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139 輝石


「君が社交の場に出ようとするなんて珍しい。ずっと避け続けて来たのに何故?」

(企み事があるってバレちゃってる! そうだよね、レオナルドだもんね……)


 現在のフランチェスカとレオナルドは、本当の敵である『黒幕』を探るための協力関係にある。


 とはいえ、お互いの秘密をすべて明かしている訳ではない。それは、黒幕が洗脳という悪質なスキルを持つためだ。


(どっちかが洗脳されたときに、手の内が黒幕に知られるのは本当にまずい。だから私が転生者で、ゲームのシナリオを知っていることは、レオナルドには伏せなきゃいけないのに……)


 そうすることがレオナルドを守ることにも繋がる。とはいえこれは、簡単なことではなかった。


(レオナルドが相手だと、私のちょっとした行動だけで、転生のことや『ゲーム』のことがバレちゃいそうなんだもん……!)


 親友の鋭さを内心で嘆きつつ、フランチェスカはレオナルドを見上げた。


(とはいえ今回の嘘は、レオナルドを誤魔化すためのものじゃない)


 どうか気付いてという意味を込め、ぱちんとウインクをする。するとレオナルドは少し目を丸くしたあと、分かっていると言いたげな笑みを浮かべた。


(そっか、レオナルドは分かってくれてる。リカルドやグラツィアーノを納得させるために、私が説明しやすいよう誘導したんだ)


 そのことに感謝しながらも、レオナルドに話しているふりをして続けた。


「だって流石に気になるよ、『ミストレアルの輝石』だもん! 十カ国ある同盟国で、五年ずつ順番に守護している宝石。聖夜の儀式にも使われる上に、全部の国がまだひとつの国だったころから伝わってる、大切な石なんでしょ?」

「うむ。国々の絆を象徴し、ひとつの国から分たれても友好は永遠であることの象徴として、同盟国を順に巡っているものだな」

「最後にこの国に来たのは五十年ぶり。だとしたら絶対に見たいじゃない? それに、少し前まで……」


 たっぷりの嘘の中に本心を込めて、フランチェスカは目を伏せる。


「『ミストレアルの輝石』は、ママの生まれた国にあったんだから」

「……お嬢」


 グラツィアーノが肩を竦め、やれやれと言った。


「ま、いいんじゃないっすか? 今回の夜会は当主も参加するから、当主も安心でしょうしね」

「ねえグラツィアーノ、パパはそろそろここに着くんだよね?」


 リカルドがこうして校門の前で待機しているのは、これからフランチェスカの父がやってきて、リカルドを同行させるからだ。


 なにしろ今回のお披露目には、同盟国からの賓客も訪れる。そんな中、リカルドは後継ぎという立場ではあるものの、まだ正式な当主ではない。


(ましてやリカルドのお父さんは、『黒幕』に洗脳されて投獄中。そんな状況で国賓との社交に放り出されるリカルドの後ろ盾がなさすぎる)


 だからフランチェスカの父は、そんなリカルドを『挨拶回り』に連れて行くのだ。


『あの男は実に馬鹿だったが。――息子のことくらいは、気に掛けてやっても良いだろう』


 父はなんでもないような顔で、けれども窓の外を眺めながら呟いていた。

 リカルドにそのことを話してはいないが、やはり恐縮しているようだ。


「……カルヴィーノ殿には、いくらお礼を申し上げても足りない次第だ」

「気にしないでいいと思うよ、リカルド。いつかリカルドが立派な当主になったら、パパにだってメリットがあるんだから平気!」


 そう言ってぽんぽんとリカルドの背を叩くと、リカルドはほっとしたように笑ってくれた。


「お前は実に、人の心を軽くする才覚に溢れているな」

「やった。褒められた!」

「よかったなー、フランチェスカ。それじゃあリカルドから離れようか」


 フランチェスカの肩を掴んだレオナルドに、べりっとリカルドから剥がされる。するとすぐさまグラツィアーノが、レオナルドからフランチェスカを遠ざけた。


「もうすぐ当主が到着するんで、お嬢にべたべたしないで貰えます?」

「娘思いのご当主さまのことだ。学院内で身分を偽っているフランチェスカに対して、親馬鹿を発揮することはないんじゃないか?」

「だから俺が校門の前で待機してたんすよ、あんたが当主の前でお嬢に接触しないように。あんたはお嬢の父親って振る舞いが出来ない当主の前で、妙な既成事実作るつもりだったんじゃないすか?」

(え、グラツィアーノそうだったの!? それに、レオナルドの妙な既成事実って一体……?)


 フランチェスカが不思議に思っていると、レオナルドは少しだけ憂いを含んだ微笑みを浮かべた。


「――それはしないさ。絶対に」

「!」


 グラツィアーノが目を丸くする。フランチェスカはやっぱり首を傾げるのだが、詳しく教えてもらえる気配は無い。


「んん……ともかく! 私とグラツィアーノはいつもの馬車で家に帰って、支度をしてからお披露目に行くんだけど。ふたりとも、今日は顔を隠す仮装はしない?」

「俺は海賊、リカルドは吸血鬼。魔灯夜祭のシーズンといえど、今日は初めての顔合わせも多いからな」

「じゃあ、会場で簡単に見付けられるね! ふたりとも似合いそう、見るの楽しみ!」

「フランチェスカは何を着るんだ?」


 レオナルドが少しわくわくしている。そんな彼に向かって、フランチェスカは胸を張った。


「ふふーん! 私は…………」

「………………」




***




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