表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/310

133 さびしいを埋めるもの(第2部・完)


 彼はフランチェスカから少し身を離し、顔を見下ろしてくる。そうかと思えば目を眇め、無垢な子供のような無表情で、フランチェスカをじっと見つめた。


「……赤くなっている」

「だから、恥ずかしいんだってば!」


 本当に顔から火が出そうだ。するとレオナルドの美しい指が、火照った耳へと確かめるように触れる。


「俺の所為?」

「っ、う。……そうだよ、レオナルドの所為……」


 真っ赤になったまま恨みがましく見上げたら、レオナルドはなんだか幸せそうに笑った。


「――俺の可愛い、フランチェスカ」

「わ……!」


 そう言って身を屈め、同じようにフランチェスカの頬へとキスをくれる。

 その上でもう一度、フランチェスカのことを抱き締めるのだ。


「やっぱり、君も案外嘘つきだな」

「れ、レオナルド……?」

「『俺の望みは叶えない』と。そうやって、はっきり言ったことがあっただろう?」


 そう尋ねられて思い出す。出会ったばかりの頃、フランチェスカは学院で言い放ったのだ。


『私はたぶん、あなたの願いをひとつも叶えないよ。――そのことは、ちゃんと覚えていて』


 あのときは、レオナルドに利用されることばかりを警戒していた。だから伝えた言葉なのだが、レオナルドはそれを覚えていたらしい。


「けれどもそれは大きな嘘だ。……君はずっと、俺の願いを叶え続けてくれている」

「…………」


 そのことがレオナルドにとってどんな意味を持つのか、フランチェスカには分からない。

 けれどもいまは間違いなく、願いを叶えてあげたいと感じていた。自分よりずっと背の高い彼の頭を撫でながら、フランチェスカは尋ねる。


「さびしく、なくなった?」


 そうであればいいのにと、心から願う問い掛けだ。

 柔らかな黒髪に触れていると、なんだかとても落ち着いた。頬は相変わらず熱いのだが、こうしていること自体は心地が良い。


 とはいえフランチェスカが名残惜しくなってしまうのは、少々まずいような気がしていた。現にフランチェスカに甘えるレオナルドは、こうして我が儘を言ってみせる。


「……もっと離れがたくなって、さびしくなった」

「わああ、話が違う……!」


 そんなことを嘆きながらも、しばらくの間レオナルドのことをあやし続けるのだ。


「…………」


 フランチェスカを抱き締めたレオナルドが、目を伏せて何か考えているということを、このときはまるで気が付いていなかった。




***




 ラニエーリ家の女当主であるソフィア・パトリツィア・ラニエーリは、王都にある自身の屋敷でペンを走らせていた。


「――という訳でね。なかなか興味深いお嬢さんだったよ」


 執務机の向かいにいる青年にそう話しつつ、必要な書類へのサインを進めてゆく。


「アルディーニが気に入るのも分かるかもしれない。もっと一緒に過ごしてみたかったけれど、今はこのくらいにしておかないとね。忙しくもなる」


 今回の一件でラニエーリ家が買収することになったそれぞれの事業は、やり方次第でもっと美しく、大きく成長させられるはずだ。


「なんでもいいけどよ。あの森でここまでの騒動を起こさせて、信用問題に発展するんじゃねーのか?」

「サヴィーニ侯爵がすべて被ってくれたさ。誰がどう見てもうちは利用され、巻き込まれた被害者だ」


 ソフィアは最後の確認を終えると、ペンの先を拭って机に置いた。


「アルディーニ辺りは、怪しんでいるかもしれないけれどね」

「は。ラニエーリ家の女当主がこんな無能ぶりを発揮したんじゃあ、わざと問題を放置したように見えてもおかしくねーだろうな」


 彼の生意気な口ぶりに笑いながら、煙草に火を付けて味わう。


「あんた、あのお嬢さんに学院で会うことはあるのかい?」

「トロヴァートに? いいや」

「そう。それじゃあ新学期、接触するようによろしく頼んだよ」

「はあ?」



 あからさまに不機嫌な返事をされるが、反抗を許すつもりはない。


 ソフィアと同じ褐色の肌に、ミモザのような金色の髪を持つこの十七歳は、背丈こそ伸びて立派になった。

 精悍で涼しげな顔立ちには、常に険しい表情を浮かべている。不機嫌そうに眉間へと皺を寄せ、口調も乱暴なこの振る舞いは、見る人間によっては恐ろしくも感じるだろう。


 けれどもソフィアからしてみれば、彼はまだまだ青二才だ。


「当主の言うことが聞けないのかい? ダヴィード坊や」

「うるせーな。この、横暴姉貴」


 ソフィアの弟であるダヴィードは、ソファーで脚を組んでこちらを睨んだ。


「俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。アルディーニの婚約者だろうと、知ったことじゃねえ」

(さて)


 椅子の肘掛けに頬杖をつき、口紅を塗ったくちびるでソフィアは微笑む。


(これからが、実に楽しみじゃあないか)




【第2部・完】


【ご投票のお願い】

このラノが終わった直後ですが、現在ダ・ヴィンチさまの『今年いちばん良かった本』投票も開催中です!


★ルプなな

★追魔女

★悪虐聖女

★あくまな


の中でお好きな話がもしあれば、是非ともご投票よろしくお願いします!


https://ddnavi.com/bookoftheyear/


【作品リスト】


作者名 雨川透子


◆ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する


◆虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした


◆悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。


◆悪党一家の愛娘、転生先も乙女ゲームの極道令嬢でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白すぎてここまで一気に読み進めちゃいました! 最高です!!レオナルドカッコよすぎるし主人公も最高! まだ読める先がある事が幸せです!! 追いついちゃうのが怖いよー! この先もワクワクしながら読み進め…
[良い点] フランチェスカとレオナルド本間に可愛い!!!! ソフィアが!?気になる!!!
[気になる点] この姐さんが諸々の黒幕ですかね…? [一言] フランチェスカとレオナルドの幸せが邪魔されませんように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ