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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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16 ひみつの能力


 レオナルドの周囲にいるのは、制服を着た男性たちだった。


 一時的に生徒のふりをしているか、殺し屋が生徒として入学しているかのどちらかなのだろう。

 いずれにせよ、学院には教員のスキルによって、『学院内に銃の持ち込みは出来ない』という結界が張られている。


(学院内にいれば、銃での狙撃はされない。されないけど……)

「……」


 レオナルドが、フランチェスカからふいっと視線を逸らす。

 それと同時に、男たちが一斉に彼へと襲い掛かった。


(――やっぱり、ナイフを持ってる!)


 授業でも使うことのある刃物は、隠せば持ち込めてしまうのだ。

 切っ先は、レオナルドの首や胸に定められている。だが、レオナルドは涼しい顔をして、最初のひとりの凶刃を躱した。


 体の重心を右にずらし、的を外した男の手首を掴む。そのままくるっと身を返し、敵の腕を捻りあげると、悲鳴を上げる男を背負うようにして投げ飛ばした。


「ぐあっ!」


 その直後、レオナルドは次の敵の懐に飛び込み、手刀でナイフを叩き落とす。続いて服の胸倉を掴むと、軽やかに頬を一発殴った。

 それだけで鈍い音がして、ふたりめの敵が気を失う。レオナルドはその敵を地面に捨てると、気軽な調子で伸びをした。


「っ、はは! あー、久々に体を動かすとすっきりするな」

「くそ、なんだこいつ……!! こっちは十人掛かりだってのに……」

「仕方ない、どいてろ!」


 殺し屋のひとりが、レオナルドに向かって手のひらを翳した。

 水色の光が渦を巻き、男の周りに集まってゆく。レオナルドはそれを見て、つまらなさそうに目を閉じた。


「なんだ。肉弾戦が楽しかったんだが、結局はスキル勝負になるのか」

「死ね、アルディーニ!!」


 殺し屋が、力を放とうとした瞬間だった。


「――……」


 レオナルドが、閉じていた目をゆっくりと開いた。


 そして男の方を見る。直後、その場にいた大勢の男たちが、どしゃりと地面に膝をついた。


「な……っ!?」

「ぐっ、うわあああ!!」


 何が起きたのか分からないとでも言うような悲鳴が上がる。


「……」

「体が……! 体が、動かない……!!」

(あれは……駄目だ、行かないと!!)


 フランチェスカは窓枠から手を離すと、急いで階段を駆け降りた。


(……レオナルドのスキルのひとつ。ストーリーで明らかになっているのは、他人の自由を奪って強制的に動きを止めるもの……)


 先ほど発動させたのは、恐らくそのスキルだ。


 メインストーリーのバトルでは、レオナルドと戦闘する際に、強制敗北するイベントが何度も起こる。開幕で発動されるのが、こちらが3ターン一切動くこともできなくなるスキルなのだった。


(スキルを一度使用すれば、もう一度同じスキルを使えるようになるまでは、時間が掛かる)


 これもまた、ゲームのシステムが影響しているのだろう。


 ゲームでは、ひとつのスキルを発動させると、次の使用までには所定のターンが必要になっていた。

 それが反映されたこの世界でも、スキルの連続発動は出来ない。そして、次に使えるようになるまでの時間は、強いスキルであればあるほど長いのだ。


(スキル使用不可の時間があるっていっても、レオナルドのさっきのやつは、すべての敵に影響するスキルのはず。――あそこにいたレオナルドの敵は、全員動けない。だけど……!)


 ぐっと眉根を寄せる。校舎を飛び出し、息を弾ませながら、レオナルドのいる裏庭へと走った。


 校舎裏に回り込むと、だんだん光景が近付いてくる。それは、フランチェスカですら息を呑んでしまうものだ。


 地面には、何人もの男が倒れていた。

 レオナルドは、そのうちのひとりの背に座り、別の男の胸ぐらを掴んでいる。レオナルドは、こちらに走ってくるフランチェスカの姿に気が付いたようだ。


「……おっと。来たのか、フランチェスカ」


 レオナルドの頬は、返り血らしきもので赤く汚れている。


 男たちはいまや、スキルの力によってではなく、レオナルドに痛めつけられて動けないようなのだった。

 みんな腹や腕を押さえ、中には口から血をこぼす者もいる。フランチェスカが二階から降りてくるまでの数十秒で、ここまで凄惨な状況になるものだろうか。


「近付かない方がいい。こんな所を誰かに見られたら、友達が出来なくなるぞ?」

「……っ」

「さっさといなくなれ。――言っただろう、君を殺す前に離れてくれと」


 だが、フランチェスカはそのまま足を止めなかった。

 それどころか、立ち上がったレオナルドに狙いを定めると、そのまま勢いを付けて彼の元へと飛び込むのだ。


「……!?」


 さすがに面食らった様子のレオナルドが、それでも背中を抱き止めてくれる。

 フランチェスカは、抱き付いたレオナルドにある行為を行うと、そのまま顔を上げてこう叫んだ。


「アルディーニさん、もう一度さっきのスキルを使って! 今回だけは連続で使えるから、お願い!!」

「は……?」


 突然こんなことを言われても、恐らく訳が分からないだろう。それに、同じスキルが何度も連続で使えないのは、この世界では当たり前の事実なのだ。


 すべてを説明する時間が惜しく、必死で呼吸を継ぎながら叫ぶ。


「いまは黙って私を信じてほしい……! あそこ、三階!!」


 フランチェスカが指差したのは、先ほどフランチェスカが覗いていた窓のその上だ。


「投げナイフ! ……隙が出来るのを狙ってる――……!!」

「――――……」


 フランチェスカがそう叫んで、一秒も数える暇はなかった。


「ぐ……っ!!」


 頭上から、澱んだ悲鳴が聞こえてくる。

 どさりと倒れる音がして、ようやく辺りが静かになった。それを確かめて、フランチェスカはほっと息をつく。


「…………」

「……わあっ!!」


 そういえば、レオナルドに抱き付いたままだった。

 慌てて離し、敵意はありませんの万歳をする。レオナルドはいつもの笑みを消し、無表情に近い顔をして、フランチェスカを見ていた。


「え、えーっと……」


 しどろもどろになりながらも、フランチェスカは口を開く。


「こ、巧妙に気配を隠してたよね! 最後に残ってた殺し屋はきっと、気配を遮断できるタイプのスキル持ちなんだと思う!!」

「……」

「私もきっと、ちょうど真下にいなかったら、かすかな殺気には気付けなかったなあ……!! なんにせよ、間に合って良かっ……」

「フランチェスカ」


 ぐっと手首を掴まれ、珍しい動物を捕まえたかのように引き寄せられて、フランチェスカは観念した。


「さっき、俺に何をした?」

「……うぐう……」


 これはもう、言い逃れできない状況だ。


「……わ……わたし。スキル。つかった。…………スキル。もってた」

「……」

「…………うそ。……ついてた。……ゴメン……」

「ふ」


 ぎこちなく説明するフランチェスカに、レオナルドが口元を緩める。


「ふは。なんでここに来て片言なんだ? 面白いな」

(ご、誤魔化せた……?)


 スキルを持っていないと話したものの、実際はちゃんと持っていた。


 それだけのことが知られても、一応まだ致命傷ではない。

 婚約解消の口実には遠のいたかもしれないが、これ以上はなんとか有耶無耶にして、追及を回避できないだろうか。


 そう思っていたものの、レオナルドは満月色の瞳を細めて、フランチェスカの顔を覗き込んだ。


「――『俺に何をしたのか』って、そう聞いた」

「……っ」


 さすがに背筋がぞくりとした。


 レオナルドの物言いは柔らかく、表情も穏やかだ。それなのに、声音はいつもよりも随分と低く、注がれる眼差しには容赦がない。


『逃がさない』と、そう雄弁に語っている。


「……あなたのスキルの、使用制限を解除したの。そうしないと、危ないと思ったから」


 見せてしまったことだけは隠せない。

 目を逸らしつつ答えると、顎を掴んで彼の方を向かされる。


「それだけじゃないよな?」

「……」

「言う気がないなら当てようか」


 彼はもう、ほとんど確信しているのだ。


「二度目にスキルを使ったときは、スキルの効力を弱めておいたつもりだった。ここにいる連中は全員潰してしまったが、せっかくひとり無事なのが残っていたなら、『生き残り』を尋問しようかと思って」

(咄嗟のことだったのに、あの一瞬でそこまで計算して加減したの!?)

「だというのに、俺のスキルを浴びた殺し屋は、悲鳴を上げて気を失ったようだ。ちょっと動きを止めようとしただけなのに、きっとショックが大きすぎたんだな」


 レオナルドは、フランチェスカを観察するように、楽しそうに目をすがめる。


「――君のスキルは、『他者のスキルを強化する』ことだ」

「……!」

「使用制限の解除は、単なる副産物。そうだろう?」


 レオナルドの言った通りだった。

 フランチェスカの持つ三つのスキルは、どれも他人を強化し、育成することの出来るスキルなのだ。


 キャラクターを強化育成するゲームの、主人公であるからこその能力だった。

 フランチェスカは、誰かのスキルをより強く、より自由に、さらに優秀に進化させることが出来る。


 そんなスキルを持っているのは、世界にフランチェスカひとりだけなのだと、ゲームでは明言されていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] え、そんなすごい能力を今明かしちゃうの??? しかも、ストーリー的に助けなくてもレオナルドは生き残りそうだし、よりによって彼の目の前で彼のためにスキルを使うって......えー
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