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207 友達じゃなくて(第4部1章・完)

(急に当主会議が開かれたのも、昨日だけだと結論が出なくて二日目になってるのも、レオナルドが聖夜の儀式に名乗りを上げたから……!)


 会議のことについて話題を出すと、レオナルドがさりげなく濁したのも、その所為だったのではないだろうか。


(ど、どどど、どうするのレオナルド!! 『聖夜の儀式はロンバルディ家が受け持つ』っていう、暗黙の了解があったのに! それを強行突破しようとするなんて!)


 フランチェスカが慌てていると、エリゼオがその美しい双眸を僅かに眇めた。


「知勇を信条とするロンバルディ家は、前回の儀式でも遂行者を務め上げ、聖樹や儀式に纏わる記録を残した。今年の儀式も、聖夜の儀式を経験できる、五十年に一度の好機だった訳だけれど……」


 エリゼオは、穏やかなのに危うさを感じる微笑みで、平然と言う。


「レオナルド君が急にそんなことを言い始めたから、うちのおじいさまがお怒りでね」

(やっぱり、大変な騒ぎになってる……!!)


 昨晩、フランチェスカの父が物凄い顔をしていた件や、先ほどのリカルドに感じたぎこちなさが脳裏に過ぎった。

 父もリカルドも、レオナルドが聖夜の儀式に名乗りを上げ、フランチェスカを花嫁役に指名したことを黙っていたのだ。


「当主会議は、レオナルド君と僕のうち、『どちらがフランチェスカちゃんを花嫁役に儀式を行うか』で白熱しているみたいだよ」

「あ、あの、一体どうしてなんですか?」


 そんな場合ではないと思いつつも、気になってしまったことを問い掛ける。


「ロンバルディ家が儀式をやる場合、花嫁役には他の女の人を選ぶべきです。それなのに、レオナルドと対立することが分かっていて、あなたの家が私を指名する理由がありません」

「ふふ。どうしてかな?」


 エリゼオは至って楽しそうに笑いながら、自身のくちびるの前に、その人差し指を翳した。


「その方が、面白いことになるからだって伝えたら、君はどうする?」

(……エリゼオって、やっぱり最初の頃のレオナルドに、ちょっとだけ性質が似てる……)


 もちろんふたりは別の人間だ。

 しかし、恐らくレオナルドとエリゼオは、互いの手の内を読み合える存在なのではないだろうか。


 レオナルドが考えそうなこと、エリゼオが考えそうなことを、彼らはそれぞれに察知できるような気がするのだった。


(ゲームでは、『黒幕のレオナルドに唯一共感する味方』キャラクターとして描かれたエリゼオ。……それをこの世界に置き換えると、エリゼオはそのまま『黒幕』である、クレスターニに……)

「ね。フランチェスカちゃん」


 エリゼオは白い息を吐きながら、フランチェスカに手を差し伸べる。


「よかったら、僕に協力してくれないか?」


 フランチェスカの脳裏に重なるのは、ゲームのスチルだ。

 どうか自分の未来を変えてみせてと、主人公にそう告げた場面は、いまの光景とよく似ていた。


「聖夜の儀式を達成すれば、次期ロンバルディ当主としての僕の立場も、より盤石なものになる」

「…………」

「国王陛下とも、お近付きになれる好機だしね」


 エリゼオが口にしたその言葉は、それなりに説得力があるものだ。確かにそうした目的であれば、ロンバルディ家が聖夜の儀式にこだわることも、頷けると言えなくもない。


「君には何か、知りたいことがあるんだろう?」

「!」


 未来を見透かしたようなまなざしが、フランチェスカに注がれる。


「この一ヶ月、君がレオナルド君の居ない日を見計らって、学院の図書室へ足を運んでいるのも知っているよ」

(……誰にも、見られてなかったと思ったのに)


 学院内のあちこちで、生徒会執行部の目が光っているのだ。エリゼオの忠実な部下である彼らの脅威を感じ取り、フランチェスカはますます警戒を強くする。


「きっと君には、何か切実な調べ物がある。けれど、成果は芳しくない状況なんだろう?」

(ほんの少しの情報を知られるだけで、ここまで内情を予想されちゃうんだ。未来を知るスキルのお陰だけじゃない、エリゼオの洞察力と頭脳があるからこそ)

「だから、ね」


 フランチェスカが言葉で誤魔化しても、エリゼオには通用しない。下手な嘘をついて否定するよりは、沈黙の方がまだマシだろう。


「君は、興味を持ってくれると思うんだ」


 エリゼオは美しい微笑みを浮かべ、フランチェスカに一歩近付く。


「当家が管理を任されている、『賢者の書架』に」

「………………」


 きっとそれは、レオナルドが隠したがっている『何か』に辿り着くための、数少ない可能性のひとつだった。


「僕たち、これを機会に『友達』にならないかい?」

「……友達……」


 憧れ続けたその言葉を、フランチェスカは繰り返す。


「聖夜の儀式を僕に譲るよう、君からもどうか、レオナルド君に口添えしてほしい。花嫁役にそう言われては、レオナルド君も退かざるを得ないだろう」

「…………」

「その上で君には是非、僕と儀式に臨んでほしいな。『花嫁』を務めてくれたお礼に、賢者の書架へ出入りする資格を渡すと誓うよ」


 エリゼオの提案に頷けば、フランチェスカはレオナルドに気付かれることなく、自身の転生に関する秘密を調べることが出来るかもしれない。

 フランチェスカだけでは誤魔化せないレオナルドのことも、エリゼオの頭脳や知識を借りれば、少しは渡り合えるはずだ。


 フランチェスカに言い聞かせるように、エリゼオは笑う。


「だからどうか、友達として。……僕の頼みを聞いてくれないかな?」

「…………私」


 けれどもフランチェスカは顔を上げ、エリゼオにはっきりとこう告げる。


「エリゼオさんに協力することは、出来ません」

「…………」


 王子のように穏やかだった微笑みに、ほんの僅かな変化が見える。


「それは何故?」

「だって……」


 フランチェスカは真っ直ぐに、抱いた想いを口にした。


「――私にとって大切なのは、知り合ったばかりの『知人(ともだち)』じゃなくて、ずっと友達でいてくれた『婚約者(レオナルド)』の方だから」

「……ふうん?」


 エリゼオの双眸には、目の前の獲物を値踏みするかのような、そんな『悪党』の光が宿っているのだった。


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第4部2章へ続く

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[一言] 悪い人を惹き付けると苦労しそうです。
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