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【アニメ化&5部完結】悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。~最上級ランクの悪役さま、その溺愛は不要です!~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
~第1部 極悪非道の婚約者~

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15 黒幕婚約者の目論み

 一瞬愕然とするものの、すぐに気が付いてはっとする。


(違う違う。こっちが素のレオナルドなんだった!)


 そうだ。

 この世界のレオナルドが、なぜかやたらとフランチェスカに甘ったるい言動をしてみせるだけで、ゲームでは割とこういう人だったように思う。


 無関係な人を大勢洗脳したり、人の屋敷に火を付けさせたり、その振る舞いは悪役そのものだ。

 クラスメイトに対し、『殺してしまうからどこかに行け』と笑ってみせるくらい、たぶん普通なのだった。


「……分かった。離れるね」

「……」

 

 無表情になったレオナルドが、手首を離してくれた。

 現実離れしているほどに整った顔立ちは、真顔になるととても冷たい。美し過ぎて人形のようだから、感情が見えないと無機質に見えるのだ。


 フランチェスカは、続いて彼にぺこんと頭を下げた。


「それと、自分の用事があるときにだけ話し掛けようとして、ごめんなさい」

「…………」


 近付くなと言われているからには、さっさといなくなった方がいいのだろう。

 フランチェスカは、教室の最高段にいるレオナルドの対角線上、前側の入り口に近いところに鞄を置く。


 実のところ、今日は朝一番に登校して、誰かが入ってきたら「おはよう」の挨拶をしてみようと思っていたのだ。


 けれど、レオナルドがフランチェスカに居て欲しくないようなので、それはやめることにする。


(私が視界に入らない方がいいよね。ううん、中庭にでも行こうかなあ……)


 そんなことを思い、教室を出ることにする。その前に、もう一度だけ振り返った。


「……」


 レオナルドは、再び机に突っ伏している。眠っているようにも見えるが、その実はどうなのか分からない。

 声を掛けることはせず、フランチェスカは始業時間まで、校内を散歩することに決めるのだった。




***




 早々に教室から消えていた昨日と違い、この日のレオナルドは、ずっと教室に居ることを決め込んだらしい。


 とはいっても、基本的には一番後ろの窓際で、とろとろと微睡むように眠っている。

 一見すると、その様子はとても寛いでいて、無防備な雰囲気だった。机の上に腕を置き、そこに突っ伏して、安らかな寝息を立てているのだ。


 それを叱るべき立場の教師たちは、レオナルドを完全に腫れもの扱いしていた。


 ホームルームを始めた担任は、レオナルドが返事をしないにもかかわらず、即座に出席扱いでチェックを付けている。

 授業が始まって以降も、担当教師がやってくる度に、レオナルドの姿を見てぎょっとする始末だった。


 そのうちに、とうとう状況に気が付いていない男性教師が、教室に入るなりレオナルドを咎める。


「おい、そこの君。本鈴が鳴っているぞ、起きなさい!」

「せ、先生……!」


 生徒のひとりが制止したが、そのときはもう遅かった。

 レオナルドは、もそりと怠そうに身を起こすと、掠れた低い声で返事をする。


「…………あ?」

「ひいっ!?」


 その低い声に、教師が身を竦めた。


「そ……それでは授業を始めるぞ! 新学年最初の授業だ、まずは教科書を……」

(……うーん……。さすが、五大ファミリーアルディーニ家の当主っていう身分を、一切隠していないだけはあるなあ……)


 この学院に通う裏の人間は、みんな事実を大っぴらにしている。

 とはいえ、学院では紳士的な振る舞いをし、他の生徒を怖がらせないように努めていた。それが、ゲーム内のシナリオだ。


(貴族も平民も一緒に通う学校だけど、みんな五大ファミリーの恩恵を受けたり、協力関係にあったりする。前世よりは裏社会に寛容だけど……やっぱり一線は引かれてるよね)


 クラスの雰囲気はどこか浮付いていて、落ち着かなかった。

 みんなレオナルドを窺って、距離を置いている。しかし、どうやら怖がられているばかりではないようだ。


「レオナルドさま、寝てるところも格好良い……」


 クラスの女子どころか、他学年の女子までもが、休み時間のたびにレオナルドの姿を見に来る始末だ。


「授業にほとんど出てないのに、試験はいつも学年最上位クラスなのよね! 運動神経も良いし、なによりあの美しいお顔!!」

「でも、やっぱりちょっと怖くないかしら? だってあのアルディーニ家の、それも一番偉い人なんでしょう……?」

「でも、危険な香りがしてどきどきしない? おまけに当主よ、当主!」

「やめておきなさいよ。裏社会の人なんて、結局は人に迷惑をかける犯罪を犯して、それで生きている下劣な人種だわ」

(う……っ)


 フランチェスカの心にも、女の子たちの言葉がさっくりと刺さる。


「そりゃあそうかもしれないけれど。でもうちのお父さまは、五大ファミリーが国内のあらゆる経済を回してるって言ってたわ」

「もう! みんな、そんなことよりレオナルドさまよ! こっそり近付いても、いまなら気付かれないかもしれないわ」

「た、たしかにチャンスかも……!!」


 そんなひそひそ話を聞きながら、フランチェスカはそっと考える。


(……やめておいた方がいいと思うんだけどな)


 みんなには、レオナルドがただ机に突っ伏し、四月のひだまりで午睡をしているように見えるのかもしれない。

 だが、実のところ全く違うのだ。


(眠ってなんかない。――レオナルドは、なにかを待っている)


 恐らくは、昨日の中庭で感じた妙な気配が原因だ。


「――……」


 そのとき、レオナルドがむくりと眠そうに身を起こしたので、クラス中が女子を中心に色めきだった。


 レオナルドは緩慢に立ち上がると、ひとつ大きなあくびをしたあと、上着のポケットに手を入れて歩き始める。廊下に出る彼を呼び止めるため、ひとりの女子が駆け寄った。


「レオナルドさま!」

「……ん?」

「おはようございます。もしかして、次の移動教室に行かれるのですか? でしたら僭越ながら、私がご案内させていただきますけれど」

「いや、いいよ。ありがとう、ばいばい」

「あ!! お待ちになって!!」


 とても可愛い女の子だ。けれどレオナルドは、適当にあしらって通り過ぎようとする。

 慌てた女子が、レオナルドの腕を強く掴んだ。あれでは爪が食い込んで、レオナルドが痛いのではないだろうか。けれども女の子は、その可愛らしい瞳でレオナルドを見上げる。


「れ……レオナルドさまは、ご存知ないかもしれませんね。うちの父は昔から、アルディーニ家の方々と懇意にさせていただいているそうですの」

「……ふーん」

「それはもう深い縁ですのよ! 私が生まれた直後には、父がご相談に行ったくらいなのです! なにかと申しますと、私とレオナルドさまとの婚約を……」

「……あー……」


 レオナルドはその女子を見下ろして、ふわりと柔らかい笑みを浮かべる。

 けれど、その目は笑っていなかった。


「ちょっと黙ってもらえるか?」

「!!」


 口振りだけは軽やかなのに、重たい声だ。女の子が、さっと青褪めて手を離す。

 レオナルドは皺の寄った服を手で払うと、あとは女の子の方を見もせずに、そのまま廊下に出てしまった。


「だ、大丈夫……?」

「ふ……ふん、何よ……!!」


 あしらわれた女子を心配して、仲のいいらしき面々が集まってくる。

 教室はしばらくざわついていたが、すぐに五分前の予鈴が鳴り、みんな慌てて移動教室への準備を始めた。


(レオナルド、もしかして……? でも、私が変にしゃしゃり出ても……)


 そんなことをぐるぐると考えつつ、教科書を揃えて立ち上がる。

 するとそこに、数人の女子がやってきた。


「あの、トロヴァートさん」

「!?」


 女子のひとりが呼んでくれたのは、フランチェスカの偽名である母の苗字だ。


「わっ、わ、私!?」

「次の時間、音楽室でしょ? 転入生だから、場所が分からないんじゃないかと思って。よかったら、一緒に行かない?」

「…………!!」


 フランチェスカの視界が、ぱああ……っと晴れ渡った。


(クラスメイトに話し掛けられた……!! すごい。すごい、すごい……!! 家の環境が知られてなかったら、こんなに素敵な出来事が起こるの!?)


 あまりにも幸せな出来事を前に、思わず泣きそうになってしまう。


「あ、ありがとう! そんな風に気に掛けてもらえて、すごく嬉しい……!」


 だが、フランチェスカはきゅっとくちびるを結んで俯いた。


「で……でも、ごめんなさい」

「トロヴァートさん?」

「……私、音楽用のノートを買い忘れちゃったみたいなの。授業が始まる前に、購買に行かなきゃ」


 クラスメイトたちに深く頭を下げて、名残を惜しみながらお礼を言う。


「本当に、本当にありがとう!!」

「あ! ……行っちゃった」


 フランチェスカは教室を飛び出すと、大急ぎで廊下を駆けた。


(他家のことに軽々しく干渉しちゃ駄目、しゃしゃり出るべきじゃないって分かってるけど!! ……それと、いまのが友達を作るための、絶好の機会だったことも分かるけど……!!)


 だけど、ここでこの状況を捨て置くのは、フランチェスカの信条に反する。

 不穏な気配のある場所は、校舎の中ではないようだ。廊下の窓が空いており、ちょうどその下で何かが起こっていることを察して、窓から身を乗り出した。


 そして、下にいるレオナルドの名前を呼ぶ。


「――アルディーニさん!」

「……」


 見下ろした校舎裏には、上着を脱いでシャツ姿になったレオナルドが居て、複数人の男たちに囲まれていた。


「……フランチェスカ」

(やっぱり、殺し屋に狙われていたんじゃない……!!)





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