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189 真実の力



 ダヴィードだって本当は、抗いたいに決まっている。

 心からフランチェスカを拒むのであれば、男の子による力で振り解いて、突き放せるはずなのだ。


「諦めないよ、絶対に! 友達になってくれなくても、私はもうダヴィードのことが、放って置けないの!」

「何が出来るって言うんだよ! あの化け物どもも、消えた輝石も、俺には元に戻す方法すら無え……!」

「ううん、それは違う!」


 美術館の廊下を真っ直ぐに走る。けれども押し寄せた異形たちが、後ろから追ってくる足音が聞こえた。


(ほとんどはレオナルドが止めてくれてる。入ってきたのはごく一部のはず、だけど……)


 焦燥感に苛まれながらも、目的のショーケースにようやく届く。フランチェスカは心の中で侘びながら、銃口を向けた。

 そして、引き金を引く。


(んん……っ)


 本格的に手が痺れてきて、思わず顔を顰めてしまった。けれどフランチェスカは躊躇なく、ガラスの割れた場所へ手を伸ばす。


 手の甲に痛みが走り、ガラスで切った傷口から、真っ赤な色をした血が滴った。フランチェスカはそれでも構わず、中に展示されている『宝石』を掴んだ。


「っ、おい……!!」

「行こう、ここだとすぐにあの人たちに追い付かれちゃう! もっと奥まった場所に逃げて、そこで私のスキルを使わなきゃ……!」

「スキル……?」


 しかし、フランチェスカは躊躇した。


「だけど、下手をしたらこっちが追い詰められる……狭い美術館の中で、安全な時間を確保出来る場所なんて」

「ち……っ」


 フランチェスカから流れる血を見て、ダヴィードが舌打ちをする。

 かと思えば彼は、フランチェスカを導くかのように、怪我をしていない方の手を取った。


「来い。こっちだ!」

「……! うん!」


 先ほどまでとは反対に、ダヴィードがフランチェスカの手を引いて走る。けれども彼は自分でも、そうする理由が分からないようだった。


「なんなんだよ。本当に、調子が狂う……!」

「あのねダヴィード。あなたのスキルはきっと、子供の頃に受けた『強制覚醒』で歪んでいる!」


 この世界と、フランチェスカの知るゲームとでは、ダヴィードのスキルはまったく違うのだ。


「十歳になる前に、カルロさんの所に連れて行かれたんでしょう?」

「なんでお前が、あの医者を知って……」

「その所為で、本来のスキルとは違った形で覚醒したの。だからね」


 フランチェスカが握り締めたのは、この美術館に展示されている『スキル強化素材』のひとつ、シュリカの宝玉だった。


(この宝玉は、ゲームで使う素材。これを手にして、私の三つ目のスキルを使えば……)


 フランチェスカから流れた血が、赤く輝く宝玉を汚した。


(『フランチェスカ』の持つ、キャラクター育成スキル。他者のスキルの威力を上げる『強化』と、出来ることを増やす『進化』……それから、残りのひとつは)


 そのままふたりで駆け込んだ場所、ダヴィードが連れて来てくれた『安全な部屋』に、フランチェスカは納得した。


「ミストレアルの輝石……」


 ステンドグラスを背にしたショーケースには、王冠に嵌められた大きな石が輝いている。


「偽物だ。俺の作り出した、なんの価値もない……」

「ダヴィード」


 息を切らした彼に向けて、フランチェスカは手を伸ばした。


「――私があなたの『本物』を取り戻す。もう、怖がらなくて良いよ」

「…………!」


 右手で宝玉を握り締め、左手をダヴィードの頬に添える。少し離れた向こうから、異形たちの足音が迫ってくるのが聞こえた。


(三つ目のスキル。一定の条件下に置かれたキャラクターのスキルを、強化素材を消費して『変化』させる力)


 キャラクターによっては、メインストーリーのクリア状況によって、スキルに変化が生じる場合がある。

 ゲーム上のダヴィードは対象外だが、この世界では異なるはずだ。そのことを強く信じながら、フランチェスカは祈るように目を閉じた。



(ほんの些細な変化でも、誰かの人生を巻き込んでしまうのが『主人公』の力なら……悪い方だけじゃなく、良い方にだって作用するはず)


 意識を集中させてゆくと、真っ黒な視界の中に赤い紋様が浮かび上がる。家紋の赤薔薇が描き出されて、強い光を放った。


(……お願い……!)

「――――!!」


 握り締めた宝玉が、強い熱を帯びる。

 流星のように瞬いて、その熱がダヴィードに移ったのをはっきりと感じた。


「まずはひとつめを変化させたよ! ダヴィード、あなたが本来目覚めるはずだったスキルは、『他人の外見を本性の通りに変えるもの』じゃない……!」

「……っ」


 顔面が大きな口だけになった異形が、展示室の入り口を覗き込む。そうしてにたりと笑いながら、ダヴィードとフランチェスカに手を伸ばした。


「怖がらないで、それを使って。あなたの本物のスキルのひとつは――……」


 フランチェスカが説明しなくとも、ダヴィードは予感しているのかもしれない。異形に向けて手を翳す姿には、戸惑いはあっても迷いは無かった。



「……真実の姿を、見抜く力……!」

「……くそ……!」



 そうして発動されたのは、フランチェスカには最初から分かっていた、ダヴィードのスキルだ。


 けれどもダヴィード本人にとっては、きっと長らく望んでいた、ラニエーリ当主に『相応しい』力だった。





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