185 本物の願い
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(……どうにか、間に合った……!)
ダヴィードの元に駆け付けたフランチェスカは、浅い呼吸を繰り返していた。
先ほどまで行っていたソフィアとの『話し合い』は、この惨状に関する報告を受け取ってすぐに中断されている。
『……こうなったらもう、仕方がない』
ソフィアは苦渋の表情を浮かべ、構成員にこう告げた。
『化け物どもが沸いた通りを封鎖しな! ひとりたりとも通すんじゃない。ただし手荒な真似はせず、各自のスキルを使って気絶させるだけに留めるんだ』
『承知しました。この件、坊っちゃまには……』
『いいから早く行くんだよ!! 私もすぐに現場に向かう、さっさとしな!!』
『っ、は!!』
構成員が駆け出した部屋には、ソフィアとフランチェスカ、レオナルドだけが残される。
『……お嬢さん、アルディーニ、帰っておくれ。悪いが今はあんたたちとのお喋りよりも、この事態を収束させる方が先だ……』
『ソフィアさんは、構成員さんたちの指揮を取るんですよね? だったら私たちが、ダヴィードを探しに行きます。レオナルド……』
『もちろん、君の望みであれば』
『よかった、ありがとう! ……ソフィアさん。ダヴィードのスキルがどんなものか、ご存知のことを教えていただけますか?』
恐らく大通りで起きている惨事とは、昨日の公園と同じ光景なのだろう。
ダヴィードのスキルによって生み出されたあの状況へ、無闇に接近しても勝算は無い。だが、ソフィアは俯いたままだ。
『……帰りなと言っただろう。他家の人間の出る幕じゃ、ないんだよ』
『ソフィアさん、気付いてますよね……!?』
フランチェスカの中にも焦燥が生まれている。だからこそ祈るような気持ちで、ソフィアへと告げた。
『ダヴィードが洗脳されて、無理やりスキルを使わされていること。ダヴィードだって、その自覚が無いはずがない』
『……』
『きっと一刻を争います! 我に返ったダヴィードが、惨劇の原因が自分だって気付いたら、何をするか……!』
『……子供の頃から』
俯いたソフィアが額を押さえ、苦々しい声で絞り出す。
『あの子は時々、おかしかった。親父が死んで以来、死んだ親父と同じように……』
(子供の頃から? それじゃあ、ダヴィードの洗脳が始まったのは、もしかして)
クレスターニの手によって、幼少期から支配されていた可能性があるのだ。隣のレオナルドは表情を変えないが、何かを考え込むように沈黙している。
『ソフィアさん、だとしたら尚更です。今回大きな騒動を起こしたことで、ダヴィード自身が追い詰められる可能性があります!』
『これ以上、あの子に手を汚させないためなら。あの子の苦しみを長引かせるくらいなら、いっそこのまま、あの子の望む通りにさせるべきかもしれない』
ソフィアが言い出したその言葉に、フランチェスカは顔を顰めた。
『しっかりしてください! 追い詰められているときに下した結論なんて、後で絶対に後悔します!!』
『だけど。私はあの子の苦しみを、どうしてやることも出来なかった』
『……フランチェスカ。もういい』
レオナルドがあっさりと切り捨てて、フランチェスカに告げる。
『ソフィアはこのまま放っておこう。ダヴィードのスキルの情報が無いなら、力技でどうにかするだけだ』
(それじゃあ、レオナルドの負担が大きすぎる。それに……)
ソフィアは深く項垂れてしまい、顔すら見えない。そして彼女は弱々しく、こんな風に呟くのだ。
『……姉として。あの子の唯一見せる願いが、終わらせたいという願いなのであれば……』
『……っ』
フランチェスカがソフィアの前に立ちはだかると、レオナルドが不思議そうな顔をした。
『フランチェスカ?』
けれどもレオナルドには返事をしない。フランチェスカは手を伸ばし、ソフィアの顔を両手で包み込むと、ぐっとこちらを向かせて声を上げた。
『――ソフィアさん!』
『!』
間近から彼女を覗き込むフランチェスカに、ソフィアが息を呑んで目を丸くする。
『……お嬢さん……?』
『……ソフィアさんが想像しているような、悲しいことが……』
優雅にバイオリンを弾くダヴィードの姿を思い出しながら、フランチェスカはソフィアに問いを向けた。
『それが、ダヴィードの「本物」の願いな訳がないでしょう……!』
『……っ!』
瞳を揺らしたソフィアは何故か、フランチェスカよりも年下の女の子のように見える。
『ソフィアさんがラニエーリ家当主として指揮を取る間、私とレオナルドがダヴィードに会いに行きます。だからどうか、ダヴィードのことを教えてください』
フランチェスカの左胸に燃えるのは、確かな憤りだ。真っ直ぐにソフィアを見据えると、ソフィアがこくりと喉を鳴らした。
『ソフィアさんが、ダヴィードを諦めるなら……』
そしてフランチェスカは、ソフィアへの『脅迫』を口にしたのだ。
『――ラニエーリ家が、ここでダヴィードを手放すのなら、当家がダヴィードを貰い受けます』
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