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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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17 ひみつの代償


(……覚悟はしてた、ことだけど……)


 フランチェスカは観念し、息を吐き出す。


「……せいかい」

「驚いたな。そんなスキルを持つ人間が、この世界にいるのか」


 レオナルドが離してくれたので、フランチェスカは一歩後ろに引いた。

 彼はもはや、周囲にいる殺し屋に興味を向けていない。ただただフランチェスカを見つめ、興味深そうに眺めている。


能力(スキル)の強さは生まれ持ったもので、変えられない。……世界のそんな根本に、君は干渉できる」

「そこまで大袈裟なものじゃないよ……」


 一応はそう言ってみたものの、フランチェスカにだって分かっている。

 たとえば貴族の使える炎のスキルと、平民の使える炎のスキルとでは、その威力に大きな差があった。


 けれどもフランチェスカのスキルがあれば、未強化である貴族のスキルよりも、最高値まで強化した平民のスキルの方が強くなる。


 それは、『血が高貴であるほどに強い力を持っている』という、この世界の絶対的な価値観を揺るがすものだった。


 一時的に強化するスキルではない。フランチェスカの育成スキルは、スキルを成長させるものだ。

 よってその強化は、永久的に続く。


 強化可能回数は九回で、すなわち生まれ持った状態のスキルをレベル1とするなら、レベル10まで上げることが出来た。


 露見すれば、さまざまな人たちがフランチェスカのスキルを欲しがる。王族や貴族は自分の強化を求めるし、それは他国も同様だ。


 ゲームにおけるフランチェスカも、自身のスキルを隠していた。けれどもそれが何処かから露見し、レオナルドに狙われる理由のひとつになるのだ。


(あああああ、ゲームの通りになっちゃった……。バレたのは『強化できる』スキル一個だけ。他のはまだ隠せてるとはいえ、これだけでも結構まずいよね……)


 レオナルドは、頬についた返り血を手の甲で拭うと、フランチェスカを見下ろして尋ねてきた。


「どうして俺に、スキルを見せた?」

「え? どうしてって……」


 至極当たり前のことを聞かれて、フランチェスカは首を捻る。


「三階から狙ってたでしょ? 殺し屋が。気配秘匿のスキルを使ってたから、さすがにレオ……間違えた、アルディーニさんでも気付けないと思って」

「そうじゃなくて」

「……えーっと……?」


 十分な答えではなかったようなので、今度は反対側に首を捻って考えた。


「私に分かるアルディーニさんのスキルは、殺し屋たちを動けなくしてた、あのスキルだけだったからだよ」

「……」

「他にどんなスキルを使えるのか知らないから、あの殺し屋を止められるものか分からないでしょ? あなたを強化して、そのついでにスキル使用制限の時間をリセットすれば、もう一度同じのが使えるから」

「フランチェスカ」


 レオナルドは、呆れたようにこちらを見下ろす。


「俺を助けようとしなければ、君はその秘密を守り通せた」

「……!」


 その言葉に、フランチェスカは瞬きをした。


「俺が殺し屋に殺されようと、放っておけば良かっただろう? 君が危険を冒してまで、あそこで飛び出してくる必要もなかった。君は婚約からも解放されて、万事解決だ」

「……」

「それなのに、なぜ?」


 レオナルドは、本当に分からないものを見るような目をしている。

 だから、フランチェスカはびっくりしながら口を開くのだ。


「――人の命より守りたいものなんて、私にはないよ!」

「……!」


 それが、どんな秘密であろうとも。


「そりゃあ私だってこのまま一生、パパ以外の誰にも言わないつもりだったけど……。でも、こうしなきゃアルディーニさんが危なかったかもしれないんだから、仕方ない。無事で良かった」

「……」

「それに、朝からあなたの様子が違った理由も分かったし。昨日久しぶりに登校したことで、生徒として潜り込んでた殺し屋たちが動き出したんだね? そいつらを一掃するために、今日も学院に登校したけど、誰も巻き込まないように遠ざけたんでしょ」


 レオナルドが、早朝に来ていたのもきっとそのためだ。

 朝早くから登校するなんて、キャラクターに似つかわしくないと思っていた。あれは、敢えてひとりで無防備に過ごすことで、殺し屋たちを誘き出そうとしていたのだろう。


「私にあんなことを言ったのも、私が危なくないように。……そうだよね?」

「……」


 レオナルドはここでも笑みを消し、冷めた無表情でこちらを見ていた。


「想像力が豊かなんだな、君は」

「そう外れてない気がするけどなあ。……生まれた家が理由で、負わなきゃいけないものが、きっとたくさんあったよね」


 フランチェスカにも、少しは分かる。


「あなたがアルディーニの当主だって隠してないのは、みんなを巻き込まないためでもあるのかな。怖がって、腫れ物扱いしてくれれば、こんなときに危ない目に遭わせずに済むもん」

「……」

「……アルディーニさんが、そう考えて行動していたのだとしたら……」


 フランチェスカはレオナルドを見上げ、しみじみと彼を尊敬した。


「そういう風に振る舞えるのは、すごくやさしいね」

「……」


 レオナルドが、こちらを見て僅かに目をみはった。

 やがて物思わしげに俯いたあと、すぐに微笑んで口を開く。


「……君、よく今まで無事だったな」

「ど、どういう意味!?」


 その言葉には、嘲笑のような響きが含まれていた。


「いくらなんでも甘すぎるだろう? 裏の社会に生きていて、これだけの感性を保てるのは賞賛に値する。カルヴィーノの当主が、何がなんでも守り抜いてきた結果なのか……」


 父は確かにフランチェスカを溺愛している。だが、レオナルドは自論を考え直すように、ぽつりと呟いた。


「……いや」


 そして、フランチェスカの頬に手を伸ばす。


「――君自身が、強いのか」

「へ……」


 レオナルドの美しいかんばせには、いつも通りの底知れない笑みが浮かんでいる。


「フランチェスカ。……強くて美しい、俺の婚約者」

「――!?」


 彼はフランチェスカを覗き込んだ。気に入りの玩具を眺めるような、そんなまなざしを注ぎながら。


「けれどもいかんせん迂闊すぎる。秘密を黙っている代わり、無防備な君へのお仕置きも込めて、ひとつだけ我が儘を聞いてもらおうかな」

「……はっ!?」


 思いっ切り脅迫されている。それに気が付いて身構えると、レオナルドはぎゅうっとフランチェスカを抱き締めた。


 そのあとに、甘ったるく掠れた声でこう紡ぐ。



「……学校でも、ちゃんと俺のこと名前で呼んで」

「…………」



 こんなはずではなかった。


 そんな言葉を噛み締めながら、フランチェスカは絶望に両手で顔を覆い、絞り出すように「レオナルド……」と紡いだのだった。




-----

3章に続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] やばい、めちゃくちゃレオフラてぇてぇ…。
[良い点] デレデレのレオナルド可愛い......
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