19 攻略しちゃっていませんか?
(友達作りも婚約解消も上手くいかないうちに、五月になっちゃった。ゲームはいよいよ、メインストーリー第一章の開始月だ)
フランチェスカがスキップした操作説明では、仲間のスキル育成レッスンや、能力測定のミニゲームなどが行われる。
一通りの説明が終わったあとは五月になり、いよいよ本格的なゲーム内ストーリーが始まるのだった。
(操作説明でどの人物とも出会ってない私は、誰のことも育成対象にしてないから大丈夫! 裏社会の巨大な陰謀に巻き込まれたりしないし、そんな中で他家のご令息たちと絆を深めたりしない。うんうん、この一点だけは順調のはず!)
「フランチェースカ? どうせ考え事するなら、俺にその可愛い顔を見せていてくれ」
「……」
両手で頰を包むように、レオナルドの方を向かされる。
ぱちぱち瞬きをしたフランチェスカは、そのときひとつのことに思い当たり、さっと青褪めた。
「……ん?」
(――ちょっと待って)
突然湧き起こった考えを、否定するために振り返る。
(ゲームのフランチェスカは、プロローグの誘拐事件で選んだファミリーのキャラクターを入手して、ストーリーに従いながら操作説明を受ける。そこで入手キャラのスキルを育成したり、一緒に勉強するミニゲームの操作を覚えて、第一章のメインストーリーを迎えるわけだけど)
フランチェスカは、目の前にいる絶世の美男子をじっと見据えた。
(……誘拐事件で出会って、関係が生まれて、スキルを育成して。挙げ句の果てには一緒に勉強イベントまで起こしちゃってる、他ファミリーの主要キャラクター……)
その条件に当てはまる相手が、いまここにいる。
(――――私。まさか、レオナルドを『入手』して育成してることになってたり、してないよね――……?)
ゲームのシステムと現実は違う。
ゲームでいうところの『課金によるキャラの入手』が、いまいる現実ではどんな概念に置き換わっているのか、フランチェスカには想像がつかなかった。
しかし、いまこうしてレオナルドと一緒に過ごしているのが、そういった前提によるものだとしたら。
「あわ。あわわわわ……」
「ははは、どうした急に震え出して。本当に見ていて飽きないな」
「わたし! グラツィアーノに用事があったのを思い出したから!」
フランチェスカは慌てて席を立つと、急いでノート類を整理した。レオナルドは頬杖をついたまま、その様子をじっと眺めている。
「あいつか。君のファミリーの最年少構成員」
「学院でそういう発言は禁止! グラツィアーノは家の執事で、私の登下校の世話役を兼ねて入学したことになってるの!」
「ふーん……」
どこか含みのある相槌を打ったレオナルドに、フランチェスカは告げる。
「じゃあね、勉強教えてくれてありがとう!」
グラツィアーノに用事は嘘だ。とにかく一度、レオナルドから離れて、現状を整理したかった。
けれどもレオナルドは、名残を惜しむようにフランチェスカの手を掴むと、何もかも見透かすような金の瞳で見上げて微笑む。
「君に頼られるのは気分が良い。……いつでもどうぞ、フランチェスカ」
(ゲーム黒幕の発言でなければ、これほど心強いこともないんだけどね!!)
ぐぬぬ……という心境になりつつも、フランチェスカは慌てて第三図書室を出た。
(どうしよう、どうしよう! 考えるほどに、結局ゲームが進行してるような気がしてきた!)
考えてみれば、ここまでレオナルドがフランチェスカに接触してくるのも、おかしな話なのだ。
ゲームで初めてレオナルドに会うのは、これから始まる一章の後半のはずだった。シナリオ上、レオナルドは学院に来てもおらず、彼とのイベントが進行することもない。
いまの現状は、レオナルドとの関係性が、ゲームでいうところの操作可能キャラクターとして進んでしまっている可能性がある。
ノートを抱いたまま廊下は走らず、早足でずんずん突き進みながらも、フランチェスカは必死に頭を巡らせた。
(第一章の出来事が起きるのはまさに今の時期、五月上旬。順当なストーリーの場合、主人公が次に関わるのは……)
一年生の教室がある校舎に入り、グラツィアーノの教室を目指しながら、廊下の曲がり角に至った瞬間だ。
(この気配!)
ぴんときて、すぐさま身を躱した。
背中をぴたっと壁にくっつけ、一体化のようなイメージで停止する。周囲を歩いていた生徒がざわつくものの、いまは気にしていられない。
フランチェスカの懸念通り、その人物が現れる。廊下を曲がってきたその人物に、一斉に注目が集まった。
「見て。リカルド先輩だわ!」
雪の色に近い銀の髪は、整髪剤できちんと整えられている。
意思の強そうなまなざしと、一文字にかたく結ばれたくちびる。
眉間に僅かに皺が寄っており、姿勢はまっすぐだ。どこか怒っているように見えるのだが、それでも気品が漂っており、凛とした美しい面差しだった。
(やっぱり。――リカルド・ステファノ・セラノーヴァ……!)
フランチェスカは彼を知っている。
ゲームの登場人物であることはもちろん、カルヴィーノ家の娘として、遠巻きに彼の姿を見たことがあった。
(あの人が、五大ファミリーの中でも伝統を重んじるセラノーヴァ家のひとり息子。そして、ファミリーの次期当主なんだ……)
そしてリカルドは、フランチェスカの前でぴたりと足を止める。
通りすぎるはずの人物が立ち止まったので、思わず両手で口を塞いだ。気配を殺しておけばよかったと思うけれど、いまからやっても不審がられる。
(まずい。ひょっとして、私の顔を知られてる?)
「……そこのお前」
「ひゃっ、ひゃい!!」
氷のように冷たくて綺麗な顔が、不機嫌そうに歪んだ。
そういう表情も人気があるのか、廊下にいた女子たちが声を上げる。しかし本人は構うことなく、フランチェスカの方に歩いてきた。
(どうしよう。『カルヴィーノの娘』とか呼び掛けられたら、どうにもならな……っ)




