レオナルドが目を丸くする。


「……ははっ」

(……わ)


 ふわりと嬉しそうに溢された笑みに、フランチェスカは視線を奪われた。

 身を起こしたレオナルドが、フランチェスカを覗き込んで囁く。


「この世界では、とうに君のものだ。いくらでも俺のことを所有してくれればいい」

「ご、ご機嫌になってる……」

「もちろん。俺の感情に変化を齎すのは、君だけだからな」

「……レオナルド」


 フランチェスカの言葉や振る舞いで、こんなにも感情を動かしてくれる。

 そんなレオナルドを見ていると、フランチェスカもくすぐったくなったり、嬉しくなったりと心が動くのだった。


(……まさか、ゲームのレオナルドを前世の私が持ってなかっただけで、こんなに拗ねるなんて)


 サンドイッチを頬張りながら、フランチェスカはそっと思考する。


(ゲームのレオナルドが、主人公の仲間になるはずないってこと、もっと早く説明しておけばよかったな。規格外のスキルもそうだけど、そもそも『レオナルド』はラスボスで、主人公のことが嫌いそうで、極悪非道で……)


 思わず脳裏に浮かんだのは、こんな考えだ。



(……私の傍にいてくれるレオナルドと、ゲームのレオナルドは、ほとんど『別人』みたい)



 そのことが、胸の片隅に引っ掛かる。

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