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158 知勇の一族



「君は本当に愛されているんだな。まあ、無理もないが」

「パパはママのことが本当に大好きで、大切だったみたいだからね。娘である私のことも、ママと同じくらい大事にしてくれるんだ」


 フランチェスカが生まれた際に、母は命を落とした。

 そんなしがらみから、幼いフランチェスカに冷たく当たってしまった日々を必死に埋めるかのように、父は愛情を注いでくれるのだ。


「あのカルヴィーノが、『娘だから』という理由で、無条件に他者を溺愛するはずもないさ。……これもすべて、君が君であるからだ」


 そう微笑んだレオナルドは、子供の姿でありながらも、フランチェスカをあやすような微笑みを浮かべた。


「君の父君を心配させないためにも、今日は部屋に戻って眠るといい」

「……分かってる、約束だもんね。でもレオナルド」


 寝台に座ったフランチェスカは、隣のレオナルドに告げる。


「レオナルドこそ、今夜はこの部屋で過ごさないつもりじゃない?」

「……」


 するとレオナルドは肩を竦め、仕方がなさそうに笑った。


「本当に、君には敵わないな」

(レオナルドが本気で私を騙そうとしたら、私の方が敵わないと思うけど……)


 フランチェスカはそんなことを考えながら、レオナルドの横顔を観察する。


(やっぱりレオナルドは、何か隠している本心があるはず。レオナルドが焦って大人の姿に戻ろうとしてないのは、その本心を曝け出したくないから? 今朝方、一時的に大人になってた理由も分からないし……)


 同時に気に掛かるのは、父がレオナルドに渡していた手紙だ。


「あのお手紙は、ルカさまから?」

「いいや。俺が昼間のうちに、ルカさまを経由して知人に出した手紙の返事だ」

「そうなんだ。そのお返事を受け取ったルカさまが、レオナルドに渡すためにパパに託したのかな……」


 レオナルドの親戚である『シルヴェリオ』宛の手紙を、父は不審に思わなかっただろうか。


「その知り合いの人に会いに行くんだね? 一緒に行く」

「……フランチェスカ」

「こんな小さな男の子が、真夜中にひとりで歩いてたら大変だよ。悪意のない人には不審がられるし、悪い人には誘拐されるかも」


 フランチェスカに譲る気がないことを、察してもらえたのだろう。レオナルドは小さく苦笑をして、フランチェスカに言い聞かせる。


「一度部屋に戻って、暖かい格好をして来ると約束してくれるか?」

「レオナルドが、その間に私を置いて行かないなら」


 こうしてフランチェスカは、こっそり屋敷を抜け出して、レオナルドの外出に付き添うのだった。




***




「――さすがは魔灯夜祭のシーズン。こんな時間になっても、町中が仮装した人だらけだね」


 赤い落ち葉色の外套に身を包み、そのフードを頭に被ったフランチェスカは、レオナルドの後ろを歩きながら周囲を見回した。


「やっぱり真夜中は治安が悪いなあ……泥酔した人たちが、あちこちで騒いでる。リカルドに情報提供しておかないと」

「リカルドの奴、この時期は夜ごとに見回りをしているんだったか? 他家の縄張りまで丁寧に」

「そうだよ、何かあったら知らせてくれって言ってたの。他家の縄張りといえば、この辺り……」


 手にしたランタンを少し上げる。ちょうどそのとき、フランチェスカを先導して歩いていたレオナルドが、裏路地の方に入っていった。


「こっちだ、フランチェスカ」

「ありがとう。見失ったりしないから、私を待たずに歩いて大丈夫だよ?」

「万が一にもはぐれる訳には行かないだろう? 君のような可愛らしい女の子を、一瞬たりともひとりには出来ない」


 子供の姿をしていても、レオナルドはやはり大人びている。

 そして彼は、小さな手をフランチェスカと繋いでくれながら、ひっそりと据えられた扉を叩いた。


「…………入れ」

(男の人の、声)


 背伸びをしたレオナルドが扉を開けようとするのを、フランチェスカが手伝って開ける。

 その先には白衣を纏い、そのポケットに片手を入れた、冷めたまなざしの青年が立っていた。


「…………提供された情報通りであることを、目視で確認」


 その人物は、肩までの長さで切られている紫の髪を、緩やかなハーフアップの形に結い上げている。


 洒落た結び方ではあるものの、男性にしては長い髪が邪魔だからそうしたとでも言わんばかりの、ラフな印象を受ける髪型だ。


 彼はレオナルドのことを見据え、ぶつぶつと独り言のように呟き始める。


「……外見年齢、およそ四歳から五歳ほど。髪色、瞳、共に変化無し」

(……この人、ひょっとして……)


 年齢はおおよそ二十代の前半くらいで、フランチェスカたちより年上に見えた。

 はっきり断言できないのは、彼の体躯が華奢であり、どちらかというと童顔だからだ。


「衣服もスキルによるもの、と? ……なんたる未知。詳細不明、最も心が掻き乱される言葉」


 レオナルドに視線を注ぐその瞳は、暖炉で燃えている火と同じ橙色をしている。こんな容姿を持つ『レオナルドの知り合い』に、フランチェスカは心当たりがあった。


「……調べねば。早急に、この存在のことを」


 そして案の定レオナルドは、想像通りの名前を口にして微笑むのだ。


「こんばんは。カルロ」

(研究者カルロ・チェチーリオ・ロンバルディ。……五大ファミリーのひとつ、ロンバルディ家の……!)


 この国を裏から守る五大ファミリーは、それぞれに『信条』を掲げている。


 フランチェスカの家は赤薔薇を家紋に持ち、『忠誠』を信条とする。レオナルドの家は黒薔薇を家紋に持ち、その信条は『強さ』だ。

 白百合を家紋に持つリカルドの家は『伝統』となり、ミモザの花を家紋とするダヴィードの家は『優美』となる。


 そして最後のファミリーであるロンバルディ家は、紫色をしたアイリスの花を家紋とし、『知勇』を信条とする家だった。


 目の前にいるカルロという青年は、そのロンバルディ家の一員だ。


(ゲームの第四章で主人公が組むことになるのが、ロンバルディ家の現当主の孫エリゼオ。ここにいるカルロは、エリゼオの従兄弟にあたる人で……)


 整った顔立ちだが、何処かぼんやりとした表情のカルロが、ゆっくりとフランチェスカを見遣る。


(天才肌の学者だけど、『一族のはみ出し者』として追い出された人。ゲームではレオナルドと手を組んだ存在として、『私』たちと敵対する存在……!)

「……ふむ」


 カルロはこちらに手を伸ばし、フランチェスカの顔面を鷲掴みしようとしてきた。


「未知の人間。早速、調査を――」

「!」


 フランチェスカが僅かに目を見開き、すぐさまそれに『対応』しようと身構えた、そのときのことだ。


「カルロ」

「!」


 レオナルドの幼くて明るい声が、その場の空気を凍り付かせた。


「フランチェスカに勝手なことをした場合は、お前を殺して償わせるぞ」

「…………」


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