哀にまみれた獣
悲しい獣は静かにその命を絶やす。
そんな小さな噂がこの幽世でされていた。
「そんなもの、いるはずがない」と嫌悪をうっすら醸し出す者も、「そんなかわいそうな獣がいるのか」と憐みの念を持つ者もいた。
しかし、その中には「見世物にすれば金持ちになれるのでは」と、みにくい野望を持つ者もいる。
しかしそれはしょせん小さな噂。
時代の移り変わる前に、噂は掻き消えてしまった。
昔々、あるところに小さな獣が居りました。
その獣は神と崇め奉られ、愛にまみれて居りました。
国のどこを歩こうとも、「神様」と笑いかけられ、供物をもらうほどに人と仲が良く、愛されておりました。
しかし、人は時代の移り変わりによって考えが変わる生き物です。
そのため、小さな獣を怖がる人の子が出始めました。無知ゆえの、恐怖でした。
「怖くないよ」「私は神様だ。何も心配はない」
そう小さな獣が人の子に伝えると、人の子の感情の堤防が破壊され、涙をボロボロと流しながら、恐怖を伝える声を上げたのです。
人は怒りました。
自分たちの小さく弱き子を攻撃されたと勘違いを起こしたらです。
小さな獣は逃げました。その小さな体躯を駆使し、人の攻撃を避け、人の入れない小さな洞窟に逃げ込んだのです。
「どうして、どうしてなんだ」
「昔はあんなにも仲睦まじく支えあってきたというのに」
「人は私を裏切ったのか」
「いや、違うはずだ」
「きっと、きっといるはず」
「昔のように、私が何もしてないと、善い神だと祭ってくれる人がいるはずだ」
そして小さな獣は旅を始めました。
自分を見てくれる人間を探し求めて
しかし、小さき獣の味方に付く人はいませんでした。
そして、小さな獣は知りました
『そうか。つまり、これは私の独りよがりか』
そうして小さな獣は、哀にぬれました。
人の哀をかぶるようになり、負を引き付けるようになり
__やがて、小さな獣は、哀にまみれ、邪に堕ちた
なぁんて、そんなお話
あるわけないのにね