表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/309

104 そうやって確かめる



「……ごめんなさい、レオナルド」


 どれほど心配を掛けるのか、十分に想像はしていたつもりだ。それでも目の当たりにしてみれば、フランチェスカの想いなど浅かったのだとよく分かる。


「本当にごめん。きっと驚かせたし、必死に探してくれて…………わ!?」

「……動いてる」


 背中と腰に回された腕の力が、ぎゅうっとますます強まった。


「鼓動が鳴っている。体温もある……」


 レオナルドはひとつずつ言葉にしながら、フランチェスカの首筋に自身の額を擦り付ける。

 その仕草はまるで、小さな子供が甘えているかのようだった。


「レオナルド」

「…………」


 彼はそこでようやく体を離すと、フランチェスカの顔を覗き込む。

 無表情のまま、フランチェスカのくちびるに親指でそっと触れて、確かめるように言葉を紡いだ。


「……君がまだ、息をしている……」

「……っ」


 レオナルドはきっとこれまでに、それらを失った人たちをたくさん見てきたのだ。

 もう一度「ごめんなさい」と告げようとした。そんなフランチェスカの言葉は、スキル発動の光によって遮られる。


「え!?」


 土砂崩れを起こした崖の一部が、爆ぜるような音と共に吹き飛んだ。


「わ……」


 レオナルドは左手でフランチェスカを抱き寄せると、フランチェスカを自分の体で庇うようにしながら、その右手を崖に翳す。

 レオナルドのスキルによって抉れた穴は、雨が凌げる洞窟のようになっていた。


 更にスキル発動の光が走り、地面から岩が突き出して、まるで柱のように洞穴を補強する。

 レオナルドはフランチェスカの体を抱き上げ、その急造の洞窟に向かって歩き出した。


「れ、レオナルド!!」

「…………」


 レオナルドにしがみつきつつ、フランチェスカは慌てて彼を呼ぶ。けれどもレオナルドは無言のまま、洞窟に入る寸前に立ち止まりもせず、後ろの木に右手を翳した。


 スキルの光は炎となって、森の木に纏わり付く。恐らくレオナルドはこの木を燃やし、煙によって狼煙にするつもりなのだ。


(今のだけで何個スキルを使ったんだろう!? 絶対に、ものすごく珍しいスキルや強力なスキルの組み合わせ……!)


 先ほどあんなに脆く崩れた崖が、しっかりとした雨よけの洞穴になっている。けれども今は、それを口に出すような空気ではない。

 レオナルドはフランチェスカを地面に下ろすと、抱き締めた腕を離す前に、更にもうひとつスキルを使った。


「このスキル……」


 それが何かはすぐに思い当たる。光の玉がふわふわとフランチェスカの周りを漂い、擦り傷が出来ていた箇所などに触れていった。


(傷交換のスキルだ。レオナルドが、亡くなったお父さんから貰った……)


 小さな小さな擦り傷ばかりで、見た目で分かるような負傷などしていない。それなのにレオナルドはフランチェスカを回復するため、真っ先に傷を引き受けるスキルを使ってくれている。


「……勝手なことばかりしてごめん。だけどレオナルド、ひとつだけ教えて……」


 先ほどからずっと無言のレオナルドに、フランチェスカは恐る恐る尋ねる。


「ラニエーリ家のお姉さんは、怪我したりしていなかった……?」

「…………」


 フランチェスカを抱き締めていたレオナルドが、そこで大きく息を吐いた。


「無事に帰ったよ。……自分が死んでもおかしくなかった状況下で、それが一番の心配ごとか」

「お、怒るよね。危ないことして心配も掛けて、ごめんなさい……」

「……」


 レオナルドは、フランチェスカの濡れた髪をそっと撫でて言う。


「君に怒ってなんかいないよ」

「でも……」

「俺がいま腹を立てているのは、君を襲った連中や崩れてきた崖に対して」

「が、崖?」

「そして何よりも、みすみす危険な状況を許した自分にだ。……フランチェスカを喪った世界に、なんの価値もありはしないのに」


 ぎゅうっと抱き締めてくる力は弱い。

 けれどもそれは、フランチェスカに縋り付いて懇願するかのような、そんな切実さを帯びたものだ。




「……俺の傍から居なくなる気なら、せめて、俺を殺してからにしてくれ……」

「……っ」




 祈るようにそう告げられて、フランチェスカはレオナルドをおんなじように抱き締め返した。


「居なくならない。約束する」

「……どうかな」


 レオナルドは小さく笑い、恐らくはわざと意地の悪い言い方をした。


「君はこんなとき、案外嘘つきだ」

「そう知ってても、死なないって信じて」


 ゲームの結末を迎えない限り、フランチェスカがこのシナリオから降ろされることはない。


 それを説明したところで、レオナルドはきっと心配を止めないような気がした。だから結果として、根拠のない断言になってしまう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 無表情なのが怖すぎる…のに、フランチェスカの無事を確認して必死に安心を得ているように、安堵しているように見えて、心臓がぎゅーっとなったよ。ふだん心が読めない人が見せる本心の片鱗を見ると、こ…
[一言] 何かもう大爆発(気持ちが)!!!!!(*ノ■`*)・゜・。
[一言] レオナルドの気持ちが痛いほど伝わってきて、心がギュッと掴まれたような気持ちになりました。 大事な家族を失ったレオナルドのことを思うと切ないです。 続きを拝読させて頂くのを楽しみにしておりま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ