表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜第3部 狷介孤高の同級生〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/323

156 ぬいぐるみ

【第3部3章】




 夕食の時間もとうに過ぎ去り、そろそろ眠り支度を始めるような頃、カルヴィーノ家にはフランチェスカのはしゃぐ声が響き渡っていた。


「ううう、やっぱり可愛い…………!!」


 現在この部屋の主役となっているは、持ち主のフランチェスカではない。

 黒い髪に金色の瞳、そしてぷにぷにした輪郭の頬と小さな手足をした、とても可愛らしい男の子だ。


(ちっちゃくなったレオナルド、熊さんのふわふわパジャマがすごく似合う……!!)

「…………」


 寝台に座ったフランチェスカは、自らの膝に乗せたレオナルドをむぎゅっと抱きしめて、あまりの愛らしさに身を震わせた。


 寝台にたくさん並べたのは、積み木や絵本などの子供向け玩具だ。そこにお菓子も置き、フランチェスカのぬいぐるみも添えて、レオナルドの周囲を賑やかに演出している。


 そして当のレオナルドには、温かくてもこもこした素材で作られ、フードに小熊の耳がついたパジャマを着てもらった。


(グラツィアーノは一度も着てくれなかったパジャマ。可愛すぎて捨てられなかったのを、まさかレオナルドに活用してもらえるなんて!)

「…………」


 フランチェスカもナイトドレスを纏い、グラツィアーノにも部屋に来てもらって、今夜はパジャマパーティなのだ。

 子供体温のレオナルドを抱えたフランチェスカは、丸い輪郭を覗き込みながら、彼の偽名を呼んだ。


「その熊さんパジャマどうかな、『シルヴェリオ』くん。あったかい?」

「……うん! あったかいよ、フランチェスカちゃん」


 抱き締めているレオナルドからの返答が、ほんの少しだけ遅かった気がする。

 それを不思議に思っていると、寝台横に置いた椅子へ斜めに座ったグラツィアーノが、なんだか面白くなさそうに言った。


「お嬢。チビとはいえそいつも男なんですから、ぬいぐるみみたいに抱き締めてちゃ駄目っすよ」

「うん。俺も、グラツィアーノおにいちゃんの言う通りだと思うなあー」

(でも、中身はレオナルドだし)


 そんなことを考えていると、振り返ったレオナルドが小さな声で、まったく同じことを口にする。


「……フランチェスカ。忘れていないとは思うが、中身は俺だ」

「え? うん、勿論分かってるよ。大丈夫!」


 グラツィアーノに聞こえない音量の内緒話だが、レオナルドはなんだか曖昧な苦笑を浮かべた。少し困っているように見えるのは、パジャマが趣味に合わないからだろうか。


「グラツィアーノ、そっちの箱にある玩具も出してみて!」

「ったく。あんまりチビを甘やかすのも、俺はよくないと思いますけどね」


 寝る前だというのにクッキーを齧りつつ、グラツィアーノが赤い玩具箱を開けてくれる。


「チビ。お前今日、放課後にお嬢を迎えに行ったんだって?」

「うん! おへやであそんでたら、フランチェスカちゃんをおむかえに行くって教えてもらったから、俺も一緒に乗せてもらったんだ」


 ふたりの話している通りだ。今日のグラツィアーノは、輝石の捜索に協力するフランチェスカの父のため、放課後すぐに学院を後にした。

 ひとりで帰宅しようとしたフランチェスカの元に、レオナルドを乗せた馬車がやってきたのである。


「仕方ねえな。お嬢の護衛の任務をこなしたチビと、存分に遊んでやるとするか」

「わーい。ありがとう、おにーちゃん!」

(ふふ。グラツィアーノ、本当に張り切ってるなあ)


 フランチェスカは、グラツィアーノが玩具箱を開けているその隙に、ひそひそとレオナルドに耳打ちした。


「……着せ替え人形みたいにしちゃってごめんね、レオナルド。だけど、我が家に小さな子がやってきたのに、私がこうやってはしゃがないと不自然だから……」

「謝らなくていいさ。君が楽しいのなら、着せ替えぬいぐるみ扱いも甘んじて受け入れよう」

「う。バレてる!」


 レオナルドに見抜かれたふりをして、フランチェスカは大袈裟に動揺してみせた。


(だけど、本当は)


 膝の上のレオナルドを抱っこしたまま、内心でこっそり考える。


(子供の姿のレオナルドのことを、いっぱい肯定してあげたいんだ。……レオナルドはあんまり、小さな頃の自分のことを、好きじゃなさそうだから)


 レオナルドが過去を語るときは、いつだって自嘲めいた微笑みを浮かべている。

 人情家だったという父や兄を好ましく思いながら、守れずに庇わせて死なせたことへの罪悪感が、レオナルドを自罰的にさせるのだろう。


 レオナルドはくすっと笑い、フランチェスカに身を預けながら目を伏せる。


「君は優しいな。フランチェスカ」

(……私のそういう考えも、バレちゃってるなあ)


 相手がレオナルドなのだから当然だ。後ろから表情を窺おうとすれば、レオナルドもこちらを振り返った。


「俺は君の、そういうところが……」

「ん?」

「ふふ。なんでもないよ」


 フランチェスカは首を傾げる。命令を忠実に守ってくれていたグラツィアーノが、玩具箱の底から木製の剣や銃を取り出した。


「ほらチビ、シルヴェリオ。お嬢がガキだった頃の俺を、『修行』と称してぶっ叩いた武器が出てきたぞ」

「た、叩いたんじゃないよシルヴェリオくん、あれは事故だったの! だけどあのときはごめんねグラツィアーノ!」

「フランチェスカちゃんの小さかったころのお話、もっとききたいな」

「というかちょっと待て。お前いつの間にお嬢のこと、フランチェスカちゃんなんて呼び方してんだ?」


 三人でそんなお喋りをしていると、階下から誰かが上ってくる足音が聞こえた。


「あ。この足音……」


 ノックの音が三度鳴り、フランチェスカは「どうぞ!」と声を掛ける。

 そして扉が開いた先には、想像通りの人物が立っていた。


「おかえりなさい、パパ!」

「――ああ。ただいま、フランチェスカ」


 帰宅した父エヴァルトが、フランチェスカの膝に乗せられたレオナルドを見遣る。


「おかえりなさい。フランチェスカちゃんのパパ!」

「――――……」


 にこっと笑ったレオナルドに対し、父が絶対零度のまなざしを向けた。


(あれっ)


 それを見て、フランチェスカの背筋が冷える。


(ひょっとしてパパ。――『シルヴェリオ』くんの正体に、気付いてる?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ