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167 死人

【第3部4章】



「――そんな訳でリカルド師匠! 魔灯夜祭で小さな子と行っても治安が安心な地域、教えてください!!」

「一体なんの師匠だというのだ、なんの……」


 昼休み、風紀委員室を訪れたフランチェスカは、委員会日誌を書き終えたリカルドに懇願した。


 ミストレアルの輝石がすり替えられた一件で、各ファミリーもラニエーリ家の要請によって、協力体制を組んでいる。

 当主代理であるリカルドも数日顔を見なかったが、月曜日である今日の朝は登校していたため、元気そうな様子にほっとしたところだったのだ。


 それでこの昼休みの時間、フランチェスカはリカルドを労ったあと、もうひとつの用件について尋ねたのである。


「大体が、アルディーニの親戚の子供を連れて出掛けるだと? 女子生徒と子供だけで夜間の外出をするなど、推奨できるはずもないだろう」

「それが推奨できる場所の情報を持っているのが、リカルド師匠だとお見受けしまして……!!」

「だから、なんの師匠だというのだ。……まあ、もちろん情報は持っているが」

「さすがは師匠!!」


 目を輝かせたフランチェスカに、リカルドは溜め息をつく。


「幼い子供を連れて行くのであれば、近年はラニエーリ家の縄張りで開かれている魔灯夜祭の会場が順当だろう。女性だけでも安心して参加できるような目配りがされており、酔客が立ち寄れない区画が存在する」

「わあ。それなら安心感もしっかりあるね!」

「お前には、日頃から見回り先の情報提供をしてもらっているからな。地図を書いてやるが、くれぐれも気を付けて出掛けるように」

「ありがとう、リカルド!!」


 リカルドがその場で手書きしてくれた地図は、定規を使って真っ直ぐな線が引かれている。

 律儀さの伝わってくる文字でさまざまな解説が書き込まれたそれを、フランチェスカは心から感謝しつつ受け取った。


「それにしても、アルディーニめ。輝石捜索の協力を構成員に丸任せにするばかりか、フランチェスカに親族の幼児を預けるとは。いくらなんでも自由人すぎるのではないか?」

「い、いいの! 親戚の子をうちに泊まらせてもらうのは、私が小さな子と遊びたくて、レオナルドにお願いしたようなものなんだから」

「そうなのか? ……まあ、お前にとってもその子供は、広義での身内とも言えるしな」

「身内?」


 不思議に思って首を傾げると、リカルドは呆れた顔をする。


「お前、アルディーニの婚約者なのだろう」

「あっ!」


 そうだった、という顔をしてしまった。


 リカルドの呆れた表情は無理もない。レオナルドと『友達』であることを満喫しすぎて、ついついそちらが優先になってしまうのだ。

 父への言い訳などに使うことはあっても、レオナルドと結婚すればどうなるのか、具体的な想像をしたことはなかった。


「アルディーニの親族であれば、いずれ結婚後はお前の親族にもなる。……そういうつもりで預かった訳ではないのか?」

「……はい。正直、あんまり意識していませんでした……」


 父が複雑そうな顔をしていたのも、いずれフランチェスカが嫁いでしまうことを想像したからだとすれば頷ける。


「でも、レオナルドもほとんど意識しなくなってるんじゃないかな。冗談で婚約者扱いされることも、前に比べれば随分減ったし」

「俺からのコメントは、差し控えさせていただこう」

「?」

「それにしても……」


 自身が書いた地図を眺めながら、リカルドがしみじみと呟いた。


「アルディーニに、親族などというものが残っていたのか」

「うん。そうみたいだね」


 嘘を自然につくポイントは、堂々と話すことだろう。だからフランチェスカは、実際に小さな子供が家にいたときに、自分が話しそうなことを意識する。


「その子、シルヴェリオくんって言うの」

「…………」


 レオナルドの偽名を告げた途端、リカルドがぴくりと眉根を寄せた。


「……リカルド?」


 どうしてそんな風に顔を顰め、複雑そうな顔をするのだろうか。


(そういえば、パパもあのとき……)


 詳細に思い出す暇もなく、リカルドの顔色が悪くなる。

 リカルドは俯き、その手で自らの額を押さえると、掠れた声で絞り出した。


「……死人が、帰ってきた…………?」

「……!!」


 いまのリカルドと同じ言葉を、何処かではっきりと耳にしている。

 それが数日前の夜であることを、フランチェスカはすぐさま思い出した。あのとき、夢の中で微睡みながら、レオナルドが呟いたのだ。


『――魔灯夜祭の季節に、死人が帰ってきたぞ』


 レオナルドは、確かにこう言った。


『どう出る? 「クレスターニ」』

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