173 忘れないで(第3部4章・完)
次にくるライトノベル2023にて、
『悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。』
女性部門4位を賜りました!!!
2021年に大賞をいただいたルプななに続いて、
このように光栄な場所に作品を挙げていただき、本当に本当に嬉しいです!!
投票してくださった皆さま、ありがとうございました!!
これからもコミカライズやドラマCDなど、小説を含めどんどん色んな形でもあくまなをお届けしてまいります!
今後ともよろしくお願いします!!重ね重ねありがとうございました!!
フランチェスカの目の前には、黒の軍服を身に纏った、十七歳のレオナルドが立っている。
そしてレオナルドは、フランチェスカを庇うように、腕の中へと抱き寄せた。
「化け物共」
甘く掠れた低い声が、異形へと命じる。
「……さあ、『お互いに潰し合え』」
「…………!」
やさしく紡がれた命令が、公園中に響き渡った。
それをきっかけに、異形たちが歪んだ声を上げ、それぞれを牙や爪で狙い始める。そのおぞましい光景に、フランチェスカは顔を顰めた。
「レオナルド……!」
抱き寄せてくれる腕の中から抜け出そうと、懸命に身を捩る。
「そんなこと、しなくてもいい……! 外に居るラニエーリの人たちを呼びに行こう!? そうすれば、レオナルドもそのスキルを解除出来る……!」
「良い子にしていてくれ。フランチェスカ」
「んん……っ」
ぎゅうっとやさしく、それでいて甘えるように抱き竦められた。フランチェスカの耳元にくちびるを寄せて、レオナルドが吐息で笑う。
「君をこそこそ狙っていた者に、知らしめる必要がある。――お前の操り人形は、俺の前で無力だと」
「……レオナルドが、毎日迎えに来てくれてたのは、誰かが私を狙ってるから……?」
その事実に気が付いて、ぐっとくちびるを噛み締めた。
(守らなくちゃいけないレオナルドに、守られてた。自分の責任も自分で取れないなんて、おじいちゃんに知られたらがっかりさせる……!)
だが、自身の情けなさを嘆いている暇はない。
レオナルドの首筋にも汗が伝う。余裕ぶった笑みを浮かべていても、呼吸が浅いのは明白だ。
「君を害する可能性があるものは、俺が全部殺してやるから――……」
そう呟いたレオナルドが、ほんの僅かに眉根を寄せた。
(血が……)
咄嗟に口元を押さえた手から、赤い雫が落ちるのを見る。レオナルドはそれでも、フランチェスカを見下ろして微笑んだ。
「っ、駄目……!!」
フランチェスカは手を伸ばし、レオナルドの首筋に縋り付いて抱き締める。
「……フランチェスカ」
「……そんな風に、自分を犠牲にするような戦い方、もうしないで……!」
異形たちの争う声や、子供の泣き声がする。
公園の入り口にはどうやら結界が張られていて、ラニエーリ家の構成員がそれをこじ開けようとしながら、大きな声を上げていた。
「……離してくれ」
「嫌!」
「お願いだ。君を守るには、まだ足りない」
そう告げられても受け入れられる訳がない。首を横に振り、更に強い力で抱き締める。
「レオナルドのことが、大事なの」
こんな風に言葉にしたところで、上手く伝えられる自信は無かった。
「友達だからっていう、それだけじゃない。レオナルドが私の敵になったとしても、それでも、傷付いてほしくない……!」
「俺も同じだよ。フランチェスカ」
「…………っ」
やはり届いていないのだ。今のレオナルドにとって重要なのは、フランチェスカを守るために必要な行動、ただそれのみだった。
「君を傷付ける『悪党』に、ちゃんと見せ付けてやろう」
「や……っ」
フランチェスカをやさしく、それでも抗えない力で引き離したレオナルドが、異形たちに手を翳す。
「レオナルド!」
「もう二度と、君を狙おうという気すら起きなくなるくらい。徹底的に――……」
何か途轍もなく嫌なことが起きる気がして、左胸がぎゅうっと締め付けられた。
(レオナルドを守る。何があっても……)
それが拒まれたとしても、譲る訳にはいかない。
レオナルドも同じ気持ちであると、そのことは痛いほどに理解できた。けれどもフランチェスカは手を伸ばし、再びレオナルドにしがみつく。
「お願い、レオナルド……!」
「……っ」
そのときだった。
「!!」
世界が大きく、震えて揺れる。
地面が沈んだかのような衝撃と共に、轟音の地響きを伴って揺らいだ。
(また、地震……!)
それと同時に全身から、ガクンと力が抜けたのを感じる。
「あ!」
「フランチェスカ!」
頽れそうになったフランチェスカの体を、レオナルドが抱き止めてくれた。
(この感覚。知ってる気がする、一体何処で……?)
レオナルドの腕の中におさまったフランチェスカは、周囲で重たい何かが倒れる音と共に、辺りから異形の姿が消えていることに気が付く。
「……お化けが、人に……」
そこに倒れていたのは、仮装姿に身を包んで気を失った、紛れもない『人間』たちだった。
何が何だか分からないが、少なくとも異形たちによる混乱は収束している。レオナルドや子供たちがもう安全だと分かって、フランチェスカは心底から安堵した。
「……レオナルド、体、平気……?」
「喋らなくていい。顔色が悪い」
「ふふ。レオナルドの、方こそ」
レオナルドのことをぎゅうっと抱き締めて、息を吐く。
「よかった。レオナルドが苦しくなるスキル、やっと、解除してくれた」
「フランチェスカ。頼むから、いまは喋らないでくれ」
「うん。……そうだね、なんだか眠い……」
レオナルドの腕の中にいるからか、急激な安堵に思考が薄れる。
「忘れないでね。……レオナルドのことが、とっても、大事なの……」
「……っ」
こうしてフランチェスカは、レオナルドにぎゅうっと腕を回したまま、意識を手離したのだった。
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第3部5章へ続く