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186 二丁の銃

***


 この場所に駆け付けるまでの道中で、フランチェスカとレオナルドは状況を推測した。

 ダヴィードたちの父親が、クレスターニに洗脳されていたであろうこと。父親の自死を目撃したという幼少のダヴィードは、恐らくクレスターニに会ってしまっていること。


 きっと姉を父のようにしないため、自らその身を差し出したという可能性。

 洗脳されたダヴィードは、ミストレアルの輝石をすり替えて、その調査をしているフランチェスカとレオナルドを襲撃させられたのではないかということ。


 そして、その状況をどうにかするべくクレスターニに背いた結果、『罰』を受けているのではないか。

 そんな想像は、こうして目の前にしたダヴィードを見ていると、そう外れてもいないように見えるのだった。


 レオナルドの生み出した氷の壁によって、フランチェスカたちは周囲から断絶されている。ダヴィードは、小さな声でぽつりと呟いた。


「……怪我、してねえのか」

「!」


 ダヴィードは恐らく、昨日の公園にフランチェスカが居たことに気が付いている。

 けれどもすぐに、フランチェスカを案ずる資格など無いとでも言いたげな表情で俯いて、苦しそうな声で言った。


「っ、何をしに来やがった……!」

「……ダヴィードがしようとしたことを、邪魔しに来たの」


 フランチェスカはゆっくりと、一歩ずつダヴィードの方に歩いてゆく。


「一番取り返しがつかないのは、誰かが怪我をして死んじゃうことだよ。勿論そこには、ダヴィード自身も含まれてる」

「……うるせえ」

「街の人たちの異形化を解いて。それから一緒に考えよう、大丈夫だから――……」

「うるせえ!!」

「!」


 凄まじい音を立てて、氷の壁が一枚砕けた。


「消えてしまえ、あんなもの」


 崩れ去った壁の向こう側には、両手が鋼鉄のように変化した巨体の異形が立っている。暴力衝動を全身に纏わせた異形が、白い息を吐き出した。


「……これでいい、このままいけば、俺と一緒に壊してしまえる……」

「ダヴィード!」

「消してやる。そうだ、全部……」


 異形が大きく腕を振り上げる。狙う先は、フランチェスカではない。


「ねえ、止まって……!」

「化け物ども、俺を殺せ!!」


 ダヴィードが声を上げた、その直後のことだ。


「――っ!?」


 濁った叫びと共に、異形が倒れ込む。

 ダヴィードが、信じられないとでも言いたげな表情でフランチェスカを見た。


「お前、その銃……」


 フランチェスカの両手には、二丁の銃が握られている。


「ごめんね。ダヴィード」


 引き金を引いた際の反動で、フランチェスカの手はじんじんと痺れていた。けれども一切を顔に出さず、ダヴィードを見据える。


「お父さんのこと。……ダヴィード自身の『今の』スキルのこと。ソフィアさんから全部、教わったの」


 フランチェスカが手にしている銃は、ソフィアの武器生成スキルによって生み出されたものだ。ダヴィードも、間違いなくそれに気が付いた。


「ソフィアさんは、ダヴィードに生きてて欲しいって思ってる。『帰っておいで』って、心からそう願ってるんだよ」

「黙れ……!」


 氷の壁が再び砕かれ、新たな異形が現れる。フランチェスカはすぐさま銃を構え、異形の鳩尾を目掛けて撃った。


(ソフィアさんに貰った、ゴム弾の銃……!)


 ダヴィードが生み出す異形は、その人間の醜い本質を具現化するものだという。元は人間である以上、実弾で無闇に傷付けることは出来ない。


(もちろんゴム製の銃弾だって、当たれば骨が砕けたり、強い痛みで失神させられるものだけど。そういう傷は治癒スキルで治りやすい分、まだマシなはず……!)


 二丁の銃を何度も撃ちながら、フランチェスカは一歩後退した。


「ダヴィード、お願い、話を聞いて!」

「…………っ」


 フランチェスカが倒しても、すぐさま幾人もの異形が現れる。

 レオナルドの作り出した氷の壁が、異形たちが一気に襲い掛かってくることを防いでくれているものの、その数が少しずつ多くなってきた。


(この世界に転生してから、護身のために身に付けた銃撃。ちょっとは自信があったん、だけど……!)


 十七歳の少女の体では、徐々に耐えられなくなってくる。


(反動で痺れて、指の感覚が……!)


 それでも手早くゴム弾の装填を終え、ダヴィードに襲い掛かる異形を撃とうとする。

 けれども手から力が抜け、左手の銃を滑らせてしまった。


「あ……!」


 撃つことの出来なかった異形の長い爪が、ダヴィードに向かう。


「っ、止まって……!!」

「…………」


 フランチェスカが叫んだ瞬間、息を吐き出したダヴィードが笑った。

 直後、石畳が瞬く間に隆起して、ダヴィードの前に壁を作り出す。


「な……」


 石の壁に攻撃を防がれて、異形が悲鳴のような声を上げた。


 それもすぐさま止んだのは、恐らく何かのスキルによるものだ。

 目を見張ったダヴィードと、安堵の息をついたフランチェスカの頭上から、少々楽しそうな声がした。


「お前が考えていることを当ててやろうか? ダヴィード」

(レオナルド……!)


 自らが生み出した氷壁の上に立ち、悠然と笑うレオナルドが、挑発的な視線をダヴィードに向ける。


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