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99 隠されたもの(100話は目次の次ページ)

「それに、お前は――」


 そのとき、リカルドとレオナルドの視線が重なったような気がした。


「ん?」

「……」


 レオナルドがへらっとした笑みを浮かべ、リカルドはどこか苦い顔をする。フランチェスカがそれを不思議に思っていると、レオナルドは椅子の背凭れに背を預けた。


「殺し屋のほうの調査は芳しくないが、多少なら調べられたこともある」


 そう言って、内ポケットからとあるものを取り出す。リカルドはそれを見て、怪訝そうに眉根を寄せた。


「万年筆か?」


 黒い軸に金色の装飾が施された、シンプルで上品なデザインの万年筆だ。レオナルドがくるくると指で回して弄ぶのを、リカルドとグラツィアーノは怪訝そうに眺めている。


「一体それがなんだというんだ」

「フランチェスカ。君はどう思う?」

「これ? うーんと」


 レオナルドから万年筆を受け取ったフランチェスカは、迷わずそのキャップを外す。

 とはいっても、このまま書き物をする訳ではない。ペン先のついた首軸を持ち、胴軸を回して取り外すと、空洞になっている軸の中を覗き込んだ。


「あ。やっぱり何か入ってる」

「…………」


 あっさり言ったフランチェスカを、リカルドが絶句して見詰める。フランチェスカはそれに気付かず、片目を瞑って望遠鏡のように胴軸を観察した。


「これ、筒状に丸めた紙だね。とんとんしたら出てくるかな?」

「な……何故すぐにそれが分かったんだ?」

「?」


 リカルドに尋ねられ、フランチェスカは首を傾げた。


「万年筆を渡されたら、軸の中に秘密が隠されてるって疑うものじゃないの?」

「…………」

「え!? 違う!?」


 雄弁な沈黙に動揺すれば、レオナルドが心底おかしそうに腹を抱えた。


「ははっ、最高だフランチェスカ! さすがはカルヴィーノのひとり娘、裏社会のやり方を多種多様に把握している」

「いや、少なくとも俺はそんな場所疑ったことないっすけど。お嬢って本当に時々、どっから得たのか分かんない知識持ってますよね」

(ぎくう……!!)


 グラツィアーノの尤もな疑問に、フランチェスカは目を逸らした。

 五大ファミリーは裏社会で生きる悪党だが、表向きは国王の配下についている貴族だ。必要悪の大義名分があるからこそ、後ろ暗いことも多くなく、何かを入念に隠すことは少ない。


(なんとなく堂々としている今世と違って、前世は日陰の存在だったから……!)


 フランチェスカの祖父が率いる組でも、薬物などは禁じられていたとはいえ、それでも警察の目から隠したいものは沢山あったようだ。

 フランチェスカは遠ざけられ、どういったものがボールペンなどの軸の中に隠されていたのかは分からなかったが、隠し場所になっていること自体は察せられた。


「っ、でも! こうやってキャップが閉められる筒なんてほら、絶好の隠し場所じゃないかな!?」

「…………」

「わあん、レオナルド!!」


 リカルドとグラツィアーノの同意が得られず、レオナルドに助けを求めた。

 くつくつと喉を鳴らして笑うレオナルドは、フランチェスカから受け取った万年筆から紙を取り出す。


「まあ、それほど厳重に隠すようなものでもないんだがな。同じ森の中にいる相手の悪口だから、うっかり見せて傷付けないようにと思って」


 レオナルドが広げたその紙には、小さな文字で書かれた文章が敷き詰められていた。


「これ……」


 最初に目に飛び込んできた文字に、フランチェスカは顔を顰める。


『1652年5月某日。サヴィーニ家からラニエーリ家に殺人依頼、ならびにその事実の隠蔽の痕跡あり』


 そこに書かれているのは、今からおおよそ九十年ほど前の年数だった。


『1654年9月某日。サヴィーニ家の貿易の競争相手となり得る伯爵家で、不審火による火災が発生。一家全員死亡。サヴィーニ家の関与が疑われる』

『1655年2月某日。サヴィーニ家と同分野の商品を扱う商人が、商船の沈没事故により死亡』

『1655年3月某日。先述の沈没事故で使われていた船はサヴィーニ家所有のもの。サヴィーニ家には沈没に伴い、多額の保険金が支払われる』


 この調子で、嫌な事件が立て続けに並べられているようだ。

 どうやら年代順らしく、フランチェスカが読んだ部分の前後にも、数十年に渡って同じような情報が記されている。


「『1729年2月某日。サヴィーニ家の跡継ぎとされていた長男が死亡、毒殺の可能性あり』だって。すごいよな」

「レオナルド。これ……」

「俺たちが守るべき侯爵閣下の家が、犯罪めいた真似をしては揉み消してきたという、その膨大な歴史の記録だ」


 組み立て直した万年筆を、レオナルドは先ほどのように指で回す。


「サヴィーニ家は表社会の住人でありながら、裏社会すれすれの真似をして事業を広げてきた。……そりゃ、殺し屋に狙われる訳だよな?」

「……」


 月色をしたレオナルドのその瞳は、口を噤んでいるグラツィアーノに向けられていた。




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