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146 真実

【第3部2章】




『魔灯夜祭』という行事は確かに、仮の姿を装って偽り、嘘をつく祭りだといえるかもしれない。


(自分の性には合ってるって、レオナルドはそう言ってた。だけど)


 けれどもいくらなんだって、こんな状況は想定外だ。

 フランチェスカは今、ホールの前に停めていた馬車に戻った上で、その小さな男の子の様子を見ていた。


「レオナルド、大丈夫……?」

「……」


 名前を呼ぶ度に妙な気分だが、この子供は間違いなくレオナルドだ。

 小さな頭に小さな手、小さな膝小僧に小さな足。この姿になったときに着ていた子供服まで小さくて、大きいのは月の色をした瞳だけだった。


 子供になったレオナルドの身長は、フランチェスカの腰の位置よりも低い。

 何歳くらいなのかは分からないが、どう考えても前世でいう小学生よりは幼くて、『幼児』と呼べる年齢に思えた。


(ゲームでは私が小さな子供になる。その役割が、レオナルドに変わっちゃったんだ……)


 馬車の後部座席、フランチェスカの隣である窓際に座ったレオナルドは、小さな手を握っては開いている。


(着ている服が自動的に子供用に変わるのも、ゲームの私と一緒。大人の姿に戻れたときは、自動的に大人用のドレスに変わってたよね。ううん、こんな細かいところを思い出してる場合じゃないのは分かってるんだけど……)

「……?」


 フランチェスカの視線に気が付くと、幼い姿をしたレオナルドは、顔を上げてにこっと微笑んだ。


「……どうしたの? きれいなおねーさん!」

「ふわ……っ」


 あまりにも愛らしいその笑顔に、フランチェスカは後光の幻を見た。


「な、なんでもないよ、レオナルド。それより体は大丈夫? 何処か痛いところはない?」

「うん、ぼく、へいきだよ。おねーさんこそ怪我してる……」


 レオナルドがしゅんとして見下ろしたのは、フランチェスカの腕だ。

 先ほどレオナルドに庇われた際、咄嗟に体の位置を反転して木の幹に押し付けられた。そのとき木の肌で引っ掻いてしまったらしく、ささやかな擦り傷になっていたのだ。


「大丈夫! ちっとも痛くないよ。心配してくれてありがとう、レオナルド」

「でも、おねーさん、かわいそう。……おいで、俺がいい子いい子してあげる」

「ううう…………っ」


 あまりにも愛らしい振る舞いに、フランチェスカは顔を覆った。


「どうしよう……!! レオナルドがちっちゃくなって、天使になっちゃった……!!」

「ふふ、へんなの。かわいくて天使みたいなのは、おねーさんのほうなのに」


 おかしそうに笑って小首を傾げる仕草すら、見る者の左胸を締め付ける。

 そんなフランチェスカとレオナルドを見て、不機嫌そうに発言する青年がいた。


「――おい」

「あ!」


 フランチェスカははっとして、後部座席の左側に座った彼に謝罪する。


「ごめん、ダヴィード! レオナルドが可愛くて、ついつい……」

「…………」


 フランチェスカたちが乗っているこの馬車は、依然としてホール前の停留所に停めてある。

 そしてダヴィードが同じ車内にいるのは、レオナルドの発言がきっかけだ。


『……そのガキ、もしかして、アルディーニか?』


 数十分前、広大な庭の奥で鉢合わせたダヴィードには、レオナルドの変化を目撃されてしまった。

 フランチェスカは心底慌てたものの、その場で次に言葉を発したのは、他ならぬレオナルドだったのだ。


『……おにーさん』

(お兄さん!? そっか。レオナルド、子供になったから……!)


 舌足らずな声で喋るレオナルドは、にこりと可愛らしく微笑むと、ダヴィードに向かって小さな手を伸ばした。


『おれのこと、かたぐるまして?』

『…………』


 そうして心底嫌そうなダヴィードに、レオナルドのことを抱えてもらい、ひとまずフランチェスカの乗ってきた馬車に逃げ込んだのだ。


『おれの名前はレオナルドだよ。おねーさんは?』

『わ、私はフランチェスカ。レオナルドの…………と、友達!』


 フランチェスカは慌てつつ、レオナルドにそっと説明した。


『あのね、レオナルド。あなたの名前がレオナルドだっていうことは、私とこのお兄さん以外には秘密に出来るかな?』

『? うん!』

『良い子。偉いねレオナルド!』


 レオナルドが子供になってしまったことは、大っぴらにするべきではない。


(レオナルドは敵が多いもの。アルディーニ家の当主として、危険な人たちと日頃から駆け引きしてる……レオナルドが強過ぎるから手が出せなかった人たちが、この機会に命を狙ってきてもおかしくないんだ)


 だからこそ、この愛らしい子供がレオナルドであることは、隠し通さなければいけないはずだ。


(ダヴィードにはバレちゃったけど……どのみち隠し通せない。だってダヴィードのスキルは……)


 先ほどまでのやりとりを思い出していると、隣のダヴィードが不機嫌そうに言葉を続けた。


「アルディーニの言う通りだぞ。その見苦しい怪我、さっさと手当して隠しとけよ。悪化するだろうが」

「ありがとうダヴィード、でも平気だよ! 治癒スキルを持った人がうちにいるから、家に帰ればすぐ治せるの。それより……」


 フランチェスカは不自然にならないよう、それとなくダヴィードに切り出した。


「さっき、シャンデリアの火が消えて真っ暗になったけど。ミストレアルの輝石は大丈夫だった?」

「ああ?」

(……レオナルドの集音スキルについては内緒。輝石がすり替えられたことは、今の時点で知らないふりをしないといけない訳だけど)


 ダヴィードとレオナルドの間に座ったフランチェスカは、不自然にならないよう少しだけ、ダヴィードから遠ざかる形で身じろいだ。


(嘘をつき通せるかな。……なにしろダヴィードのスキルで一番特徴的なのは、『真実の姿を見抜く』スキル……)


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