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147 中身


 ゲームにおいては、敵に掛かった強化をすべて強制的に剥がした上で、非常に高い確率でのクリティカル攻撃を頻発させるスキルとして反映される。

 残りのふたつはそのスキルを活かすような、ダヴィード自身の能力強化だ。


(多分、『嘘をついている人に本当のことを話させる』っていう力は無いはずだけど……)


 少し緊張しながらも、フランチェスカはあくまで輝石が気になるという顔をして、じっとダヴィードを見つめ返した。


「…………」


 ダヴィードはやがて、フランチェスカからふいっと顔を逸らす。


「知らねえ。輝石がどうなろうが、俺には知ったことじゃねーからな」

(……あんまり嘘が上手じゃないなあ……)


 輝石のことがどうでも良いなんて、そんな態度には見えなかった。

 芸術を愛するダヴィードは、そもそも『ミストレアルの輝石』に興味があるはずだ。それに加えてその行方は、国王ルカから輝石の守護を任されたラニエーリ家の命運を握っている。


(シャンデリアの火が消えたあと、ダヴィードは真っ先にお姉さんのソフィアさんと、輝石の方に行こうとしていた。その足を止めちゃったのは、地震の混乱から私を守ろうとしてくれたから)


 ダヴィードを立ち止まらせてしまったのは、それだけではない。


(ダヴィードもあの人影を追い掛けていた。そこがゲームのシナリオと違うのは、私とレオナルドがバルコニーから飛び降りたことに気が付いたからだよね? あのまま追い掛けたかったはずなのに、私たちに会ったから……)


 そして、その理由も明白だ。


(私が、レオナルドに庇わせたからだ。レオナルドを子供の姿にしちゃったのも、全部……)

「……フランチェスカおねーさん」

「!」


 幼い男の子になったレオナルドが、ひょこっと覗き込んできた。


「だいじょうぶだよ。げんき、だしてね」

「……レオナルド……」


 レオナルドは、子供になってもレオナルドだ。

 フランチェスカのことを心配し、元気づけてくれる。そのやさしさが嬉しくて、小さな友達に微笑みを返した。


「ありがとう。レオナルドが居てくれたら、いつでも元気でいられるよ」

「へへ。じゃあ、ずっとおねーさんと一緒にいるね?」

「うん!」

「……んなことより」


 不機嫌そうなダヴィードが、フランチェスカの肘を指差した。


「その怪我、いつまでも放置してんじゃねーよ。ハンカチ貸せ、せめて巻いて隠してやる」

「え? あ、ありがと……」


 そのままハンカチを取り出そうとしたフランチェスカを、可愛らしい声が止める。


「おにーさん」

「!」


 くちびるに微笑みを浮かべたレオナルドが、何処か薄暗い光を帯びたまなざしで、ダヴィードを見上げた。


「手当てなら、俺もおてつだいできるよ。……だけどおにーさんのこと、だれか呼んでるんじゃないかなあ?」

「…………」

(確かに。集音スキルで聞いた雰囲気だと、ソフィアさんがかなりダヴィードのことを探していたような……)


 はっとしたフランチェスカは、慌ててダヴィードに告げる。


「ダヴィード。お願い、レオナルドが小さな子になっちゃったことは、なるべく内緒にしてほしいの」

「ああ?」

「もちろん、ダヴィードからソフィアさんに黙っている訳にはいかないと思うんだけど……! だけどどうかソフィアさんにも、他の人には言わないでって口止め出来ないかな……!?」


 恐らく現在、会場では、ラニエーリ家が参加者の持ち物などを調査し始めているはずだ。


 輝石がすり替えられたのであれば、当然ながら犯人が本物を所持している。


 持ち物検査は厳密に管理された来場者リストをもとにするだろうが、その際にレオナルドが消えていれば、レオナルドが犯人だと疑われる事態になりかねない。

 だからこそ、レオナルドが子供の姿になったことは、ラニエーリ家のソフィアにだけは耳に入れておく必要があった。


(レオナルドがダヴィードの前で名乗ったときは、どきどきしたけど……結果として、ダヴィードたちに打ち明けるのは必要なことだったんだ)


 ダヴィードは舌打ちをし、馬車の扉に手を掛けた。


「言われなくとも喋るかよ、そんな面倒なことに関わるつもりねーからな。姉貴には言わねえと更に面倒だろうから言うが、あいつは他人にべらべら喋るような奴じゃない」

「っ、ありがとう……」


 心からほっとして胸を撫で下ろすと、ダヴィードが顔を顰めた。


「……アルディーニのことで、なんでお前がそこまで必死になるんだよ」

「レオナルドは親友なの。たったひとりの、ずっとずっと欲しかった友達で、すごく大事な宝物」


 けれどもフランチェスカがお礼を言ったのは、他にも理由がある。


「ありがとうって言いたい理由は、これだけじゃないよ。ダヴィードは今日、何度も私を助けようとしてくれたから」

「……は?」

「そのことが、すっごく嬉しかった。だから、もう一度言わせてね」


 フランチェスカは心からの感謝を込めて、ダヴィードに微笑んだ。


「ありがとう。ダヴィード」

「…………っ」


 その瞬間、再びダヴィードの耳が赤く染まる。


「………………変なやつ」

「え!? 嘘、どの辺りが!?」

「何もかもだよ」


 ダヴィードはそう言って扉を開け、馬車を降りた。フランチェスカが再び問いを重ねる前に、扉は閉ざされてしまう。


(行っちゃった……ひとまず今は、レオナルドのことが優先だ。シナリオでは、『スキルで子供の姿になった場合、本心を曝け出せば戻れる』ことになっていたけれど)


 フランチェスカは息を吐き、レオナルドの今後について思考を巡らせる。


(子供になったレオナルドに、自分が隠してた本心なんて分かるのかな? 私のこともダヴィードのことも知らないみたいだったし。ゲームの『私』はそんなことなかったはずなんだけど……)


 輝石がすり替わっていたことの他に、これもシナリオとの相違点になるのだろうか。


(ともかく、早くなんとかしてあげないと! こんな小さな男の子を不安にさせられない。レオナルドは私が守らなきゃ……)


 フランチェスカが自分を奮い立たせたそのとき、透き通った声が響いた。


「ずっと欲しかった友達、か」

「……え」


 隣に座った幼い子供が、大人びた雰囲気を纏っている。

 フランチェスカが目を丸くすると、先ほどまで天使のような笑顔だったはずのレオナルドが、悪魔的に妖艶な微笑みを浮かべているのだ。


「相変わらず熱烈だな、フランチェスカ。もちろん俺たちの友情を見せ付けるのに異論は無く、大歓迎なんだが」

「れ……レオナルド」


 まばたきをふたつ重ねたフランチェスカは、大きな声で叫んでしまう。


「中身は元のまんまなの!?」

「ははっ!」


 脚を組んでその膝に頬杖をついたレオナルドは、その目を眇めてフランチェスカを見上げた。


「……そうやって驚いている君の顔も、すごく可愛い」


 その微笑みは間違いなく、フランチェスカの知る普段のレオナルドだ。


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