表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/313

137 フラグ


(第三章では、美術品を巡る騒動の中で、幼い子供の姿になった『私』とダヴィードが一緒に行動する)


 しかしゲームのダヴィードは、最初はフランチェスカのことを疎み、置いていこうとした。


『ま、待ってくださいダヴィードさん……!』

『うるせー、ついてくんな。悪いが、俺は俺のやりたいように動かせてもらう』


 十七歳の男子学生であるダヴィードと、小さな幼児姿になったフランチェスカとでは、そもそも歩幅がまったく合わない。

 第三章の序盤では、フランチェスカがそうしたことで苦労するシーンが描かれていた。


『どうして俺が餓鬼の面倒を見なくちゃならねえんだよ。ただでさえ、厄介な事件に直面してるってのに……お前が元のサイズに戻りでもしない限り、俺には全くメリットがない』

『ご、ごめんなさい。……私も、戻り、たいのですが』


 子供の体には尺や体力が足りないばかりか、大きな問題がある。


 この世界でスキルの力が発現するのは、十歳になってからだ。

 つまり、十歳以下の幼い子供になってしまったフランチェスカは、スキルが一切使えなくなるのである。


 ゲームのフランチェスカも、弱くて頼りなくなった自分のことを持て余し、途方に暮れてしまっていた。


『……迷惑を掛けて、ごめんなさい……』

『……ちっ』


 ゲームのダヴィードは少々困ったような舌打ちのあと、小さなフランチェスカに告げるのだ。


『その泣き顔。美しさの欠片もねーな』

『ご、ごめんなさ……っ』

『来い。チビすけ』


 驚いたフランチェスカを前に、ダヴィードの台詞はこう続く。


『泣いている女を放っておくと、俺が姉貴に殺される。……手を繋いでやるから、泣くんじゃねーよ』

『……!!』


 ダヴィードと小さなフランチェスカが手を繋ぐ場面は、シナリオ内のスチルにもなっていた。

 こうしてゲームの第三章は、ダヴィードと小さなフランチェスカが、元に戻る方法ととある事件の真相を一緒に探す。


(だけど今回こそ、ゲームから大きく展開が変わるんじゃないかな? だって)


 校舎の外に出たフランチェスカは、希望を抱いて歩きながら胸を張った。


(――私、子供の姿から大人に戻る方法を、もう知ってるんだもの!)


 それこそが、ゲームのフランチェスカとの大きな違いだ。


(小さな子供に変えられてしまった『フランチェスカ』が元に戻る方法は、『真実の気持ちを曝け出す』こと。ゲームでは、突然裏社会の陰謀に巻き込まれた『私』が、自分の気持ちを溜め込んで限界になっちゃう。一章で絆を育むリカルドにも、お世話係として信頼出来るようになるグラツィアーノにも伝えられない)


 ゲームのフランチェスカはずっと、本当は怖がっていた。


 さびしかったし、逃げ出したかったようだ。

 第一章で人々が大勢おかしくなってしまったことも、第二章でグラツィアーノの父が死んだことも、それが自分を狙うレオナルドの所業であることも、本来なら耐え難い出来事だったのだ。


 それでも『フランチェスカ』は明るく振る舞い、真摯に事件へと向き合って、出会う人すべてにやさしさを注いだ。


 その裏側に隠し込んだ本音を誰かに曝け出し、素直に泣いてみせることこそが、『真実の姿』に戻る条件だったのだ。


(ふふふ。そもそも私……)


 金色の落ち葉が積もった中庭を歩きながら、フランチェスカは勝利の笑みを浮かべる。


(――この世界で、なんにも我慢してない!)


 握り込んだ両手を掲げ、誇らしげにしたい気持ちを堪えた。


(パパとは仲良しだし、グラツィアーノは頼れる弟分だし、リカルドとも信頼関係を築けてる! ラスボスだったはずのレオナルドとは親友になって、命を狙われることもないし……)


 第一にフランチェスカは、裏社会そのものをちっとも恐れていないのだ。


(もちろん、この世界にも懸念はある。――本当の黒幕、『クレスターニ』)


 それは、グラツィアーノの父であるサヴィーニ侯爵が、洗脳状態にある中で口にした名前だ。


 レオナルドが父と兄を殺した相手として追っている人物は、王都を大きな犯罪に巻き込んだ張本人でもある。


(だけど、クレスターニの存在があることで、私が何かを物凄く溜め込んでいることはない訳だし……)


 フランチェスカがこの黒幕に狙われる可能性も十分にあるが、周りには味方が大勢いて、ゲームのような不安に苛まれることはない。


(この世界で、そもそも子供にされないよう動くのは大前提。だけど万が一そうなったとしても、私はありったけの本心を包み隠さず話せばいい。……友達が欲しいとか、友達が欲しいとか、友達が欲しいとか!)


 きらきらと瞳を輝かせ、前向きに考えた。


(……そのはず、なのに)


 それでもやがてフランチェスカは、そっと俯く。


(どうしてこんなに胸騒ぎが、するんだろ……)


 フランチェスカは学んでいる。こうした悪い予感というものは、大体が当たってしまうのだ。


(絶対にフラグだ。こんなに安心安全な状況で嫌な予感がするなんて、何か起きちゃうに決まってる……!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやもう絶対ちいちゃなフランチェスカにレオナルドがドッキュンハートを鷲掴みですかね?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ